リベンジへん 続き
峠の道は頂上で終わりではない。
その先まだ続く。といっても上りが継続するのではなく、今度は下り道。
前回は来た道を戻ったが、今回はそのまま走り続けて下り、帰還することに。
上ってきた道とは一転してこちらの道は狭く、そして所々に砂、それだけならまだマシで大きな石、さらには道幅いっぱいで走行するダンプ。
そんな道を慎重にKOGAさんと下っていくと何となく見覚えのある道へと。
「やったね」
と、ここでKOGAさんからのお言葉が。
「はい。……でも、まあ遅かったですけど」
きちんとサイコンで計ったわけではないけど、僕とKOGAさんが峠を上りきるのに要したタイムは、速い人の二倍近い時間。
峠を上るという目標は達成できて、それ自体は大変喜ばしい、持った雑な言い方をすればすんげーうれしい、のがここまで下ってくる間にそれだけではちょっと物足りないような、もっと早く上ることも可能だったのではという反省のようなものが。
「でもまあ、最初は失敗して足を着いたのが、今回は着かずに上れた。それだけでも大きな躍進よ」
それは確かにKOGAさんの言う通り。だが、前述したようにやはりもっと速く、KOGAさんのポテンシャルと発揮したような走りをしないと思ってしまう。
「そんなに反省しなくても。確かにちょっと遅かったけど、君はまだ何回も変身できるだけの余地があるんだから」
「変身?」
「そう。今回は一回目の変身を遂げて成功したでしょ。だから、何回も変身をし続けたらもっと速くなる可能性が」
KOGAさんの言う変身というものがおぼろげながら理解できた。
前回の失敗を反省して、今回はレーパンを着用して臨んだ。
これによって動きやすさと軽さを得ることができて、前回失敗したことを成功することが。
しかし、それ以上にもっと恩恵のようなものがあったと思う。これは僕の推論で、そこに科学的な根拠というものが全くないとまではいわないけどそれでも乏しい、だがそれが大きな意味合いのようなものがあったのではないだろうかと想像、いや妄想。
靴はともかくとして、詳しくない人が見たら一端のロード乗りの格好をしていた。地位が人を作る、ではないが外見が影響を多少は及ぼすと思う。今回の僕もまさにそれであった。こんな服装で恥ずかしい行い、前回のように途中で足を着く、はしたくない。情けない、無様な姿を晒したくない、そんな気持ちがあり、それが後押しのようなものをしたんじゃないかと。
「ああ、それはあるかもね。精神的なことが結構重要だからね」
KOGAさんが僕のこの妄想じみた考えに同意してくれた。そして、
「でもさ、さっきも言ったけどまだ物理的に速くなる可能性が君にはたくさん残されているからね。ホイールとか、私の軽量化とかあるけど、まずはシューズだね」
KOGAさんに言われた通り僕はまだスニーカーを履いていた。
「スニーカーじゃ絶対に駄目というわけじゃないけど、専用のシューズだとソールが硬めだから踏む時の力が逃げにくくなってロスが少なくなるからね」
「たしかに」
そんなことを書いてあるネット記事を読んだ記憶が。
「後はそれから、踏み外すということも滅多に起きないからね」
「ああー」
以前思い切りペダルを踏みこもうとして瞬間に足がペダルから滑り落ちてこけそうになったことが。
幸い発進時であったから大きな怪我をするようなことはなかったが、それでもペダルを脛にぶつけてしまい、ちょっと痛かった。
それにさっきの下りでもちょっと危ない場面もあったし。
「だから必要なのよ」
「そうですね……じゃあ検討してみます」
KOGAさんを購入した当初から何時かは着用しようとは考えていた。だからこそ、ペダルは片面SPD対応のものを。
しかしながら半年以上走っていて、もしかしたら必要ないのかもと思っていた。
けど、これから先は必要になるかも。
「そうですね、じゃあ前向きに考えてみます」




