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リベンジへん


 僕とKOGAさんは再びあの峠に挑むことに。

 そのための準備と練習はしっかり、十分とは言えないかもしれないけど、それでも行ってきたつもりであった。

 が、いざ本番となるとどうなるか分からないのが世の常。

 KOGAさんの「がんばれー。リベンジよ」という声に背中を押され、ついでに追い風に押されながらあの峠へと。

 峠に着くなり、即リベンジと相成ったわけではなかった。

 ここに来るまでにはそれなりの距離がある、ということはその分だけのカロリーを消費していることに。

 前回同様にまずはカロリー補給を。

 実は走行中にも齧っていたクリームパンを頬張る。

 食べてすぐエネルギーに変換されるということはない。この行為はもしかしたら意味のないものになるかもしれないが、まあ気休めみたいな、しかし気は持ちようとも言うから無意味というわけではない。ロードバイクという乗り物は精神力の乗りもの、気力なくなると連動するかのようにパフォーマンスも低下する。

 万全ということはないけど、それでも可能なかぎりできることは。

 上り始める。

 前回脚が重たくなるまでアウターで踏んでいた。それを踏まえて、そしてこれまたKOGAさんから指導されて、今回は上り始めからインナーギアで。

 まだ傾斜は緩いのでアウターで踏み込んで前に進みたいような心境に駆られ、何度となく左指がシフターへと伸びそうになるが、その都度KOGAさんに「焦らないの」と注意されてしまう。

 インナーミドルで軽くペダルを回しながら、絶対に無理をしないように、飛ばし過ぎないように注意しながら。

 あの時よりも時間をかけて、アウターギアからインナーギアへと落として地点にまで。 

 あの時はインナーに落としてすぐにリアのギアも落とした、落とし続け、あっという間に一番軽いギアになっていた。

 だが、今回はまだまだギアが余っている。

「調子いいんじゃないの」

 と、KOGAさんに言われる。そんな気がしないでもないないけど同意はしなかった。というのも前回は調子が良いと思っていたのがすぐに反転してしまったから。この先いつまで調子が良いのが続くのか分らない。 

 全行程に半分に差し掛かる。

 峠は九十九折に。

 失敗はしたが一度は通った道、十全に把握はしていないけどなんとなく分かる。

 この分かるというのが意外と重要であった。

 知らないということは心理的に大きな負担が。そして心の不調は体にも表れてしまう。

「ほら、見て見て凄い遠くまで見えるよ」

 KOGAさんの声が。

 本当に遠くまでよく見える。前回失敗の際にはずっと下を見ながら走っていたのでこの景色を見ることができなかった。

「ここだよね、前回脚着いちゃったの」

 たしかにここだ。あの時はもうヘトヘトでKOGAさんの言葉を聞けるだけの余裕なんか皆無だったけど、今回は全然楽勝、まだギアが余っている状態でここまで上ってこれた。

「ねえねえ、アレしないの? テルの真似」

 KOGAさんが言っているのは某自転車漫画の主人公のこと。彼のとあるシーンを真似しろと囃し立てる。

「無理ですよ」

 脳内で返事もできるけど言葉で。

 この無理というのは少し前に楽勝と言ったけど、本当はもう限界寸前でそんなことを体力的余裕なんてものは全くないというようなことではなく、

「ここには木はありませんから」

 そのシーンでは大木に右腕を叩きつける。この峠道沿いにはそんな木なんか存在し、あるのはコンクリートで固められた法面(のりめん)。それにもし仮に丁度良い木があったとしても日本の道交法上右手では叩くことは不可能。

 そんな軽口をたたく余裕を持ちながら上り続ける。

「あと少し、頑張れ」

 まだ先は見えないが、サイコンの数字で判断するともうそろそろ峠のてっぺん。

 ちょっと傾斜のきつくなっているコーナーをダンシングで抜けて、そのまま立ち漕ぎ状態で。

 そのままゴールを迎える予定だったけど、少し計算が違って、あと一つ折れないといけなかった。が、ダンシングを維持するのは第二四頭筋への負担が大きかったので一度腰を降ろしてシッティングに移行。同時にまだ残っている最後の一枚、一番軽いギアへとシフトダウン。

 前回は失敗したけど、今回は足を着くことなく最後まで上りきることができた。

 リベンジを果たすことに成功。

 まあ、もっとも速い人の二倍の時間をかけての走行だったけど、それでも目標を達成できたことだけは間違いない。



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