サイクルウェアへん 下
峠挑戦から数日後、僕はあのサイクルジャージを買った自転車チェーン店でサイクルパンツ、レーパンを購入。
今回もまたあれこれとサイズ選びに苦戦したが、店員さんのアドバイスをもらい無事購入することが、しかも今回もかなり格安で手に入れることが。
新しい装備でKOGAさんに跨り再挑戦と……いうことはなかった。
というのも、買ったはいいがすぐにそれを試すということをしなかった。
これは買ったもののやはり外で穿くのが恥ずかしくて箪笥の奥底に封印してしまったから、というわけではなく単の季節が悪かったからである。
水無月なのに、雨の多い、梅雨の六月。
KOGAさんと一緒に走りに行く機会がほとんどない。
雨の中でも走るという人も中に入るかもしれないが、僕としては好き好んでそんな悪条件の中をリスクを冒して走行したいとは思わないし、それにKOGAさんもあまり濡れたくないという趣旨の発言を。
ということで晴れの日を待って、そこで晴れてレーパンデビューを画策していた。
数日後、休みと好天が上手く重なる。
早速試すことに。
恥ずかしさを完全に払しょくして臨んだわけではないが、それでも購入してから何回か自室で穿いて鏡でその姿を見ていたので、以前より羞恥心はなかった。
KOGAさんに跨り走り始めてすぐにこれまでの格好との違いに気が付いた。
こう書くと、経験者の方や知識のある方はレーパンのパッドのよってお尻の痛みが軽減されたと思われるかもしれないが、もちろんそれもあるのだが、それ以上に僕が感じたのは別の点である。
まず一つ目、これは膝。これまでストレッチジーンズを着用してKOGAさんに乗車していた。その際常に膝下まで裾を折っていたのだが、ジーンズが膝を覆っていることでその動きを若干ではあるが阻害していた、邪魔になっていた。
膝を出して走行すると風が立って最初は少し冷たいような気もしたけど、その感覚はすぐになくなり、それよりも布に束縛されることなく自由に動かせる喜びのようなものが。
二つ目は股関節。ここは流石に露出するわけにはいかないが、これでよりも格段に動きやすくなる、ペダリングがスムーズに。これまではジーンズにパンツ、そして一度だけどスパッツと、動き、回転の邪魔になるものが二枚も三枚も。
そして最後、三つ目。これは軽さ。
ロードバイクの世界において軽さとはある意味正義のようものである。1グラムでも軽くしようと技術とお金と労力が費やされている。これは機材、自転車だけの話ではなく乗り手もいえることであった。体重はもちろんのこと、着ている服の重さもレースに勝つためには大事な要素である。
僕はKOGAさんと一緒にレースに出るような気もないし、そもそもそんな実力もない。だけど、そんな僕が軽さが恩恵であるというのは、僕のとある肉体的事情があったからであった。
これまでとくに描写はしてこなかったが、僕は昔から腰痛持ちであった。ギックリ腰を十代の終わりに経験して以降慢性的にとまではいかないが、それでも腰の痛み、というよりも重さに苛まれてきた。疲れが出るとそれが腰の重さになって表れる。今はそうではないが、昔軽作業のアルバイトをしていた時なんかは疲れが溜まってくるとズボンの重さでさえ、それが鉛の重さのように感じそこから痛みへと繋がっていくといった具合に。
幸いにしてKOGAさんに乗り始めて以降は酷い腰痛に苦しめられるということはないが、苦い記憶はまだ僕の中にあった。
だから、軽いというのは大事なことである。
「どう、走りやすいでしょ」
「はい」
KOGAさんの言葉に素直に同意を。
大半の自転車乗りがネット上で、レーパンについて揶揄されていても穿き続けている理由をその身をもって知った。
これならもっと遠くに、もっと速く、そしてあの峠も越えられるかもしれないと思った。
と、同時に少し後悔を。これならばもっと早くに購入して着用しておくべきだった、と。
しかし全部が全部良かったというわけではない。
レーパンを着用することのよって生まれてしまうこともあった。




