サイクルウェアへん 上
サイクルウェアを買いに行く話をしたいと思う。
が、その前に僕の体とこれまでの服の購入歴について軽く触れておきたい。
子供の頃から特にその手のものに興味はなく、母親が買ってきたものをそのまま着ているような生活を二十歳過ぎまで行ってきた。
自分で服を買えるようなってからはなるだけ自分で買いに行くのだが、いつも困ってしまうことが。それは服の種類デザインについてアレコレと悩むということではなく、そもそもどれが自分に似合うのか把握していないからそれ以前の問題なのだが、いつも悩んでしまうのはサイズ。
自分でいうのものなんだが、僕は手足が長い。こう書くとモデル体型のように錯覚させてしまうかもしれないが実情はさに非ず、姿勢が悪くそれが影響してなのかお腹も少し出ている胃下垂ぎみ、せっかく手足を長く産んでもらったというのにそのシルエットはまるで餓鬼のよう。こんな体系だから胸回り、胴回りで服を選ぶと袖が短くなり、袖の長さで選ぶと胸回りが余るというような始末であった。
だから買うときは、必ず試着をするように心掛けていた。
しかしながらこの試着をいう行為を僕は苦手をしていた。店員に声をかけて断りを入れることに何となく罪悪のようなものを感じてしまうし、何よりも袖を通してしまったら絶対に買わないといういけないというようなある種強迫観念めいたものがあったからだった。
ならば、ネット通販で購入をと思われるかもしれないが、先にも述べたようにサイズ選びという問題があり、フィットしていれば問題ないのかもしれないが、大き過ぎたり反対に小さ過ぎた場合の返品という作業が億劫というか面倒臭いように思えて、二の足を踏んでいたからだった。
こんな風に、KOGAさんに乗るための服を買いに行かないという考えは頭の中にあってもなかなか行動に移せずに、それ故にとある後悔を、冬の間に夏用のサイクルジャージを特価で購入できず、してしまい少々情けない思いをしていたのであった。
だがしかし、何時までもその後悔を引きずっていても仕方がない。GWに差し掛かり、リュックを背負っての走行はちょっとばかしキツイものに。
一念発起をして、近くの自転車チェーン店へ。
その店先にセール品のサイクルジャージが。
形としてはかなり古いもの。最先端の、空力性能を徹底的に追求したスキンスーツや、主流のフルジップのオーソドックスなジャージではなく。一見ポロシャツにも見えるようなハーフジップのサイクルジャージ。
それが店頭のハンガーに吊るされ並んでいた。
サイクルジャージは定価で買うと結構するもの。そしてこの段階での僕は実用かもしれないとは感じてはいるものの、果たして僕に本当になのかという疑問も内心抱いていた。だから、最初から高価な買い物はせずに安物で様子を窺う、そして本当に必要だと悟った時に良い物を。
というわけで、ここから最初のウェアを選ぶことに。
といっても選ぶのは色とサイズ。
色は無難の黒で、サイズは試着をせずにLサイズを。
服を書くときは試着をすると書いたが、この時それを行わなかったのは、セール品を試着するが気が引けてしまうということと、もう一つ、それはたとえサイズが合わないものであったとしても後悔しないくらいに安い金額、さらにもう一つ、KOGAさんに乗る時に仮に適していなかったとしても普段着として着られるかもしれないという算段があったからだった。
サイクルジャージの特徴は以前にも書いたと思うが、もしかしたら記憶違いの可能性もあるのでもう一度記しておきたいと思う。
まずは何と言っても背中のポケット。背中と書いたが実際には腰の辺りにポケットが三つ、大体、ついておりそこに補給食とか工具、それから財布、そしてここ最近では携帯を。
二つ目は、これはサイクルジャージに限ったことではない、スポーツウェア全般に終えることかもしれないが速乾性と伸縮性。
そして三つ目、これは着用してしばらくしてから気が付いたことなのだが、前と後ろの長さが違う。前身頃はやや短く、後ろ見頃は長く。これはロードバイクの乗車姿勢、前傾であるから前はそこまで布を必要とせず、反対に後ろ、背中側は普通の丈であると腰を曲げることによって肌が露出してしまう。これが若い女の子だったら、パンツの少々見えて後ろ入り人間は少しうれしいハプニングかもしれないが、人によってはおじさんに分類に差し掛かった男のパンツがチラリと見えたところで誰も喜ばないであろう。
ちょっと脱線してしまった。
さてサイクルジャージを着ての初のKOGAさんとのライドはこれまでのよりも快適であったのだが、問題点も同時に噴出。
といっても些細なことなのだが、Lサイズだと大きすぎた。
普通の服ならば少々大きくても問題はないのだが、自転車、ことにロードバイクにおいてはこの大きさ、ダボつきというのがちょっとばかし厄介な問題を含むことに。
ゆっくりとのんびり走る分には全然問題ないのだが、スピードを出すと、具体的には28㎞/hを超えると空気抵抗が大きくなっていく、フィットしていな服だと、袖とか、裾、また胸胴周りっている布が、ヒラヒラとしてそれが余計な空気抵抗を生み出してしまう。
有り余るパワーでKOGAさんのペダルを回すことができたのであれば、この程度の抵抗は全く問題ないのだが、僕のような貧脚では追い風ならともかく、向かい風の場合かなりのパワーロスに。
只でさえ非力なのに、ここで余計な負荷をかけてしまうことに。
「もうワンサイズ小さいのにしたほうが良いわよ」
と、KOGAさんも助言を。
これに素直に従うことに。失敗だったのはサイズ選び、高価なウェアに比べれば僕が購入したのはかなりレベルの落ちる品だが、それでもこれまでのように普通の服でリュックを背負って走行するよりは格段に走りやすい。
そして安価である。
翌日仕事前にあの店に。店頭に吊るされている中からMMサイズのものを。もしかしたらSでも行けるのではとふと頭の中にそんな考えもよぎったけど、例え着れたとしてもサイクルウェアは前身頃が短いので臍丸出しとまではいかなくともKOGAさんに乗っていない時にはかなり間抜けな姿になってしまかもしれないと想像し、MサイズでLサイズとは異なる色のを。
これで正解だった。
あれから色々と経験を積み、普通のサイクルジャージを着るようになってからもこの時購入したサイクルウェアは短い距離を走る時などに着ているくらいに。




