トルクへん
股擦れの痛みが治まった頃、100キロ走破から数日後、僕は再びKOGAさんに乗車。
翌日は流石にちょっと無理だったけど、それでも三日目には筋肉痛もなかったから極短い距離ならば走ることも可能であったのだが、KOGAさんから、
「無理しないで休んどきなさい」
という言葉を頂戴し、しばし休息を。
さて乗車を再開した際に、
「擦れて傷になってしまったんだから、今日は重めのギアでゆっくりと走りなさい」
という助言を。
確かに日常生活では気にはならなくなったが、自転車を漕ぐという動作、擦れた個所がサドルと少し当たるから、なるだけその回数を減らすほうが良いのかもしれない、早い回転で傷がまたぶり返してしまったら元の木阿弥、本末転倒である。
しかしながら一つ問題が。
KOGAさんに初めて乗った日、彼女に言われて一番重たいギアでペダルを踏んだ。それ以降も時折その練習をしてはいるが、未だに重たいギアを回すことはできていない。
それを正直に告げると「まあその練習の延長とかじゃないから、股擦の対策だから。本当言うと乗らないのが一番だけど、それをしたら君がせっかく私に慣れてきたのが元に近いような状態に戻ってしまうし、それに私も走らせてもらわないと寂しいから」と。
又も確かのその通り。
傷が癒えるのを待っていたら再びKOGAさんに乗れる日がいつ来るのか分からない。
といっても最初から重たいギアで走るわけじゃない。家を出てしばらくは軽いギアで走らせる。いきなり全力で動くと体が悲鳴を上げてしまう年齢に悲しいけれど差し掛かってしまっている。
ゆっくりと、そして股擦した個所に気をつかいながらペダルを回しウォーミングアップ。
そのまま橋へと差し掛かり、川を越えて隣県へと。
ここから先は交通量は多いが、その分車幅が広い。以前はこの県で走ることに対しては危険性のようなものを感じていて、ある種尻込みのようものをし、KOGAさんと一緒には踏み入らないようにしようと考えていたのだが、休養中にとある事情でその件へと車で行くことになり、運転しながら自転車目線で見てみる、すると存外道幅に余裕があり、さらには車道外側線も広い。
走りやすいのではと考えた。そしてその国道から少し外れると埋め立て地を利用した田畑が。
ここの農道も走りやすそうという目安を立てて、今回走ることに。
埋立地だからKOGAさんの提案にも合致する。
農道でいつもよりも重めのギア、具体的にはフロントはアウターでリアは17T。
いつもよりも回転の遅いペダリングにもかかわらず、サイコンの表示は30を軽く超える。
重たいギア、トルクをかけて走るとKOGAさんはこんなにも速く走ることができるのか。
ちょっと気持ち良い。
いつも以上の速度で風を切るのはもちろんだが、ギアがかかる感覚というか、トルクがかかっているというか、ペダルを踏み込む瞬間に微かに感じる抵抗のようなのが少しだけ心地良いような気が。
でも、この程度では満足できない。
まだまだペダルの回転は遅い、この重たいギアでいつも以上にペダルを回せるようになればもっと早い速度走れる、巡行ができるはず。
そうなればきっとKOGAさんにも満足してもらえるはず。
そのためには精進しないと。
しかしながらこの練習でその境地にまで辿り着けるのであろうか?
僕には足りないものが多すぎた。経験はもちろんだが、それ以上に筋力。けど、どうやって増やすのだろう? 昔から全然そんなものが付かなかった。脂肪がないからだろうか? だからいくら筋トレをしても、といっても僅かなであるが、成果がないのは筋肉になるための土台がないからか。となると、体重を増やさないといけないのか。けど、あまり増やし過ぎるのもな。自転車にとって体重があるのはあまり良くないことというネット情報を見たこともあるし。
そんなことを考えながらKOGAさんと走っていたら、突然お腹が空いてきた。別にハンガーノックになるというような深刻な状況ではないが、それでもいつよりも早めにお腹が空いたのは事実。
「ああ、重たいギアで走ったからいつよりも体力というか筋力を使ったのね」
KOGAさんが。
この声を聞き、納得を。いつも走る時間よりも短いけど、いつも以上に体力と筋力を使用すればガス欠になってしまうのは当然。
「まあ、病み上がり、というか怪我上がりだから今日はこの辺にしときましょう」




