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復路? へん 4


 信号が青になる。

 気を取り直して再スタート。

 ゼロ発進でちょっと長めの橋へと差し掛かり、それを越えて坂へと。

 山の中の坂、アップダウンを繰り返した坂よりも緩やかな、なだらかな傾斜の上りであった。

 それなのに僕の脚は些か重たいような、心なしか思うように動かないような気がした。

 何故だろうか? 下りで十分に脚を休めたはずなのに。疑問を持ちながらペダルを回すが、KOGAさんは思ったよりも前へと進んではくれない。

「ああ、やっぱりちょっと脚にきちゃったか」

 KOGAさんの声が。

 この声を聞いた瞬間、僕は思い違いをしていたことを悟った。

 坂を下る時KOGAさんは「あ、脚……」と言った。それを僕は足と誤解した。

 あの時KOGAさんが僕に言いたかったことは、ペダルの位置についてではなく、脚を回転させることだった。長い下り坂でペダルを全然回さない、脚を動かさないでいると、いざ動かそうとした時に休み過ぎたせいで動かなくなってしまうことがあるらしい。それが僕の体に起きたのであった。

 前もって言ってくれれば。いや、ちゃんと伝えてくれたんだ、それを僕は間違って認識してしまった。だったら、それを訂正してくれもよかったんじゃ、そんなちょっと恨み言のようなことを思いながらペダルを回す。

 そんな僕にKOGAさんは、

「言った時は短い坂だったし、それにすぐ上りになってペダルを回したから。最後のあの下りは言おうかどうか迷ったけど、下るのに必死そうだったから余計なことは言わないほうがいいかなと思って」

 たしかのその通りかもしれない。あの下りで勘違いを呈されたとしてもおそらく恐怖心がありペダルを回すような余裕なんかなかったはず。

「まあ、そのうち回復するでしょ。何キロも下ったわけじゃないから。軽いギアを回しながら行きましょう」

 KOGAさんの言葉に従って右のギアを操作し、リアのギアを二番目に軽い状態にした。

 思うように動かなかった脚がスムーズに回転し始めた頃、緩やかな坂は終わりをむかえ、僕とKOGAさんは住宅街の中へと入っていった。

 そういえばこの住宅街外れに城跡があったよな、せっかくだからちょっと寄っていこうかとも一瞬考えたが、せっかくまた回り始めた脚を止めてしまっては思い直し、素通りというのは少し語弊があるけどそのまま寄らずに。

 住宅街を抜けると大きな高架が。

 その下を潜り抜けるとまた上りに。

 この上りは少々厄介であった。といっても、坂がきついわけではない。住宅街までの道よりも若干狭めでおまけに路面の状態もあまり芳しくない。

 けど、それだけならまだいいのだがこの辺りは交通量はさほど多くはないのだが、大手のメーカーの部品工場や倉庫があるための大型車の往来が。さっき潜った高架、つまり上を走る国道から降りてくるトラックが多い。

 若干狭めで大型車が多い。

 このままこの道を走るのはちょっと危険だろうか、ならば迂回を選択しようか。

 少し道を外れると神話の英雄が眠るとされる古墳と、その英雄を祭神としている神社があった。

 そこの寄りがてらルート変更をしようか、とも一瞬考えたが、すぐのその考えは脳内で棄却。というのも、そこに至るまでに大きめの部品工場は通り過ぎるし、さらにいうとルート変更をした場合、工場団地へと突入することになり、そうなると土地勘があまりないうえに大型車の交通の多い道を必然的に走ることになってしまう。つまりこの状態よりも危険なことになってしまうかもしれない可能性が大。

 それに幾分マシになったとはいえ、脚を止めるとまた動かなくなってしまう危険性も。

 というわけで、このまま走ってしまおうかと思い直す。

 結果的にこの決断は良いとも悪いとも言えなかった。

 じきに大型車の姿は見えなくなった。これでちょっとは安心とできると思いながらKOGAさんを走らせる。

 だが、安心したのは束の間であった。

 進むにしたがって道幅が徐々に狭くなっていく。ついでに歩道も姿を消した。

 片道一車線の道、ついでにちょっとした上り。そして僕の背後にはワンボックスの車。

 車は決して僕を煽っているわけではないのだが、後ろから押し寄せてくる鉄の塊の圧力、プレッシャーが。

 必死にペダルを回す、立ち漕ぎをする。

 そんなことをしなくとも進路を譲ればと思われる方も多いだろうから、当時の状況をより細かに説明すると、やや狭めの片道一車線で、狭い道なのに対向車の交通量は結構多く、後続車が僕を追い越していくとは少し難しい。ならば、僕がKOGAさんを漕ぐのを止め立ち止まり先に行かせるという選択肢もあるのだが、失速はともかく急に停止なんかしたら後続車に迷惑をかけてしまう。ならば、路肩に退避して先行してもらえればいいのかもしれないが生憎と路肩や車道外側線と言った気の効いたようなスペースはなく道路の横はガードレール、そしてガードレールの外は川。

 つまり逃げ場のない状態だった。

 後続車に多大の迷惑をかけながらも、そのうちの何台かは上手く追い越して行ってくれたけど、なんとか緩い坂を上り終えた。

 するとそこには歩道が。

 もっと前から歩道があればよかったのに、という悪態のようなものを内心で呟きつつ歩道へと。

 歩道を徐行よりもやや速い速度で走行。

 さっきの無駄な体力の消費をここで回復させるのが目的であり、ならば休憩したほうがと思われる方もいるだろうが、先程の失敗で脚を止めないほうがいいとこの時は判断し、遅々とした速度でもいいから前へと進もうと決断。

 歩道を走ることしばし、十字路が迫ってきた。

 ここを右折。

 真っ直ぐに走っても帰れるには帰れるのだが、かなりの遠回りになってしまう。

 茶畑の間をひたすら真っ直ぐ。

 歩道こそないものの、車道外側線が広くて、その上信号もほとんどないから存外走りやすい。

 あえて文句をつけるとすれば、追い越していく車の速度が速いことぐらい。

 しかしそれも広い車道外側線の中を走行しているから、左程危険とも思わなかった。

 茶畑を抜けるとまた下って上ってのアップダウン。

 このアップダウンは少々てこずった。下りも上りも長かったから。

 それでもなんとか通り抜けると丁字路に。

 ここでまた僕はミスを犯してしまった。 



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