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復路? へん 3

 

 上り終えると今度は一転下りになる。

 必死にペダルを回さなくともKOGAさんは自然の法則に則って勝手に前へと進む、というか下っていく。

 ついさっきまで一所懸命に回していた脚を止める、休める、体力回復に努める。

「あ、脚は……」

 KOGAさんが僕に何かを言いかけた。

 足?

 ああ、そうか。

 この時の僕の足の位置は、右足は上死点に、左足は下死点にあった。この位置にあると車体を、つまりKOGAさんを傾けた時にペダルが地面と接触して事故に繋がってしまう危険性が。下りの時はペダルを水平にするのが基本と参考にしている漫画でも書いてあった。現にこの下り坂は左右に蛇行していた。

 ペダルを水平にする。

 やや向かい風ではあるけどKOGAさんの速度は徐々に上がっていく。

 僕の耳に風を切る音が聞こえた。

 全く漕いでいないにも関わらずサイコンの数字は30を超える。

 ずっとこのまま延々に下りが続くのならば、この先ずっと疲れなくても済むのかもしれないけど、そんなことは有り得ない。

 下りの先にはまたも上りが。

 だが、下りでの速度があった。そのままの勢いで上りの突入。速度が落ち始めた頃合いで再びにペダルに力を入れ始める。

 大した労力もなく上りが終わる。

 そしてまた下りへと。

 それからまた上り。

 ちょっとの間、短い距離でのアップダウンが、上り下りが続く。

 軽くペダルを回しているとまた下りの。

 たしかのこの坂は長かったような記憶が。橋を越えてかなり上ったような記憶が。

 これは行きでの話。

 今は帰り道。ということは長い下り坂ということ。

 ペダルを水平にして坂をKOGAさんと一緒に下っていく。

下ハンを握り、ブレーキに指を当てる。一応何時でも止まれるように準備を。

起こしていた姿勢を低くする。

自転車においての空気抵抗の大半はその車体に発生するのではなく乗り手によって生じる。

つまりの僕の体が空気抵抗のほとんどを。

この空気抵抗をなるべく減らすために。

トップチューブと水平になるように上半身を倒す。

 倒しながら、少しだけ邪念が僕の頭の中に生じた。

 これでも結構な速度が出ているけど、もっと出してみようか、プロのロードレーサーのようにトップチューブに跨るような恰好になるスーパータックを試してみようか、それともこの態勢のままでギアをアウタートップにして、普段なら絶対に回せないような重たいギアを踏んでみようか。

 結論としてはどちらも行うことができなかった。

 というのも、途中で怖くなってしまったからであった。世に出回っているシティサイクルの車輪に比べれば精度も回転効率もいいけど、それでもロードバイクのホイールという規格においては低価格帯の代物。速度が増すにつれて少しずつブレが生じてきてしまう。それだけならばまだ対処のしようがあったのかもしれないけど、そこに路面のギャップが加わる。KOGAさんが暴れるような感覚に。これを治めようとしてハンドルに力を入れるが逆効果。余計に車体の制御が難しくなっていく。

「大丈夫だから、そんなにしがみつかなくても」

 KOGAさんの声が僕の頭の中に。

 押さえ込むように、しがみつくよう掴んでいたハンドルから抜けていく

 ブレが小さくなっていく、治まっていく。

 左右のブレーキをゆっくりとかける。

 急激にブレーキをかけてしまったらタイヤがロックして大きな事故になってしまう可能性が。

 速度が徐々に落ちていく。

 と、同時に坂の終わり、橋と信号が視界に入ってきた。

「あ、変わるよ」

 KOGAさんが言うように信号は黄色に、そして赤へと。

 ある程度の速度を維持したままで橋を越えて次の上りに入りたかったけど仕方がない。

 間際で信号に気が付き急ブレーキをかけるよりも余裕を持って停まれることのほうが大事である。よく知らない下り坂の信号では上手く停まることができるとは胸を張って言えない。

 余裕がありすぎたせいか停止線のかなり前でKOGAさんが停止しそうに。

 流石にここで停まるのはちょっとと思い、二度三度ペダルを回し停止した。



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