復路? へん
「じゃあ、そろそろ出発しようか」
コンビニの駐車場で昼食を済ませ、しばし休憩していた僕にKOGAさんが。
本当ならば食べてすぐに出発しようと思っていたのだが、食べてすぐに動かなくても、胃が食べた物を消化するくらいの時間は休憩しようよとKOGAさんに諭され、たしかに食べてもすぐにエネルギーに変換されないよなと思い、その意見に同意し、しばし休憩を。
休憩、休んだら休んだで、今度は動きだす、再起動するのが少々億劫になってきてしまった。まだ半分の距離かと思うと、少し気分が萎えてきてしまいそうに。
そんななかなか乗車せずに、無駄に時間を浪費している僕にKOGAさんが出発を促した。
このままずっとここにいても仕方がない。KOGAさんに乗って走らないことには家へと帰ることができない。
萎えそうになっている気持ちに活を入れてKOGAさんに跨る。
サドルの上の腰を降ろし、ペダルに足を乗せる。
ペダルを一回転。
さっきまであった少々弱気な気持ちはいっぺんに吹き飛んでいった。
KOGAさんで走りたいという渇望が急速に心の奥底から沸き上がってきた。
この気持ちに任せて、ギアを上げてKOGAさんを走らせる、ということはしなかった。いきなり全開で動けるほど若くはないし、残り距離もまだ半分もある、それにまだまだ交通量のある市街地。
ゆっくりとペダルを踏みながら休憩後の体を慣らしていく。
お寺の前をはしる旧街道を走行。
体が動くようになってきた頃、あの国道へと差し掛かかった。
行きとは違い帰路は向かい風であった。
けど、それほど強い風ではなかった。逆風の時はだいたいギアを軽くしてペダルを回すようにしているのだが、この時はそれとは逆にフロントギアをアウターに入れた。
KOGAさんの速度が上がっていく。
あのガソリンスタンドが反対車線の向こうに見えてきた。
あの店員が性懲りもなくまだ幟を大きく振り回しながら呼び込みを行っていた。そのがなり声は離れた僕とKOGAさんにまで届いていた。
あの時の僕の抗議は全くの無駄であったのか。あんなことがあったのにまだ同じような愚行を。
これに対して腹立たしい程の怒りが僕の中に生まれてはこなかった。
そんなことよりもKOGAさんと走ることが楽しかったから。
やや逆風の中、国道一桁台の片道二車線の道を。
行きと同じような速度で。
体が重たいとかいうことはない、足と脚が痛いということもない。
快調だった。
このままずっと走っていたいという気持ちに。
このまま残り半分簡単に走り切れそうな予感が僕の頭の中に。
そのとき、僕の心の内にふと魔が差した。




