けんがい トラブルへん
前回の小径の話の続き、どのようなトラブルに遭遇し、そして足が遠のいていったかを今回書いていきたいと思う。
後方から迫りくる車がいない、ある程度の安全が担保されているという理由で、僕はしばしKOGAさんと一緒にあの道を走っていた。
初回では辿り着けなかったお稲荷さんへも行くことができたし、さらにその先へと足を延ばしたこともあった。
普通に考えればずっとその道を走行すればいいと思われるだろう。現に僕もトラブルに見舞われてしまうまでは、この先もこの道を好んで走るのだろうなと想像していた。
しかし、トラブルでその考えは一変。
まあ、厳密にはトラブル以外の要因もあったのだが。
それはさておき、トラブルについてそろそろ記していきたいと思う。
トラブルというのはパンク、走行中に前輪の空気が抜け始めた。
これの原因は、小径の環境のよるものであった。前回の話で、塵が至る所に散乱していると書いた。人の気配はほとんど感じられないのに、何故か塵が多く見受けられた。そのごみの中にどういうわけだか針のような鋭利なものが含まれていて、それが前輪のタイヤを突き刺し、チューブにまで到達、つまり貫通した。
最初パンクだとは気が付かなかった。
違和感のようなものは走りながら感じたが、これまた前回の話で書いてあることだが、路面状況が悪いせいだと思っていた。
けれど、路面の良い場所に出てもその違和感は消失しない。
まさかと思った瞬間、KOGAさんが僕に「パンク。前輪の空気が抜けている」と。
KOGAさんを停車させた。
普通の自転車、普通の人なら、こんな来たこともないような遠方でパンクというトラブルに見舞われてしまったら、パニックを起こす、というのは少々大袈裟さかもしれないが、それでも困惑してしまうのは間違いなであろう。しかし、この時の僕は平静、冷静であった。
というのも、ロードバイクと乗り物は普通の自転車に比べればパンクの対応というのが比較的平易であったからだった。クイックリリースで簡単に車体から車輪を着脱するができた。車輪を車体から外せば、後はチューブを交換するだけ。KOGAさんを購入した時にチューブ交換のやり方のレクチャーを受けていた。サドルバックの中にはタイヤを外すためのレバーとチューブが収納されている。
交換するだけで、再び走り出すことが可能。
だが、停車してすぐに作業に取り掛かるということはしなかった。
というか、できなかった。
狭い道であったが故に、チューブ交換の作業をするのに適さない。それだけではなく散乱している塵や、枯れてはいるが草によってより困難に。
作業に適した場所を求め、KOGAさんを押して歩いた。
幸いないことに小径から見える範囲で公園を発見。そこでパンクの対処、チューブ交換をすることに。
サドルバックの中から必要なものを取り出して、
「KOGAさんちょっとゴメンね」
「いいわよ、別に。私のことを気遣ってくれているからだから」
というやり取りをし、僕はKOGAさんをひっくり返した。タイヤではなく、サドルとブラケットの一部が地面に設置するようにした。
KOGAさんを立たせたままで、何かにもたれかけさせて前輪を外すことも可能であったのだが、そうするとフォークの一部、フロントエンドが地面に接することになる、心配のしすぎかもしれないけど、それによってフロントエンドに傷付く可能性が。
だが、ブラケットとサドルならば少しくらい傷付いても問題ないはず。
タイヤレバーを使いホイールからタイヤを外す。これでチューブを交換すればいいだけなのだが、その前にすべきことが。外したタイヤの内側を指でなぞる。まだ異物が刺さったままの状態であったのならチューブ交換を行っても元の木阿弥になってしまう可能性がある。幸いなことに異物はなかった。タイヤの片側だけを先にホイールに嵌め、タイヤの中にチューブを潜り込ませる。はみ出ていないことを確認しながら、もう片方をホイールに嵌めていく。途中までは上手くいっていたのだが、最後の段階で硬くて嵌り難く。それでも何度か挑戦、力技で少し強引に嵌め込むことに成功。
これでチューブ交換が完了。手間と時間がかかってしまったが、それでもタイヤを再び嵌めることが。
しかしながら順調だったのはここまでだった。
エアが上手く入らない。携帯用ポンプでチューブの中に空気を送り込むことができなかった。
パンク、チューブ交換の講習は受けていた。だからこそスムーズにチューブ交換ができた。だが、その時普通のフロアポンプで空気を入れていた、この時の使用した、というかKOGAさんと一緒に購入したこの携帯ポンプを非常時になって初めて使うことに。使い方が分からない。
四苦八苦しながら、何度も挑戦するが、いずれもチューブの中に空気を送り込むことが叶わない。
いくら押しても空気はチューブに入らない。次第にポンプを押す腕に疲れが、力が入らくなっていく。
「上手くいかないのなら、まあしょうがないんじゃない。このままじゃ走れないから私を何処かに置いて、後日に迎えに来てくれればいいよ」
と、KOGAさんが僕に。それに対して僕は、
「なら、押して行きます。近くに駅があるはずだから」
近くとっても数キロ以上距離はあったのだが、その辺にKOGAさんを放置して帰るなんてことはできない。
「駅に行ってどうするの?」
「サイクルトレインなんですよ」
最寄りの路線の電車は自転車の持ち込みが可能であった。
「へえー、そうなんだ」
「そうらしいです……まあ、僕も使用したことないですけど」
これはロードバイクを買うに当たり収集した情報ではなく、ローカルニュースで見たものであった。
KOGAさんを押しながら、一路駅を目指した。
とぼとぼと歩く。
その途中で、何か魔がさした、というのはおかしいかもしれないが、なんとなく今度は上手くいきそうな予感めいたものを感じ、僕は再チャレンジを。
エアの入っていない状態の前輪に携帯ポンプで空気を。
今度は上手くいった。
チューブに空気が。ペタンコだったタイヤが徐々に膨らんでいく。
膨らんでくと共に腕が疲れていく。
が、それでもタイヤを膨らませることに、走行が可能なくらいにまでチューブ内に空気を送り込めた。
夕暮れの中、僕は再びKOGAさんに乗車を。
やがて完全に日が落ち、夜の帳が下りる頃、これまで一度も使用していなかったライトを点灯させ帰宅した。




