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清掃へん

 

 帰宅した僕はKOGAさん壁に立てかけ、一人家の中へと。

 これは危険な目に遭いもうロードバイクに、KOGAさんに乗る意思がないことを、その行動で示そう、盗難の恐れがあるけどそのまま放置しよう、欲しい人がいたら勝手に持って行って下さい、というわけではない。

 スタンドと、とある物を手にして僕は再び家の外へと、KOGAさんの元に。

 とある物とはウェスだった。

 買ってから僕はKOGAさんを綺麗にしていない。

 寒空の下で、本格的な洗車をするつもりはないけど、それでもKOGAさんの白い車体はできるだけ綺麗に保っておきたい。

 初日は這う這うの体で帰還した。体力が尽き、精神的にもダメージをうけ、また暗くなっていたこともあり、綺麗にすることができなかった。

 だが、今回はそれを行うことが可能。日はまだ上ったばかり、体力にも問題はない、精神的はさっきの下りで少し凹んだけど、それでも何も行動することができないほどの痛手を負ったわけではない。

 それにこうして走行後に、小まめに手入れをすると車体の持ちは良くなるし、何かしらの異変があった時などにはすぐに気が付き対応することができる、とものの本に書いてあった。

 それを実践。

 ウェスでKOGAさんの白い車体を拭く。

 ヘッドチューブ回り、フロントブレーキのキャリパーの後ろ側が少し黒くなっていた。これはさっきの坂でブレーキをかけ続けていたためであった。ブレーキシューが削れて、そのカスが付着したものであった。

 トップチューブ、ハンドル周り、ダウンチューブ、シートチューブ。

 一番汚れていたのは左のチェーンステー。

 チェーンから飛び散ったオイルで黒くなっていた。

 念入りにウェスで磨く。白の上に黒の汚れがあると、それがほんのちょっとであっても悪目立ちをしてしまう。

「こんなものですか?」

 一通り拭き終えたつもりであったが、何分初めての経験でどこまですればいいのか分からず、だったら当の本人、というか自転車、KOGAさんに直接訊けばいいと考えて質問を。

「おしい。ダウンチューブの下側がまだ」

 指摘されて気が付く。ダウンチューブの上側は拭いたけど、下側は忘れていた。

 少し潜り込むような恰好になってダウンチューブ下側を拭く。

 剥き出しになっているワイヤーが少し邪魔であったが、それでも拭き終えた。

「そこは君から見辛い場所だけど、結構汚れるところだからね。今日みたいない天気の良い日はいいけど、雨の日や、その次の日には絶対に汚れる箇所なのよね」

 雨の日にKOGAさんに乗るつもりはないけど、絶対にとは限らない。好天時に出発しても途中で雨に見舞われてしまう可能性もある。それに走行時は天気が良くても前日、もしくは数日前に雨が降り、路面が乾いていない状況下で走ることも。後にだが、眼前に大きな水たまりがせまり、汚したくない一心で避けようとしたが、運悪く隣を大型車が追い越しをかけ、命と汚れの二射選択に迫られて、やむを得ず水たまりへと直進するという事態に遭遇。

「そうなった場合、ウェスで拭くだけでは十分じゃないですよね」

「そうね」

「じゃあ、何か洗浄用のものを買ってきたほうが?」

「それも大事だけど、まず買うべきもの、必要なものは自転車用のグローブよ」

 このKOGAさんの言葉には大いに同意を。

 坂で悪戦苦闘。専用のグローブならば確実とはいかないかもしれないけど、それでも普通の手袋はよりははるかにマシなはず。ブレーキ操作がしやすいはず。

「後は……そういえば君、寒くなかった?」

「そんなには寒くなかったです」

 上りではむしろ着ているもののせいで少々暑さを覚えたし、下りでは暑い寒いなんか気にする余裕はなかった。

「脛も平気だった?」

 KOGAさんに指摘されるまですっかりと忘れていた。ペダリングの邪魔にならないようにズボンの裾を捲っていたことを。

「うん、そんなに寒いとは感じませんでした」

「だったら裾バンドは必要ないかもね。アレを着けるとほんのちょっとだけどペダリングの邪魔になるのよね」

 その後、僕はKOGAさん家の中へと仕舞入れ、仕事前にスポーツショップに。

 手ごろな値段の自転車用グローブを購入。

 そしてそれを嵌めてKOGAさんを駆ると、ブレーキの弾き具合が断然違った。

 専用のものには意味がある。そう悟った。


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