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危機一髪へん

 

 KOGAさんの言葉に喜びを、感慨に耽っていられたのはほんの短い時間であった。

 坂を上り終え、その後も続いている平坦路進み、信号で折り返した。

 今度は下りである。

 坂を下る前にKOGAさんからの助言が。

「ブレーキを強く握れるようにブラケットじゃなくて、下ハンを持ってね」

 ハンドルの曲がっている部分を掴みながら、ブレーキに指をかけた。

 これは一応事前の情報収集の段階で知っていた知識であった。

 先程までの上半身を起こした状態から、前傾姿勢に。

 自転車を、ペダルを漕がなくともKOGAさんは重力に引かれて前へと進んでいく。

 普通に考えれば、楽、であった。

 だが、この時の僕は、苦、であった。

 前日にも下りを経験していたはずなのに、悔しさと情けなさと疲労によって記憶はなく、この段になってようやく知覚したのだが、ロードバイクで坂を下る、前傾姿勢という態勢は予想外の怖さがあった。

 今となっては全然大したものではないのだが、自分が想像した以上の速度が勝手に出てしまう。KOGAさんをまだ上手くコントロールできないから、自分の思うような走りができずに恐怖は一層高まってしまう。そして僕の横を普通車が追い越していく。迷惑をかけないように、ぶつからないように、ブレーキをかけながらなんとかKOGAさんを道の端へと、路肩へと、車道外側線の中へと、誘導しながら下るのだが、その行った場所は先程まで走っていた場所よりも格段と悪い路面に。アスファルトではなくすべりやすい、その上排水用にグレーチングまであり、砂があり、その上ゴミまでも。とてもじゃないが走れない、そう思ったと同時にKOGAさんが「車道を走って」と助言を。助言に従い車道に。速度が出て怖いけど断然走りやすい。けどそれはつかの間、今度は後ろから急速に迫ってくる大型車にクラクションを鳴らされてしまう。下りながら、胸の内で偉大なる自転車選手に謝罪を。ロードバイクを買うに当たり、色々と調べ、レース関連にまで踏み込んだ。かつて下りが苦手なイタリア人とルクセンブルク人がいて、ネタにされているのを知り、プロなのに情けないと内心僕も馬鹿にしていた。だがしかし、この時の僕の速度は彼らがレースで下る速度の半分も出ていなかった。そのことを内心で詫び続け、KOGAさんのブレーキレバーを握りながら、恐る恐る下っていった。

 だが、一番の恐怖は最後の最後に待ち受けていた。

 目の前に信号が見えてきた。信号の色は赤だった。

 指をかけっぱなしだったブレーキを強く握りこむ。

 制動がかかった。その証拠に車体は不安定に。なのに、停まらなかった。

 KOGAさんは僕の意思とブレーキに反して前へと進み続けた。

 KOGAさん声が。

「お尻を後ろにずらして。体重を後ろにかけるの」

 無我夢中で、KOGAさんの言葉に反応した。だから、この時の僕が、どう動いたのか全然記憶はなかった。

 けど、このアドバイスが適切であったことだけは確かなことだった。

 一時停止線を越えたところ。交差点に進入する前。車がひっきりなしに通る道路に入る寸前で僕とKOGAさんはようやく止まることに、停止することに成功した。

 この時上手く停まることができなかったのはいくつも要因が重なったことが原因であった。 

 まずは僕の経験不足。前傾姿勢での乗車に慣れていなかった。次に、ブレーキのグレード。以前にも記してあると思うが、KOGAさんについているコンポはティアグラ、下から数えたほうが早いグレード。これでも街乗りでは十分以上なのだが、長い坂ではやや力不足、制動力が弱かった。それから、装備。僕は普通の手袋をしてこの時KOGAさんに乗っていた。それが要因でブレーキレバーの握りが浅くなっていた。

 そして最後、これが一番の原因であり、今でもその辺りには注意しながらKOGAさんと走っている。

 では、それは何なのか?

 それは路面状況であった。

 坂の一番下、交差点付近の舗装状態が酷い有様であった。アスファルトの色が濃かったから一見フラットのように見えるけど、その実情は細かい縦の溝、というか割れ目のようなものがいくつもできており、それだけならばまだマシなのだが、大型が頻繁に通るせいか、うねりがあり凸凹しており、轍まであって、車ならばさほど気にせずに走行できるのかもしれないが、ロードバイクの細いタイヤでは、簡単にタイヤをとられてしまい、制御が難しくなってしまう。

 こんな状況では、素人である僕が上手くKOGAさんを停止させることができなかったのは至極当たり前のことであった。


 言うほどギリギリではなかったけど、それでも九死に一生を得たように気持ちで帰宅。

 

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