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リベンジへん


 朝食を摂って、着替えを済ませ、僕は再び三和土たたきへと、KOGAさんの所へと。

 KOGAさんを担いで家の外へと。 

 出勤、登校の時間はとうに過ぎていたけど、まだ少し寒かった。

 そんな寒い環境下だったが、僕は右足の脛を露出したような状態であった。これは昨日のKOGAさんの言葉にあった。ズボンの裾を捲りペダルの回転の邪魔にならないようにしているのだが、前日は今ズボンの下にヒートテックを着込んでいた肌を露出、外気に触れないようにしていた。しかし生憎と僕はヒートテックの下をあの一枚しか保有しておらず、使用したために昨晩洗濯機の中に放り込み、目下絶賛洗濯中であったために右脛だけを、冬の寒さの中に放り出すことに。

 正直寒かったが、我慢できないほどでもなく、思い起こしてみれば昔中高生の頃は体育教師の理不尽な指導で寒波の中をトレパンでの授業を強要されたこともあったし、小学生の時は一年中半袖半ズボンで生活していた。それに比べれば基礎体温は低下しているかもしれないけど、まだ防寒対策はしっかりとしている。大丈夫なはず。それに昨日のように長い時間を走るわけではない、ちょっと乗るだけだ。耐えれるはず。もし耐えることができ無いほどの冷たさを感じたら素直にそのことをKOGAさんに告げ、帰ってくればいいだけのこと。

 心中でちょっとだけ葛藤をしている僕の横を、完全に遅刻確定で、もはや悠々と自転車を走らせている女子高生が。はち切れんばかりの健康的な太腿を出しながら。

 あの格好でも大丈夫なんだから。あれに比べれば。問題ないはず。これで大丈夫。

 と、自身の格好の葛藤に決着をつけたものの、どの方向へと走り出そうかという新たな問題が僕の中に噴出していた。

 何しろ我が家の立地は三方向にいずれに進んでも坂道になり、残る一方は川沿いで平地ではあるが、この季節行きはよいよい帰りは悪い、帰宅時には逆風になってしまうこと間違いなしであった。

 昨日のリベンジ、というかあの悪夢のような出来事を払しょくするために、ここは坂に挑むのが善いのではと頭の片隅で思考するが、またも無様に敗れ去ってしまったら。そんなマイナスのイメージが浮かび、やはり無難に平坦路を選ぶのがベターなのだろうかと思考。

 そんな僕にKOGAさんが、

「ねえ、坂に行こうよ」

と、一言。

 この言葉にすぐに僕は返事ができなかった。情けない話であるが、微妙な間があいてしまった。

「大丈夫よ、今日は。脚に筋肉痛はないんでしょ」

「それは……まあ……」

「平気平気。行って駄目だったら、帰ればいいだけだから。昨日みたいに後半に坂に挑戦するんじゃないんだから」

 確かに初走行では、調子に乗って走りすぎて、あの場所に辿り着くまでに疲れていた。

 万全、完璧な状態とは流石にいかないけど、それでもあの時比べれば大分良い。

「……はい」

 僕は道こそ違えど、坂にリベンジする選択を。

 三方の内、比較的道幅が広く、かつ車の通行量の少ない西側の坂を。

「そうそう、昨日のギアはそれくらいだから」

 坂の下に着く前のギアを変えた。KOGAさんの指示で、あの時足をついた時と同じ39-21で。

 目の前の信号が赤から青に。また上り切れずに、途中で足がついてしまうんでは、という不安をかき消すようにペダルを踏んだ。ただし、勢い込んで踏みこんだりはしなかった。短い坂ならば、それでも別にかまわないのかもしれないが、この坂はおおよそ1キロくらい続く上り。最初から勢い込んで走ってしまっては途中で力尽き、昨日の二の前になってしまう。そしてこれは僕自身の判断ではなく、KOGAさんの助言であった。ここへと到着する前に、KOGAさんは僕からこの先の情報を聞き出しアドバイスしてくれたのだった。

 ゆっくり、本当にゆっくり。

 横を走る車に何台も追い越されながら僕は坂を上った。もしかしたら走ったほうが実は速いのではないのかと思えるような遅々とした速度で。

 途中、一度だけギアを変えた。

 一段軽くした。

 そのことが功を奏したのか、または前日のあれは単に体力がなくなった、脚が売り切れたからなのか、これは今となっては判別できないけど、兎に角、あの坂よりもはるかに長い道を僕は一度も足をつけることなく上り切ることに成功した。

 驚くくらいに、あっさりと、あまり疲れることもなく、脚も痛くならずに。

 拍子抜けであった。

 そんな僕にKOGAさんの声が、

「ほら、上れたでしょ」

 

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