月と魔力と演説会
最近リアルで忙しくて投稿出来ませんでした。
__青春。
その言葉に人はどんなイメージを持つであろう。
勿論それは、学業、スポーツ、恋愛、友情、努力等の要素を纏めて鍋にくべて混ぜて出来た混合物であると言うのが世間一般に言われる青春というものである。
そして、世の中の学生という生き物達が夢み、憧れ、切望の眼差しでその熟語から連想されるものに自身を重ね合わせ、理想という名の妄想に浸りながら日々生活している。
そんな大半の人間からあぶれて、それらの要素を一切求めていない者が、説明するまでも無く、俺自身なのである。
勿論世間的にではなく、あくまで1個人の人間として、青春ってどう思う? と聞かれれば俺はきっとこう答える。
__求めようとする程本質からは遠ざかって行く物。
そう、ここまであたかもまるで、___青春なんて下らない。とか言ってしまいそうなモノローグであっただろうが、ここで勘違いはして欲しくない。
俺はあくまでも青春というものを求めるもの達のことを決して否定はしていないのだ。
欲しいのならそれを欲する行為その物に罪は無い。
つまり、青春したいと夢見ている人の事を馬鹿になどしてはいないし、軽蔑もしていない。
ただ、相容れない人種という認識なのである。
そんな事を考えつつ、本日も学校へ行くというルーティーンをこなす為に、校舎玄関にまでやってきた。
自分の番号が書かれている下駄箱からいつものように上履きを取り出して履き替える。
そして、階段を昇っている辺りで後ろから、青春を謳歌する気満々といった雰囲気を纏った少女が話しかけてきた。
__ところで、アオハルってどういう意味でしたっけ。
*****
月宮満は謎めいた男である。
先日の一件を経て、その見方はより一層強まったと言える。
学校での振る舞いとか、出で立ち、そして昨夜の彼の行動。
夜に徘徊している事や、塾をサボるという見た目に反して不真面目ということや、自身を魔法使いと自称する彼は、私の中でのイメージが180°変わった。
__それよりも、あいつはあんなに流暢に喋るのか。
それが最近で一番驚いた事であると思う。
しかし、今はその「それよりも」よりもっと気になることがある。
「よ! 」
私はなるべく元気よく、月宮に挨拶をしたつもりである。
しかし、その反応はまるで帰って来ない。
そして、それが通算4度目の挨拶なのであった。
__考えるまでも無く、無視をされているのは火を見るよりも明らかであった。
昨夜の出来事から一変した態度の月宮に戸惑う私を他所に、月宮は知らん顔で歩いて行ってしまった。
そのまま私は立ち尽くす。
結果として廊下で一人、朝から大声を出す変な奴という印象を周囲の人間に与えてしまった。
__恥をかかせやがって。
それが今朝の出来事であり、同日。
現在。
今朝の事を根に持った私が無表情で本を読んでいる月宮に対して恨みの念を送っているつもりで眺めていた。
「ちーちゃん、一人で何やってんの?」
「おお、何だ笹倉か」
彼女は笹倉智美。
私の小学校来の友人であり、成績は良く、学校から見ても、世間一般から見ても、優等生であることに違いは無いのだが、普段の様子から私はあまりそのような認識がない。
「何一人で黄昏てんの?」
「いや……何でもない」
「でも、ちーちゃんがボーッとしてるなんて、珍しいね。……いや、そうでも無いか」
「……まるで私が普段からボーっと過ごしているかのような物言いだな」
友人の態度の振れ幅に面食らうと同時に腰を落とした。
「まあー、たまにらしくもなく深く考えてる事あるよね」
「そう私を変わり者扱いするな。私は別に普通だ。__いつも通りの平常運転」
「ふーん、普通か。普通って、例えばテストでずっと平均点を取り続けて、偏差値50の学校に進学、その後中小企業に就職後、約30歳で結婚、子供は2人、60歳で定年から老後ってな人生を送る人? ちーちゃんそうなの?」
「……やけに例えが的確だな」
「ほら、よく大人ってこれくらい普通の事なんだから出来なきゃダメって叱るじゃない? 結構普通っていうものが最低ラインに設定される事あるけど、この世に存在してる全ての分野において普通レベルの成績が取れてる人が本当に居たら、私達はその人のことを天才って呼ぶんじゃないのかなって」
「つまり、レオナルド・ダ・ヴィンチは普通の人?」
「その人はどの分野も飛び抜けて出来るんだけどねー」
__丁寧に訂正を頂いた。
やけに普通というワードに食いつくやつだ。
普通に恨みでもあるのであろうか。
「それでさ、さっきから月宮に熱烈な視線を送ってて何してたの?」
「ギグッ」
___ギグッと人生で初めて声に出た。
とにかくそれだけ驚いた。
「おや、図星かな? しかし、ちーちゃんの事だから自分では気付いてないでしょ。ズバリそれは恋だね。」
「はあ?」
弁明をすれば、私は恋とはむしろ真逆の呪いの念の意での視線なのだ。
まるで見当違いの意見だ。
しかし、笹倉に関してはこの手の話題にかなり食いつく。
__恋愛の亡者であると断言出来る。
従って否定してもあまり意味は無いのだが、友人の小言に付き合う事に決め、溜息をつきつつ、言葉を発する。
「……断じて私は恋などはしていない」
「へえ、そうなんだ」
笹倉はニヤつきながらそう言う。
察した通りに信じていない様子だった。
「私と奴との間には何も無い。__全くもって無関係だ」
無関係というワードによって今朝の出来事がフラッシュバックした。
自身で発した言葉だが、皮肉にも私の首を絞める発言だった。
「まあでも、いくらちーちゃんの純粋な恋心とはいえ、あの月宮に関しては少しよからぬ噂を聞くのでね。少し心配だよ」
「噂?」
「まあ、月宮ってあんななりしてるけど意外と頻繁に塾をサボって夜遊びしてるとか」
……それは知っている。
「それで……相良って居るじゃん? アイツらとつるんでるっていう噂もある」
相良典子は素行不良の生徒だ。
俗に言うヤンキーと言った方がわかりやすいだろう。
「あいつか……」
奴は、女の癖に何人も男を引き連れて数々の蛮行を繰り返す許し難い輩だ。
「ちーちゃんはよく相良に噛み付いてるけど、よくやるよね。ほっときゃいいのにさ」
「そういう訳にはいかぬ。奴は皆の風紀を乱す物、私は決して許すことは出来ない」
「真面目なこと言ってるけど、そこまでちーちゃんは真面目な方でもないしなあ。正義感が強いって言うのかね」
__なんて言うか子供っぽいよね。
呆れたように、ため息混じりのような声色でそう言う。
その背中の方でチャイムがなる。
雑談は終わりだと知らされ、退屈な時間が押し寄せて来る。
聞き返す前に、それじゃと告げて笹倉は自身の席へと戻っていった。
笹倉の机の上には次の授業の教科書類が用意されていた。
そして視線を正面へと戻すと、ただ何も置かれていない机があるだけだった。
*****
夜が来た。
普段は夕食に白飯を二杯食べる私は、今日は一杯の白飯のみを腹に納めた。
両親、姉共々はそんな私を不審げに見ていたが、ご馳走様と言い残して腹ごなしに運動でもして来ると家を出た。
昨日より月が少し欠けていた。
思えば昨日は満月だったなと、そんな事を考えつつ、歩き出した。
今日は別に喧嘩もしていない。
正直に言えば、家を出る最後の最後まで悩んでいた。
今日は別に散歩へ出かける理由も特に無い。
確かに私も特に理由はなくとも、散歩へ出かける時もあるが、今日は提出期限の迫っている課題も残されているし、読みかけの漫画もあるし、回を追っているドラマの放送もある。
外へ出ない理由はいくらでも思い浮かんだ。
きっと、今日も彼は夜の街へ繰り出している。
そんな希望的観測だったのかもしれない。
勿論、今日は月宮と話していない。
__したがって、彼が今日居る保証など、どこにも無いのだ。
あの夜の事はもしかしたらただのからかいで、月の魔力に感化された月宮が発した戯言だったのかもしれない。
そして、そんな思考がグルグルとさながら無限ループしそうな勢いで私を満たしていった。
そこまでの道程をどう歩いたかなど何も覚えていなかった。
だから気が付いたらそこに居たという表現が私はしっくりときた。
そして、月宮が居た。
月宮は何やら道の端に蹲り、鉄線をペンチで切断していた様だった。
実際本人を目の前にしてみると案外言葉とは出てこないもので、私はただ立ち尽くしてしまった。
しかし、月宮の方は私の存在に気付いたようで、ゆっくりとこちらに振り返った。
そして数秒、間があった。
その結果、私は数秒間月宮の透き通った虹彩を見詰める事になった。
その間が終わる時、月宮は笑った。
「よお! 来たのか。約束通りだな」
__めっちゃ笑顔だった。
アンタの顔の表情筋はそんなところまで可動域があるのかと疑うほどに、とにかく月宮の見たことの無い顔を見た。
狼狽えつつも答えた。
「約束って……日にちも時間指定も何もして無かっただろ」
「まあ、実をいえば来ないなら別にそれでも良かったんだ」
そう言いながら、どこから取り出したのか、懐中電灯で手元を照らしつつ、先程の作業を再開させたようだ。
どうやら暗がりで見えずらかったが月宮は背中に小さなバッグを背負っていた。
懐中電灯もそこから取り出したのだろう。
そして、相手から話しかけてくれたことで、緊張の解けた私は、言いたかったことを言及する事にした。
「てか、何で学校で無視したんだよ……」
「俺との関係は基本的に別の人間に知られないようにする。だから、この夜に会う時以外はあくまで無関係を装うんだ」
「何でそんな事をするんだ?」
すると、月宮は溜息を漏らす。
まるで、常識的な事を聞かれたかのように答えた。
「夜出歩く行為なんて、本来タブーだから、親とか先生にでもバレればもう、夜出歩け無くなるんだ。だから、お前もこの事は喋るな」
「まるで」などと直喩するまでも無く、本当に常識的な事であった。
月宮が急にまともな事を言い出したことに私は面食らった。
しかしこれでは私が世間知らずのようで気に食わなかったので、私は話を逸らすように関係の無い事を言及した。
「お前じゃない。私には夜月千代という名前がしっかりある。千代と呼べ」
「話が長くなったな。さっさと行くぞ、夜月」
私の発言は完全無視で月宮はさっき切った鉄線の隙間をくぐり抜けて行った。
月宮のこちらを振り回してくる態度に多少立腹している所もあるが、それよりも月宮が作り出す、不思議でそして美しい硝子細工の様な世界に再び連れていってくれるのではと期待している自分が居ることも確かだった。
だから私は素直についていくことにした。
しかし先頭を切っている月宮に対し、私の歩行速度は劣るばかりで、月宮との差がいつの間にか2~3メートル程離れてしまっていた。
「……なあ、もう少しゆっくり歩いてくれはしないか?」
__そう声を掛けると、まるでさっきまで私の存在を忘れ去っていたような様子で思い出したかのように振り返った。
「……何だよ、半分山道みたいなとこなんだからもっと歩きやすい格好をしてきたらどうだ」
指摘されてみれば、私は制服から着替えずにそのまま来たということを思い出した。
「ローファーじゃ、歩きずらいだろ。てか、なんで制服のままなんだ……」
「ああ、毎日学校に通うのに、家に帰る度にいちいち着替えていては面倒だからな。私は常に制服を身につけている」
「……そんな事を誇らしげに言うもんじゃありません……」
「制服の偉大さを知らないのか!? 普通に着てる分には過ごしやすいし、毎日何の服を身につけるかなどという事に煩わされる事も無く、学生という身分での正装だから何も咎められる事も無いのだ。世の学生達はもっと制服の偉大さに気づくべきだと主張したい」
「お前の場合はただ着替えを面倒くさがってるだらしない奴のように聞こえるな……」
むう……。
どうやら、月宮には制服の良さが伝わらなかったようである。
楽なのに。
「まあでも、俺は面倒以前に制服があまり好きではないからな」
__独り言をこぼすように、月宮はそう言った。
何故? と疑問を口にする前に、月宮が口を開いたので、私がその事を言うことは無かった。
「……そういえば、まだお前には目的を共有して無かった筈だな」
「目的?」
「昨日見ただろ……光を」
光。
その単語が指すのは、間違い無くあの奇妙な光の事でしかないことは明白であった。
「ただ、光と呼ぶのは分かりずらいから俺はアレを夜の魔法と呼んでいる」
「夜の魔法?」
全く聞き慣れない単語に私はそれを復唱するほか無かった。
「物心ついた頃、俺は光を見るようになった。親は子供の想像の産物程度にしか思われなかったので、小学生位で既に俺は光のことを口にしなかった。けれど、確かに光が存在している事を俺は信じ続けた」
月宮は真面目な声色でそう語る。
その様子を見れば、彼は遊び半分や、ふざけて喋っている訳では無いということが分かった。
「けれど……昨日のあの一件で、俺は確かにあの夜の魔法が存在している事に確信を得たんだ。あの空き缶……」
空き缶とは、あの奇妙な挙動を見せた私が蹴飛ばした空き缶の事であろう。
「アレは明らかに夜月が立っていた位置から俺の頭に当たるってのは有り得ないだろ。夜月が俺に空き缶を投げつけ無い限りはな」
「わ、私は投げつけてなんか……」
分かっていると、そう言って月宮は続けた。
「俺は魔法使いだって言っただろ。あの光は、俺が呼んだ」
……話が飛躍して全く分からない。
「そして、遂に奇跡が起こったんだ。これは大変な事だぞ」
「ハイハイ、分かったから」
「適当にあしらったな」
月宮が不服げにそう言った。
「__でも、別に光は信じていないわけじゃない。私も一度過去に見た事があるんだ。__と言っても、昨日光を目撃するまでは殆どそんな事忘れていたんだけどな」
「夜の魔法だ」
強い口調でそう訂正される。
「さっき月宮も光って言ってただろ」
「アレは夜月にも分かりやすく説明したまでだ」
子供みたいなことを本気で言う奴である。
短時間での月宮と接した感想はそうであった。
本当に、そういった厨二病感が抜ければもう少しはマシになりそうな気もする。
__そうこうしているうちに自分が知っている道に出た。
「ここって……まさか、秘密基地じゃないか。」
「秘密基地? 何だそれは。俺が見つけたいい空き地だぞ。」
俺が見つけたと、私が小学生時代に秘密基地を建設していた場所と知らない月宮は傲慢にもそんな台詞を吐いたのだ。
「ここは、元々私の秘密基地だ。それに、私が通ってた小学校のすぐ近くじゃないか。」
「秘密基地には見えない。ただのゴミ山だろ。」
そう言って、元々秘密基地だったものの残骸を指さした。
「まあ、とにかくここが元お前の秘密基地だろうが関係ない。今日から俺の秘密基地になる。」
そのように豪語した月宮は、その辺に放置されている机を寄せ集め、簡易的な作業机のようにそれらを並べた。
「何を突っ立って見ているんだ。お前も手伝うんだよ。」
あくまでも、上から目線でものを言ってくる月宮だった。
月宮の傲慢な態度に不満を覚えないでもなかったが、このまま好き勝手に自分の秘密基地が弄られてしまう事が癪でもあったので、私も付近にあった机を手に取った。
そして、机を2~3個ほど運び終えた所で、横に落ちていたダンボールが目に入り、私はある事を閃いた。
「おい、何してるんだ?」
「ジャーン! いいだろう」
私は机を4つ程並べてその上にさっき見つけたダンボールを敷いたのだ。
つまり、即席のベッドを作った。
そして、私はその上に寝そべった。
「……何だ、早速サボる気なのか?」
「ほら、今日は晴れて雲ひとつない夜空だ。昔はよく、地面なんか気にせず寝そべって空を眺めてたけど、夜空ってのもなかなか乙だね」
それを聞くと、月宮も夜空を見上げた。
「ほう__案外……悪くないな」
「これであと、満月だったなら完璧だったんだけどなー」
昨日は満月であったのだが、今日は月が欠けてしまっていた。
仮に三日月ならばまた違った風情もあるのだが、微妙に欠けた円形がそんな私の気持ちを嘲笑っているようにも思えた。
「月が欠けるのは、悪魔が月をかじるからだって__そんな話がある」
「ふーん……なら、今日はその悪魔を恨む事にするよ」
話半分に、私は星を眺めながらそう言った。
本気で受け取った訳では無いが、こうして彼と言葉を交わすことが何だか好ましく思えてきた。
「なんだ__さっきまで威勢がよかったのに、随分素直になるんだな」
「まあ、こうして星を見てると小さい事なんてどうでも良くなるんだ」
自分が発した言葉で気付かされる。
私はこの夜に非日常を求めているのだと。
なら、今はそんな日常とは別物の時だと捉えればきっと、変に意地を張る事も無く、そしていつもより素直になれる気がした。
「__ボーッとしてるのって……変なのか」
「え?」
私はまるで、月宮がいつもそうしているみたいに、独り言みたいに呟いてみた。
当然、月宮はそれに反応してこちらに視線を落とす。
それを皮切りに、私の口からは言葉が溢れた。
「女なのに、体を動かすのが好きなのって変なのか。勉強が嫌いなのって変なのか。恋愛に興味が無いのって変なのか。学校が嫌いなのって変なのか。__子供っぽいって変なのかな」
月宮は少し困ったような表情をした。
しかし、それに構わずに私は続けた。
「今生きている世界が物凄く窮屈に感じる事があるんだ。何事も、まるで区画整理されていくみたいに、中学生なんだからとか、女なんだからとか……とにかく型にはめられてそうやって区分されていくのが嫌なんだ」
そうして、止まることなくそのまま__とにかく私は思っていることをそのまま、ただひたすらに語った。
最初はタジタジと話したが、途中からは演説をする様に、思いの丈をぶつけた。
内容はまるでわがままで、身勝手で、利己的で、一方的で、とても偏見に塗れていて、お世辞にも名演説とは程遠いものだったと思う。
例えば家庭での不満、例えば学校での不満、例えば友人との不満。
そんな話を月宮は相槌を打つことも無く、ひたすら聞いてくれた。
月光がスポットライトで、壊れた学習机が演説台だった。
そんな聞き手がたった一人の演説会は私が言葉を途切れさせた時に、唐突に終わりを告げた。
「もういいか?」
その一言で、本当に終わりを宣告された様に、興奮気味だった私は、急速に体温が引いて行くのを感じた。
しかしそれとは逆に、思考はとても熱くなっている。
つまり、恥ずかしかった。
「さっきまで、あれほど喋ったのに今度は随分静かになったな」
しばらくの沈黙を置いて、月宮はそう切り出す。
「……まあ……その……」
さっきまで濁流の如く出ていた言葉を上手く発する事が出来ないのが信じられない。
「……別に変じゃないと思う」
私は顔を上げた。
「似た者同士なんだよ……多分。俺にも分かる。俺は誰にも理解されないでこのまま生きていくものだと思っている。俺は変わり者だし、自分でも他のやつを理解しようとなんて今まで全くしようともしなかった。そういうものなんだって、奴らとは相容れず、思考と価値観もまるで合わなくて、だからたった一人で生きていこうとしていた。けれど、やっぱり一人じゃ寂しいんだ」
肯定。
今まで、否定され続ける毎日で、いつの間にかそれが当たり前かのように思えてしまっていた。
けれど、月宮が言っているのは肯定そのものの言葉だった。
それは気休めなんかじゃなくって、相手の事もほとんど何も知らないのに、分かったような気になって掛ける慰めの言葉なんかでもなくって、不思議だけれど、それは私が長い間ずっと求め続けていた事だったのかもしれない。
「だから__俺達が出会ったのは運命だったのかもしれない」
「え?」
「月宮に夜月。同じ月を持つもの同士だ。だから、それもまた巡り合わせなんだ」
月宮は不敵に笑い始めた。
「これは、本当に上手くいくかもしれない。俺は遂に長年の夢を果たすことが近づいてきている! 夜月、これからもお前の力を借りる事になる」
月宮が何を言っているのかは最初は理解できなかった。
けれど、次の瞬間__
光が出現した。
気づけば周りの音も消えている。
「どうだ! 俺達2人に不可能はない。はっはっは」
そして、次に月宮はその光へ向かって手をかざした。
目も瞑って、集中しているようだ。
「何をぼさっとしている? お前もやるんだ」
月宮は乱暴に私の腕を掴んで、光の方へやった。
私はその状況に何も言うことが出来なかった。
「集中だ。そして、願え。お前の望むこと、そして俺の望むことも」
願え? 一体何をだろう。
そして私は咄嗟に思いついたことを頭の中で思い描いた。
__だが、それもつかの間。
後方で音がした。
それは足音。
「……逃げるぞ」
「ふえ?」
月宮はまた、私の腕を乱暴にとって走り出した。
光はみるみる遠ざかっていった。
そうして、しばらく止まることなく走って林を抜けた。
抜けた先は小学校の校庭だった。
急に走ったので息は上がっていたが、不思議と疲れはあまり感じなかった。
「邪魔が入ったな……仕方ない。今日はもうお開きにしよう」
そう言うと、月宮は足早にその場を立ち去ろうとした。
「ま、待てよ!」
月宮は振り返らずに足を止めた。
私は聞く。
「また、会えるのか?」
月宮は「ああ」とだけ答え、そのまま歩いていった。
私はその背中を追うことが出来なかった。
なんだか、短時間の間に色々なことが起こりすぎて、頭が着いて行けなかったのだろう。
そういう理由もあったが、それ以上に私がこの場を離れたくて仕方が無かったのかもしれない。
あの時に赤くなった顔と、熱くなった目頭は闇に紛れて月宮には見えなかったと。
そう思いたくてたまらなかった。
月宮は最初から最後まで勝手に現れ、勝手に消えていく。
とても振り回されただけなのかもしれないけれど、私はそれが嫌いではなかった。
そして、最後に月宮に伝えられなかった言葉はもうこれ以上、自分が素直になれそうに無いから言えずじまいとなった。
これも、今日は月が欠けているから昨日よりも月の魔力が弱まっている証拠なのだと……。
そう思うようにした。
帰路に着く。
そもそもここ数ヶ月はまともに小説書けてなかったです。徐々に執筆ペース上げたいと思ってます。