第3話 かなめさんの手料理
順調に描き進んでいます。これもひとえに、駄作でも読んでいただいている読者様のおかげです。これからもどうぞ訳あり天使をよろしくお願いします。
流石はネットで星評価の高いお店だ。食後のスイーツも手を抜いておらず、すごく美味しかった。横目で見ると帰り道を笑顔で歩いている。これにはかなめさんも大満足だったみたいだ。
「あそこのスイーツ、すごく美味しかったです。もちろん、シチューも美味しかったですけど!」
「喜んでもらえてよかったです。またしばらくしたら、あそこにランチに行きましょう」
「はいっ!もちろんです!」
そんな話をしながら帰り道を歩いていると、ふとあることを思い出した。これからかなめさんと過ごすことになるのだから、女性用のシャンプーやボディーソープ、切れかかっていたお酒、あとは煙草の補充をしなくてはならない。
「かなめさん、少し寄り道をしても構いませんか?」
「あ、えっ、も、もちろんです」
「ドラッグストアに行きましょう」
かなめさんと共に帰り道にあるドラッグストアへとやってきた。いつもはスーパーで安い物を揃えるのだが、スーパーでは限界があるのでここに来たわけだ。
「隆太さん、ここには何を買いに来られたのですか?」
「シャンプーやらボディソープやらです。自分の使っているのは男性用なので、かなめさん用に女性用の物を揃えようかと」
「しゃんぷぅって何ですか?」
「えっ?」
俺がそう返すと、かなめさんは焦り始める。
「あわわっ、しゃ、シャンプーですね!そ、そう、シャンプー!」
「かなめさん、そっちは掃除洗剤売り場です」
「あ、そうだった、いけない、私ったら、あはは」
「もしかして、石鹸とかを使われていました?」
「い、いえ…その、私。ずっと、石鹸しか使えなくて…」
「石鹸しか?」
「はい…だから、シャンプーとかそう言うの全く知らなくて…」
明らかに落ち込むかなめさんを見かね、俺はかなめさんの手を引いて女性用バス用品コーナーへと連れて行く。
「あっ…」
「良かったら、オススメとかあるんで選んでみませんか?」
「オススメ、ですか?」
「はい、シャンプーはアミノ酸が多く入った物が人気だと、職場の同僚に聞きました。これなんかどうですか、ボタニカルのシャンプー、植物由来そうです。かなめさんはきれいな髪を持っていますし、大切にしてもらいたいので」
「き、きれいな…」
そう呟くと、かなめさんは自分の髪を撫でる。
「かなめさん?」
「えあっ、すみません。気にしないでください!」
「どうです、決まりましたか?」
「えっと、じゃあ隆太さんが選んでいただいたこれで」
結局、シャンプーとボディソープどちらも俺が選んだ物を選んでくれた。そのあと、食品コーナーでお酒、そしていつも吸っている銘柄の煙草を買い物カゴに入れる。
「お疲れ様でした」
「お疲れ様でした、今日はとても楽しかったです!」
かなめさんはそう言うと、荷物をサッと整理して台所へと向かう。
「私は夕食の支度をします。良かったらそれまでゆっくりしててください」
「じゃあ、自分はお風呂洗ってお湯入れておきますね」
かなめさんが夕食の準備をしてくれている間、俺は浴室に向かい、浴槽の掃除をする。
今まで帰宅すれば、すぐに横になってだらけていたが、一つ屋根の下でかなめさんと同居生活をする様になってから、こうしてテキパキと動くようになった。普段ならデパートなんていかず、近くの服屋で適当な物を見繕う。
「やればできるじゃん、俺…」
洗剤をつけたスポンジで浴槽を擦りながら、そう呟いた。かなめさんと同居する事で、ある意味情けない姿を見せることができないという緊張感が出てきた。
見ず知らずの女性と同居するのは、普通に考えて稀にあるかどうか。テレビではシェアハウスを題材にした番組もあり、最近はこういうパターンもあるだろう、そう思っている。見ず知らずとは言え、あんな美人な人と同居できるのは嬉しい。
と言っても、嬉しいことばかりじゃない。これから、生活費の工面や職場への説明、問題は山積みだ。
「隆太さん、ご飯できました!」
リビングから声が聞こえたので、洗剤をシャワーで流して蛇口でお湯を溜める。
浴室の外へでると、香ばしい匂いが漂ってきた。テーブルには大きなハンバーグ、そして添え物の温野菜が載せられた皿が置かれ、予約炊飯していたご飯がお茶碗に盛られていた。
「すごい、あの短時間でこんな…」
「い、いえ。実は、朝食の支度と同時に仕込みだけ先にしていたんです。帰ってきてすぐに作れるようにと…」
そうだったのか。今日は起きてから冷蔵庫の中を覗いていなかったから、気づかなかった。
何故か俺は笑顔になった。
「あっ、えっと、隆太さん?」
「は、はい。どうしました?」
「ごめんなさい、迷惑だったでしょうか?」
「いえ、ただ…」
「ただ?」
「悩み事が吹っ切れたようです」
すると、その言葉に反応したかなめさんが笑顔を返してくれた。
「それじゃあ、かなめさん」
「はい」
「「いただきます」」
手を合わせて、ハンバーグを口にする。デミグラスソースが掛かったハンバーグは、ご飯とよく合う。
「食事中ですが、かなめさん。いくつかお話があります」
「何でしょうか?」
「今後のことです。実は、このアパート、もともと一人暮らしで契約したものです。ですので、管理会社に連絡して、二人暮らしをすることを伝えなくてはいけません」
「はい」
「しばらくは、自分が扶養する形を取ろうと思いますが、それにはうちの会社は結婚を前提とした内縁関係でなければ扶養手当はでません」
「内縁関係、ですか?」
「はい。ですので、自分とかなめさんは建前上、内縁関係であることにします。それでも構いませんか?」
「もちろんです。そこは、よく分からないので隆太さんにお願いします」
「分かりました。では、会社にはそう伝えておきます。あと…」
ひと呼吸おいて、大事な話を口にする。
「現状、このやり方では1年が限界です。ですので、かなめさんとこうしてシェアするのは、今年の冬、年が変わるまでになります…」
そう、例え上司を説得したとしても、身元が不確かな相手と1年以上もリスクのあるルームシェアをすることは、うちの会社では難しい。
そもそも、このルームシェア自体が、うちの会社ではご法度に近い。それが公務員の宿命だ。
「隆太さん…」
「は、はい」
「隆太さんは、素性も何も分からない私を匿っていただき、こうして住むことができる宿まで提供していただきました。私も、これ以上隆太さんにご迷惑をかけることなんてできません。年末までに答えを出します…」
「かなめさん…」
期限は1年、正確には年末までの6ヶ月ではあるが、いつまでもかなめさんと一緒にいることはできない。
「でも、かなめさん。思い詰めて自分に何も言わずに出て行ったりしないでくださいね?」
「え……」
「こんな自分でも、かなめさんの役に立ちたいんです。かなめさんが、今までどんな人生を歩んできたのか、自分には分かりません。でも、一人の人間として、一人の男として、困っている女性を手助けしたいのです」
「隆太さん…」
すると、かなめさんは俺の拳を優しく包むように握ってきた。
「黙って出て行ったりしませんよ。もしもの時は、助けてくださいね?」
「もちろんです」
話を終えた後、じっくりと味わったハンバーグは、さっきよりも濃厚で、とても美味しく感じた。
一応、約50話を目処にしておりますが、目安は約10万字を予定していますので、50話よりも少なくなる可能性もあります。
よろしければ、最後までお付き合いください。
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