第2話 かなめさんとお買い物
読んでいただいている皆様、いつもありがとうございます。梅雨でジメッとした日が続きますが、健康には十分お気をつけください。
かなめさんが着てきた服が乾いたタイミングで、近くのデパートに2人で出掛けることになった。
近くのバス停からバスに揺られ、目的地の近くで降車する。
服のことであれだけ遠慮していたかなめさんが、スイーツの話になると妙に食いつきが良く、隣を歩くかなめさんの顔はまるで子供の様に楽しみな表情を浮かべていた。
マスク越しではあるが。
俺は気にしないと言ったが、かなめさんは気を遣ってマスクで顔のアザを隠していた。
「そういえば、かなめさんはいつが誕生日ですか?」
「え、私ですか。えっと、確か5月の20日だったと思います」
「自分は7月の12日です。もしかして、かなめさんの方が年上だったりしますか?」
「今年で、確か23だったと思います…」
「じゃあ、自分と同い年ですね」
「えっ、そうだったんですか?てっきり隆太さんの方が年上かと思っていました」
自分の歳や誕生日を、思う、か。
そんな不確かで要領を得ない答えだったが、とりあえず何も気にしないことにした。かなめさんの言葉の意味に気がつかないほど、俺は鈍感ではない。
「5月だったら、誕生日までもう少しですね」
「ふふ、そうですね」
そんな話をしながら大通りを歩いていると、目的地であるデパートへと到着する。この辺りでは一番大きなデパートであり、駅近バス停ありと、交通の弁も良く多くの人々が利用して盛況であった。
「うわぁ、凄く大きなお店ですね」
「徳島屋、来るのは初めてですか?」
「は、はい。と言うより、こうして誰かとどこかに出かけることがあまりなくて…」
「じゃあ、まずは服を見に行きましょうか」
中に入ると、店内は大通りよりも多くの人々が行き交っていた。あまりの人の多さに辺りをキョロキョロと見渡して落ち着かないかなめさんを見て、思わずクスッと笑ってしまう。
「えっと、婦人服売り場は確か3階だったかな…」
「凄く広いですね…」
「迷子にならないようにして下さいね」
「もう!こ、子どもじゃないですから!」
そう言って頬を膨らませたかなめさんは、ポカポカと肩を叩いてきた。
何というか、微笑ましい。
「かなめさんが気に入ったお店について行きますよ」
「じゃ、じゃああそこに…」
そこは、春物のワンピースが展示台に飾られたそこそこ名の知れた服飾品店だった。普段であれば、男の俺がこんな店に来ることはないが、今日はかなめさんと一緒なので堂々と入ることが出来た。
「やっぱり、春物が多いですね。季節的にちらほら夏物も増えてきましたし」
「隆太さん、今の時期は夏物を前もって揃えた方が良いのでしょうか?」
「今年は暑くなるのが早いので、春と夏を跨ぐように着れる薄手の服を選ぶのが良いかもしれませんね。あと、夜は冷えるので上着を一着くらい…」
「そ、それだとお金が」
「かなめさん」
俺はかなめさんの口元に人差し指を当てて、それ以上何も言わせないようにする。
「その話は無しです。言ったでしょう、今日は楽しみましょうって」
すると、かなめさんは顔を真っ赤にして俯いてしまった。
あれ、俺何か恥ずかしいことでも言ったか。
◇
それからと言うものの、かなめさんは遠慮することなく自分の好きな服を試着して吟味していた。
ワンピース、カジュアル、ミニスカート、金髪なだけに、選ぶ服は色が控えめだが、はっきり言って全部可愛い。
特にかなめさんが気に入っていたのは、グレー色のワンピースだった。
これには、試着をお手伝いしていた女性の店員さんも見惚れている程だった。
「ど、どうでしょうか隆太さん…」
「か…」
「か?」
「可愛い、です」
結局、決まったのはそのワンピースと、上に着ることができるブラウンのフリル。これが所謂カフェラテコーデと言うものだろうか。
一式揃えるとそこそこ値が張ったが、そんな事を気にすることなく財布から料金を支払った。
「ありがとうございます。私、この服ずっと大切にします!」
そう言って服の入った紙袋を抱きしめるかなめさんを見て、思わず微笑んでしまった。
ついでに2階の紳士服売り場で当たり障りのないカジュアルな服を購入し、今日の楽しみであるデパ地下のレストランへと向かった。
ここはランチも定評のあるイタリアンのお店で、食後のスイーツが絶品とネットの星の評価も高いお店だった。
入ってからと言うものの、かなめさんはメニューに見入っていた。
「隆太さんは何にされるんですか?」
「自分はグラタンとピザにしようかと思います。ピザ、半分こしませんか?」
「じゃあ、私はシチューにします」
注文した料理が運ばれてくる間、俺は今後のことについてかなめさんと話すことにした。
「これから同居するにあたって、いろいろルールや段取りを決めておこうと思うのですが」
「は、はい」
「自分の次の休日に、役所に行きます。まずは住民票の変更ですね。前の住所からあのアパートの住所に変更してもらうつもりです」
「あ、あの、隆太さん。それは…」
「心配いりません。役所には事情を説明します。例え住民票を移しても、かなめさんの新しい住所については本人以外調べられないようにできます」
「そんなことができるんですか?」
「それには、自分のお願いを聞いてもらわなくてはなりません。それは帰ってから説明します。住所変更の後は管理会社に同居する連絡をします」
住民票の変更さえ上手くいけば、新しい住所で身分証明書を作ることが出来る。そうすれば、かなめさんに新しい携帯電話を持ってもらうこともできる。
「次に、アパートでのルールですが、基本的に落ち着くまでは一人で外に出ないでください。もし、何かのトラブルに巻き込まれた時、連絡手段もない現時点では助けようがありませんので」
「分かりました。それについてはお約束を守ります」
「アパートでの生活ですが、基本的に洗濯は自分たちでやりましょう。一応、他人同士ですし自分は仕事の服もありますので」
「じゃあ、ご飯を作らせてもらっていいですか?」
「えっ、逆に作ってもらってもいいんですか?」
「今の私に出来るのは、ご飯を作るくらいですので。良いでしょうか?」
もちろん、あんな美味しいご飯を作ってくれるのなら、断る理由もなかった。
「では、お願いします。あ、でもたまには自分にも作らせてくださいよ。こう見えて料理も得意なんで」
「もちろんです。私も隆太さんのご飯、食べてみたいです」
自分でそう言ってしまった手前、次に料理する時は手を抜けなくなった。
それから、家事の分担や寝床(俺は当分の間ソファ)の別離、風呂の順番(かなめさんが最初)などを説明し終えると、ちょうどグラタンとシチューがウェイターさんによって運ばれてきた。
グラタンは香ばしい焼き目がついており、シチューはキノコの香りが漂っている。
「ふぁ、美味しそうです」
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
グラタンをスプーンで一口すくって口に運ぶ。焦げ目のついたチーズがパリパリと音を立てて、香ばしい。
かなめさんの方を見ると、どうやらシチューも美味しいようで、ひっきりなしにスプーンを動かしていた。
「お待たせいたしました。マルゲリータピッツァです」
後に運ばれてきたピザをピザカットで8等分に切り分ける。これだけでも胸焼けしそうなくらいだが、やはり評価の高い店だ、いくらでも食べれてしまう。
各々の料理を食べ終えた後、お待ちかねのスイーツが運ばれてくる。
目を輝かせ、スイーツを見つめるかなめさん。
とても可愛かったです。
厚かましいお願いですが、もし余裕がありましたら、星一つでも構いません、気軽に評価していただけると、今後の参考・励みになります。また、お気に入りしていただけると、本当に嬉しいです。