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02

 とん、とん、と苛立ちながら、デスゲーム受付端末をいじる。デスゲーム会場施設の入り口ホールにある、一見するとATMにも似た機体である受付機は、今から参加できるデスゲームの一覧を表示していた。

 しかし。


「チッ」


 思わず舌打ちをしてしまう。本日開催のデスゲームの中で、まだ参加を受け付けているものはいくつもある。けれど、どれもこれも人間では参加できないようなものばかり。平たく言えば、アンデットが参加することが前提のものばかりで、アンデットならば足かせになるであろう程度のルールも、人間のオレでは即死してしまう。勝敗以前にゲーム開始前に死んでしまう。

 アンデットが参加するようになってから、こういったデスゲームが増えた。当然と言えば当然だ。

 いつか、アンデットしか参加できないようなデスゲームで埋め尽くされるだろうか。

 その前に一億稼いでしまわないと。

 諦めて明日開催のものから参加するデスゲームを探そう、と思ったとき。


「あーっ、唯一(ただひと)みっけ!」


 妙にハイトーンな声が背後から聞こえてくる。あまりに唐突な大声に、思わずびくりと肩が揺れた。

 ハイトーンボイスの持ち主は、なんの遠慮もなくオレの腰回りにタックルし、そのまま抱き着いてくる。

 見下ろせば、ふわふわな黒髪を持つ、華ロリドレスに身を包んだ美少女がいる。


「ボクってばラッキー! ちょうどお腹すいてたの!」


 見上げる彼女の瞳はくりくりとしているが、金色に光っているようで、うすら寒い恐怖のようなものを感じる。

 にやりと薄く開いた口からは、鋭い牙が見える。


「ごはんちょーだい!」


 ぐりぐりと頭をオレの腹に擦り付けてくる。可愛らしくご飯をおねだりしているが、彼女が要求しているのはオレの血である。

 吸血鬼。

 それが彼女だった。

 死んでも『生命のやり直し(レザレクション)』で元に戻るオレは、彼女にとって最高の餌である。好きなときに好きなだけ、それこそ永遠に補給される食事。にこにこと笑いながら接してくる彼女とのやりとりは、はたから見れば友人くらいには見えるだろうが、彼女はオレのことを便利なドリンクバーとしか思っていないだろう。

 とはいえ、最高の血を飲みたい、という彼女の欲求の元、強欲タウンにいる間の衣食住は彼女が賄ってくれているため、あまり抵抗もできない。金が欲しいオレにとって、生活費のほとんどを負担してくれる雇い主みたいなものだ。


「ちょっと待っててくれ。明日の参加申請だけ済ませたい」


「ええ~、どうせ勝てないんだから諦めなよ~。ほらほら、一生ボクと結婚してくれたら一億でも二億でもあげるよ~?」


「断る」


 受付機を操作しながら、吸血鬼少女の誘いを断る。

 結婚、と言っても恋愛感情はそこにない。一生餌として飼っておくために、都合がよくてそれなりに拘束力のある関係に持ち込みたいだけだ。これは当の本人から言われてしまっているので勘違いのしようもない。


「ちゃんとした金じゃないとダメだ」


「デスゲームで手に入れた金がちゃんとしてるのかよ」


 おかしそうにけらけらと少女は笑う。まあ、ちゃんとしてる金ではない。

 ここでいう、『ちゃんとしてる』とは、綺麗か汚いかではなく、後腐れの有無である。オレの自由が失われることで手に入れた金を使っても、今度は妹がオレを助けるために金を稼ぎ出すだけだ。似たもの兄妹のことだから、あいつも時期にここへたどり着いてしまうだろう。

 そうしたとき、オレと違って彼女は死んだらそこで終わりなのだ。

 それは駄目だ。


「まあちゃんとしてるかどうかは置いておいて、どのくらい貯まったの?」


「……五百万」


「あっは、マジ? ウケる」


 心底馬鹿にしたような表情で少女は言葉を吐き捨てた。デスゲームには、もう数えきれないほど参加してきたが、勝ったのはたった一回だけだった。しかも、まだ人間がまばらに参加していて、今ほど不利な状況でなかった時代に。協力プレイで今日と同じ『牢と狼』をクリアしたのだ。


「唯一はさあ、殺す気がないから負けんだよ」


 なんてことないように、彼女は受付機をいじる。少女の身長では少し見えにくいのか、軽く背伸びをしていた。

 ポチポチと受付機を操作する手には迷いがない。慣れた手つきだ。彼女は吸血鬼。吸血鬼もまた、アンデットと言ってもおかしくない種族。もちろん、殺す方法がない訳ではないが、そういったエキスパートは強欲タウンに来ない。もしかしたら、存在すら知らない可能性だって十分にある。強欲タウンに来るような連中では、彼女を殺すことができないのだ。

 だからこそ、デスゲームに参加したこともあるのだろう。


「今日のだって、魔女とかドラゴナイトはまだしも、ゾンビだったら勝てそうだったじゃん。でも結局逃げ回るだけ。()られる前に()れよ」


「……見てたのか」


「ドラゴナイトに賭けて、一万が百万に化けました~。ボクってばラッキー!」


 ぽんぽんと彼女は腰のあたりをたたく。そこにあるポケットは、少し膨らんでいるように見えた。その中に、百万があるのだろう。


「デスゲームなんだから、殺してなんぼでしょ」


 まあ唯一と違ってボクらは死なないけど。

 ケタケタと笑う彼女は、一つのデスゲームに参加申請をしていた。

 『鍵ありきの部屋』。鍵が入っているかもしれない球体を飲み込み、ゲームスタート。他の参加者の腹から球体を取り出し、外へ出るための鍵を探し出す。そんなルールのデスゲームだ。

 このゲームの恐ろしいところは、他の全員を殺したとしても外に出られる保証はない。なぜなら、自分が飲み込んだ球体の中に鍵があるかもしれないから。

 そうなると自ら腹を引き裂かねばならない。

 広い水槽のようなステージを『部屋』とし、注水が常に行われる。まごまごしていても溺死する、という仕組みだ。ちなみに脱出用の扉は上部にのみあるので、ある程度ゲームが進行しないと脱出はできない。


「……吸血鬼なのに水、平気なのか」


「聖地にあるような川は駄目だけどね~。デスゲームに使われるような汚い水道水に穢れを払う力なんてないよ」


 まあ、確かにデスゲームに使われる水はお世辞でも綺麗とは言えない。特に『鍵ありきの部屋』の水なんて、後半になれば死体と臓物、血で染まる。まあ、最近は死体が浮くことはなくなったが。それでも、赤く濁る水は、清浄とは真逆にあるだろう。


「唯一、ボクに賭けなよ」


 にんまりと、少女が笑う。きらり、と牙が光った。


「ボクが本当のデスゲームを見せてあげる」

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