前半戦 2
殴ったという事実はあるものの、そんなに罪悪感がないのはやはり性格によるものだろうか。
なんで俺はこんなところにいるんだろうな。あぁ、目の前で母さんがめちゃくちゃ怒ってる。でも俺そんな悪いことしてねぇと思うんだけど。
それを口走ってしまえば、顔を真っ赤にした母さん、どうなっちまうんだろうな。
竹葉優は、謎ヤンキー3人組の謎絡みを容易くあしらった。蟻を踏み潰すような感覚で拳を奮ってみせた。ヤンキーはどこかへ逃げ、それを見ていた周囲の人間はその光景をスマートフォンで録り、SNSで拡散してしまった。
内容は絡んできたヤンキーを撃退した高校生と、腕っぷしを大いに使った。としか受け取れない。が、SNSに投稿したすべての人間が全てを撮り、同じ内容でばらまいたわけではない。他者が見やすいように、切り抜いたり、分かりやすく文章を書き加えたり、アニメキャラクターが覚醒したSE音を編集したり。
面白おかしく、事実と異なる出来事に変えてしまった。制服と入学式の日にち、そして撮られた場所なんてものは現代においてすぐに把握してしまうのだから、ある意味問題だ。
校門に着いたときには、学園長が鬼のような形相で優と千影を待っていたのは他でもない。
「あんたねぇ、やるなとは言っていないのよ?私だって、あんたの年の頃には喧嘩を売られたら暴力の一つや二つで解決してたわよ。バレなきゃいいのよ、バレなきゃ。でも人前でしかも白昼堂々の能力まで使うなんて論外!論外よ!もし私がここの学園長じゃなかったら、停学させられてるわよ!」
なんとまぁ恐ろしいことを言うのやら。母親の言うこともわからないでもない。なぜなら、優がしたことは本来なら法を犯しているからだ。幸い、相手から危害を加えたことによる防衛処置としての能力を発動した、という内容で委員会は風呂敷を包み、優は今こうして学校の一室である学園長室で説教を受けている。
「悪かったよ、あれは急に来られたから発動しただけだ」
「そんなの当たり前でしょ。あんたがあんなのに体術で負けるはずない。そんなふうに育てた覚えはないわよ」
「まるで熊と戦っても負けない風なこと、言わないでもらえる?」
「とにかく」と学園長は声を低く、ゆっくりと言った。
「あんたが思っているほど、あんたの能力は常人を逸脱しているの。それを自覚して学校生活を送ってちょうだい」
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能力者育成学校とはいえ、公立私立の教育方針の地盤は変わらない。普通科目もやるし、体育だってある。一つ違うところをあげるとするならば、技術課程という科目がある。
これは、いわゆる能力の使い方を間違えずに使うにはどうするでしょう?と、答え合わせをする科目だ。大学進学する、就職する際に能力で入学の良し悪しが決まるのも現代に合わせたのだ。
ただ、能力の強弱で決まってしまう機関もあれば、能力がなくても入れる機関もあるから、昔より整備されている。
例の件によって、優は入学オリエンテーションに参加できなかった。どうやらこの学園の入学オリエンテーションは、とても素晴らしい、と耳にはしていた(学園長から直々に聞いている)。
(全然興味ねぇな)
適当に時間を潰し、適当に教室に戻ればいいや。
しかし、教員に見つかったらまずい。ただでさえ、外部でボヤ騒ぎ程度だが、問題を起こしている身。サボタージュしているところを見つかったら面倒なことになる。
ならば、屋上へ行くか。ということで、誰もいない階段を上ること5分。
なんともいい天気なんでしょうか、とお天気お姉さんなら言いそうな快晴。景色も見渡すことができるし、これならば後は特等席を見つけて、そこで飯を食おう。
そんな算段を考えながら屋上を闊歩する。屋上はただただだだっ広く、木々は一本も生えていないし、噴水もない。おろらくここで演習とかするんだろうな、と優は見渡して思う。
ちょっと能力調整でもするか。
ブレザーとネクタイを足元へ雑に起き、長袖を肘の辺りまで折る。首元のボタンを2つ開け、通気性を向上させる。
次に体全身に力を込めて、脱力。それを繰り返して5回。脳内でカウントダウンを始まる。
5、力を抜いたかイメージしろ
4、空気が外に向いているイメージしろ
3、体に何かが貯まるイメージしろ
2、射程内を決めることをイメージしろ
1、全てに対して標準を合わせろ
0、発動