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一輪咲いても 花は華。  作者: 小鳥遊 雪都
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訪問。

ピンポーン・・・ピンポーン・・・。


そのお部屋の中から聞こえてくるその明るいような間の抜けたような音に私は変にドキドキさせられてしまっていた。


なんと言って話を切り出そう?

手帳、落とされていました・・・かな?

あ、けれど、お礼の方が先か・・・。

この間は助けていただき・・・って。


けれど、もし・・・そんなことなんて忘れられてしまっていたら?


なかなか届けに来られなくてあれから1週間が経ってしまっていた。

その1週間を『たった』と考えるのか『もう』と考えるのかは人それぞれだろうけれど、もし、あの人が『もう』の考えの人で私のことなんか綺麗さっぱり忘れられてしまっていたならどうしよう・・・。

それ以前にこの部屋の人は本当にあの人で間違いないのだろうか?


そう考えると急に怖くなった。


帰ろう・・・。


そう決めて溜め息を吐き出した時だった・・・。

なんの前触れもなく目の前の玄関ドアがぐわりと開かれ、私はその玄関ドアに弾き飛ばされてその場に転かされてしまっていた。


「あ・・・ごめん。大丈夫?」


それは聞き心地のいい綺麗な女性の声だった。


「あ、はい・・・。大丈夫・・・です。すみません・・・」


私はそう答えて苦く微笑み、心の内で『あの人じゃない・・・』と呟き、一人で勝手にがっかりしてしまっていた。


玄関ドアに打ち付けられた私のおでこはまだじんじんと痛くて私はそのおでこを優しくさすりながら立ち上がり、その人と視線が合わさると今までに得たことのない感情に・・・感じに強く揺すぶられてしまっていた。


「そう。よかった。・・・で? ウチに何か用?」


その人のその問いのお陰で用事を思い出せれた私は慌ててカバンの中からあの日、拾った黒い手帳を引っ張り出し、それをその人の前に差し出して慌てる頭を落ち着かせながらゆっくりと丁寧にけれど、躓きながら言葉を連ね、訪れた用事を口にしていった。


「この手帳を拾って・・・。それで最後のページを見たらここの住所が書かれていたので・・・それで・・・その・・・」


私はそこで黙り込み、俯いてしまっていた。


私は・・・いつもそうだ。

私はいつも・・・。


「・・・わざわざ届けに来てくれたの?」


そう発せられたその人の声は柔らかくて優しかった。

だから私は小さくだけれど、はっきりと頷くことができた。


「わざわざありがとう。大切なものだから助かったわ」


その人のその言葉に私は『よかった』と呟き、知らずのうちに微笑んでしまっていた。


「・・・よかったら上がってお茶でもどう?」


その人のその言葉に私は『へ?』と間の抜けた声を漏らし、そのまま固まってしまっていた。

そんな私をその人はクスクスと笑ったけれど、不思議と嫌な感じはしなかった。


「もちろん無理強いはしない。無理強いして面倒なことになるのは嫌だから。・・・さ。どうする?」


そう言って大きな欠伸を繰り出したその人は綺麗だけど変な人だった。


変な人と関わっちゃいけない・・・。


普段の私なら適当な理由を付けて早々に帰ってしまうだろう。

けれど、どうしてか今日の私は・・・。


「・・・お邪魔・・・します」


そんな言葉を口にしてしまっていた。

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