お礼。
「あの・・・ありがとうございました!」
そう言って深々と頭を下げた叶の頬は火が出てしまうのではないかと言うほど熱くなってしまっていた。
「どういたしまして。さ・・・もう頭を上げて?」
そう言ってクスクスと笑ったその人に叶は『はい』と返事を返し、下げていた頭をゆっくりと押し上げて姿勢を正すと先ほどよりも頬を熱くさせてしまっていた。
近い・・・。
叶がそんなことを思ったのも束の間のことだった。
叶は目の前に立っているその人に見惚れてしまっていた。
「・・・あ~・・・これ? あの~・・・コスプレ! あそこでイベントやっててさ・・・」
そう言って苦く微笑み『あそこ』とイベント会場を指差したその人の指の先など叶は見もせずに『そうなんですか・・・』と気のない返事を返してその人のその姿を不躾なほどに見つめ見てその姿の美しさに驚かされてしまっていた。
叶の見つめ見るその人はとある人気ゲームの男性キャラクターのコスプレをし、その男性キャラクターを模したメイクをしていたのだけれど、その目鼻立ちから察するにそのメイクを取ってもその人のその顔が美麗であることは確かだった。
「ナンパされたのははじめてだった?」
その人のその問いに叶はまた頬を赤くし、何度も頷きながら先ほどの出来事をとろとろと思い出していた。
もし、この人が助けに入ってくれなれば私はどうなっていたのだろう?
そんなことを考えると叶の手は小さく震えてしまっていた。
そして、そんな叶の手を優しく握る手があった。
「・・・大丈夫?」
その人のその心配に叶は小さく頷いて俯くことしかできずにいた。
「・・・大丈夫じゃないよね? 手、震えてるし」
そう言ってクスクスと笑ったその人は模しているその男性キャラクターそのものだった。