心の宿る先は
初投稿&初小説です。自尊心の低い子が甘やかされて困惑するというシチュエーションを求め、欲望のまま書いて暴走した結果orz
「ごめんなさい、さようなら」
その一言を告げるのにどれだけの時間を有したことだろう。感情に沿った行動が実ったり、盲目に突き進むことが許された時から随分と歳を重ねた身にとっては、数年の時が永く終わりが想像できないもののように感じられた。
だからこそ、言葉が口の中で募って、呼吸の度に飲み込んだ息が異物のように思えた。決してそのような面持ちをしないように、決心をした強い者のような眼で、分かりやすい空気を演出して対面上の相手を見つめる。
「え、何々。いきなりどうしたの?」
何気ない日常の一コマで発した言葉に案の定、戸惑いと焦りが混じった反応が返ってくる。
この後の展開を予想し、憂鬱になりながら、意を決して終焉を告げた。
「わからないけど、直感的に思ったから。この関係を終わりにしよう。」
きちんと説明できる明確な理由なんてなかった、この濁流を具現化することなんて出来ない。湧き上がってきた蟠りに逆らわずにいた結果、不意に逃げ出したくなった。それが互いに築き上げた想いや過去の情景を上回っただけで。それだけでも、この場から逃げて、自分の日常を変えるには十分な理由だった。
「どうして。不満があった時は伝えてくれたらいいって言ったよね?遠慮して嫌な思いするくらいなら言ってっていったじゃん。」
「それとこれとは別問題だって、何となくそう思ったから。未来が見えないんだ。」
「分からないし、いきなりすぎるよ、やっぱり会う時間が減ったからなの。もしかして、そう思ってたから会う時間減らしたの?」
「・・・違うよ、違う。そういうことじゃない。」
「じゃあなんでいきなりそう思ったの、わからないよ」
押し問答のようだ。悪いのはこちらで、きちんと説明しないと納得いかないだけの関係だし、それだけの時を重ねてきた。頭では判っている、どれだけ残酷なことをしているか。情が移ったり、夢ができたり、行為を凌駕する欠点を見つけたりといった、何らかの理由を期待していることも。きっと何か、当てはまる訳はある。ただ、それを探す余裕や時間を惜しんでも、傷つける行為をしたとしても、今は真っ黒な紙に唯一描かれた点のように、独りでいたかった。
「多分、直感的に思った時に、その思いに引きずられて、気持ちが離れたんだよ。どうこう言っても、もう戻れないしやり直せない。今も冷静になってもこれからも。」
「連絡は取っていいの、縁を切るようなことはしないってことなの」
「拒絶しますってはっきり伝えるほどの何かがあったんじゃないから、連絡先を断つようなことはないよ」
「納得はできないけど、言い分は別れたいってことだよね、それは分かった」
「いきなり伝えて、納得できるまで待てなくてごめん。」
頭が漫然とする、心のざわめきが羽音のように脳を蝕む、喉の感触が気持ち悪いくらいにへばりつく。罪悪感で落ち着かない一方で、瞬時に次の行動を打算的に考えたことに気づいて、猶更くらくらした。風のせいで窓からカタカタと響く音が会話間に訪れる沈黙を強調して、落ち着かなさに拍車をかける。飲み込む唾が粘り気を帯びたころ、生ぬるい温もりが身体に巻き付いた。
「最後だと思うから、これだけさせて。」
「・・・わかった」
震える声を拒む力が湧かず、やりたいようにしてもらう。流されるように過ごしてきた記憶が己の欠点や失敗を彷彿とさせて、五月蠅かった脳内に沈殿する。人の温もりがあまり好きではないことを最後まで告げられなかったと感じて思考が止まる。そうか、そもそも温もりを求めたり、寂しさを埋める必要が無かったのかということに、今更ながらに気づいた。
「もういくね、本当にごめん」
「時間も時間だしご飯だけでも食べていかない?」
「お腹すいてないから、ごめんね」
きっと、巡り合った時には寂寥感から選んだわけではなくて、きちんとした理由がそこにはあった。そこに応えてくれた存在がいたから、今の自分がある。そこには相手の葛藤や、厚意、時間が注がれていて、自覚はあるのに勝手にその積み重なりを消し去ろうとしている現状が、対面している人を容赦なく抉る行為で。残酷なことをしているのに、唇は追い打ちをかけるような攻撃をけしかけた。
表面上は謝罪を繰り返しながら背を向け、扉を開いた。後ろから何か聞こえてきたけど、最早、答える体力は底をついていた。
*******************************
扉を占めた後、足早にその場を離れ、無駄な遠回りを繰り返し、帰路につく。草木の擦れる音や通りすがりの人の影に時々ピクリと震えつつも、追いかけてこないことに安心する。想像以上に冷淡な行動をしたこと、相手を傷つけた性格の悪い己を脳内で非難し、悲劇を噛みしめ、陶酔に浸る。一連の流れを振り返って、人を慮らず、欲求のままに振舞った後悔が押し寄せ、痛んだ何かに針を刺す。
自己否定は、別れ話が周囲に伝わった時の反応を和らげ、前進するための反省だ。そんな言い訳を繰り返していると、目の奥が熱くなってきた。熱を感じてきつく瞼を閉じた時、ふと、カッカッと音が聞こえ、その物音で我に返る。
前方に目を向け、息をヒュっと飲む。夜陰に紛れて薄っすらと輝く白が見えた。得体の知れないものを目にした恐怖から、体温の低下からくる震えが駆け巡り、思考と歩みが止まる。徐々に近づく白さに言いようがない恐怖を感じ、硬直した身体を動かそうと力んだ瞬間。
「あ、琉莉ちゃんじゃん。こんなところで。普段この道で会わないから意外!」
「うん。偶然だね、洸さん、久しぶり。」
四半歩先には、白の印象が強い洋装をした知人がいた。先程までの酔いが覚め、宵闇特有の寒さが肌に刺さる。馴染みの店で度々見かけ、時折会話を交わす、明るい人。引っ込み思案な様子を気遣ってか、積極的に話しかけてくれて、年の離れた親戚のように接してくる、ぼんやりとしている人の世界にさり気なく現れた住む世界の違う人。
異なる環境下で合わないタイプであるはずなのに、不快にならずに穏やかに話せる不思議な人と、こんなタイミングで遭遇したことをようやく把握し、反射的に俯いた。頬から上が朱を纏い始める。
「難しい顔してるよ。大丈夫?」
こんな時に限って表情を読まれて、焦った。感傷に身を任せて自己陶酔していたのがばれていないか、人を安易に傷つける独裁的な思考で傷つけないか。言葉を練るのが億劫なのに相反する気持ちは言葉を紡ごうとして、舌が縺れる。え、あ、といった意味のない音ばかりが耳に響く。
「本当に大丈夫?」
その言葉と近づく気配で、僅かに後ずさる。純粋に気を遣ってくれた事実に返事をしないといけないと、慌てて笑顔を作る。
「いや、人に余計なことを言って、後悔してただけ。気を遣わせてごめん、ありがとう。」
それじゃあまたと去り際の言葉を発しようと顔を上げた途端、視界の半分を埋め尽くした白に再び息をヒュっと飲んだ。その隙にと言わんばかりに手を取られる。
「勘違いだったらごめんね、でも泣けなくてどうしたらいいか判らない子みたいな顔してるから」
そういって手を引かれる。歩き出した洸さんの後を反射的についていき、数秒後に我に返る。
「ごめん、どこかに向かう途中だったよね、気にしないで。たまに話したことあると思うけど、空気読めなくて、また人を傷つけたかなって、よくあることだから。」
ぐんぐん歩き、歩行者の邪魔をしないようにと誘導したのではなく、どこかしらに向かう兆しを見せたことに焦りを感じ、感情のままに吐露を続ける。
「思ったことを言わずにいれなくて、自分語りばっかりしてて、筋も通ってないし相手を雑に扱って。うん、それで、また、一方的にまくし立てて。あと、相手の話を聞かないで怒らせただけで。それに。」
「琉莉ちゃん」
「あ、ごめん、五月蠅くてごめん」
「責めたわけじゃないよ、折角話してくれたのにごめんね。手とか息が苦しくないかなって。琉莉ちゃんの予定を聞かないで引っ張っちゃったから少し気になったんだ。」
「も、もう暗いのに騒いじゃって、近所迷惑だし恥ずかしいよね、意味の分からない話とか聞かせてるし、ごめん」
意志とは相反する行動に、理性が歯止めをかけようとしている一方で、苦しさからくる喉の違和感を押しのけて、謝罪と卑下の繰り返しに支配される。先ほどまでの闇に包まれる孤独感を味わいたい、独りになりたい、怖い。
「取り合えずね、ほら、あそこに座れそうなところあるから」
気が付くと、訪れたことのない公園のベンチ付近まで来ていた。謝罪をして立ち去るためにも、仕方なく腰を下す。程よい田舎特有の草の臭いと人気のない物静かな雰囲気に安堵し、少し距離を開けて座った人に問いかける。
「あの、」
「琉莉ちゃん」
辞するための言葉が遮られる。顔を向けなくてもわかる優しい声音。独り善がりの人間の矮小さを思い知らされるような、包み込む音。
「琉莉ちゃんに何があったかはわからないけど、予定は特にないし、声に出したいことを取り敢えず話そ。ほら、いつもこっちから話しかけてばっかりだから。」
「でも、独り言というか、後悔と反省してるだけだし、鬱陶しいよ、根暗の独白。相談でもなくて、ただ垂れ流したいだけだし」
「それは話聞いてから、自分で決めるよ、琉莉ちゃんは気にしないで。」
瞼を閉じた時に蘇るレベルの汚点を聞きたいとでもいうかのような返事に耳を疑う。好き好んで独り言を聞く人はいない、気遣ってくれてるだけだ、迷惑をかけたらだめだ。通常の判断を一瞬思い描くが、苦慮の末に環境を変えたストレスで摩耗し、疲労で蕩けた脳みそが判断を鈍らせた。虚無感を受け入れ、朦朧とした意識と、疲労感からくる投げやりな意識で、静寂を打破するかの如く、口火を切った。
先ほどまでの葛藤や逃避欲求をも乗り越え、不思議と言葉が次々と口から零れた。咄嗟の行動による関係の解消や伴う縺れ、その対応についての自虐や気道に鉛が詰まるような感覚。耐えきれない罪悪感と、悲劇のヒロインとしての陶酔。本意が分からない、繋がりが希薄な相手というのもあるのだろうか。ハッとした時には、周囲へのプライドが行動の邪魔をすること、自分の行動が自分を苦しめること、産まれた意味が分からないといった聞く方が対応に困ることまで暴露してしまっていた。まずい、数少ない知人を失う淋しさと、拒絶される恐怖から青ざめる。謝罪の意を述べ、そろそろ席を辞そうと顔を挙げた。
「あの、長くなってすみません、そろそろ・・・、え、」
「ふふふふふ」
そこには恍惚とした笑みを浮かべ、酔いしれたような面持ちを隠そうともしない雰囲気を醸し出す人が目の前に佇んでいた。人当たりの良さそうな笑みを浮かべる、ただでさえ縁遠い世界の住人が、理解不能な何かに変化した恐怖で言葉を失う。もしかして、人の不幸を好むような人間だったのか、何かおかしいことを言ったのか。戸惑いを隠せない表情で硬直していると、視線がこちらを向いた。
「ああ、笑っちゃってごめんね、ようやくだなって思って幸せを噛みしめてたんだ」
「・・・・は?」
思わず聞き返す。異次元の思考回路に思わず耳を疑う。何を言っているのだろうか。
「勝手な奴に応えて感じる幸せより、自分の心を優先してくれたことが嬉しくて。日頃の会話で琉莉ちゃんを本能のままに褒めつつ、見守る以上のことをしなかった努力が実った感動を味わってたいたんだよ。」
この人は自分の発言を理解しているのだろうか。身勝手な独白に対して、解決策を提示するわけでもなく、でもでもだってであると非難するわけでもなく、慰めるわけでもなく、笑ったことをあっさりと認め、幸福であるとまで言い切った。何故だか沸き上がった寒気と夜風による気温の低下で鳥肌が立つ。思わず怪訝な表情を浮かべて睨んでみると、蕩けるような眼差しを向けられ、取り囲む空気がじわりと変わる。これは、誰だ。良き知人だと思っていたのに、簡単に釣れる奴として見られていたのか。ならば何故、初対面の時から1年を経過した今になって変貌を遂げたのか。怒りを自覚した瞬間、慟哭が込み上げる。
「そうやって虐めても、楽しい反はできないし、何が目的?努力って。美人局とか宗教、それとも」
畳みかけるように責めていたら、いきなり距離を詰められ、肩を捕まれ、目の前が白一色になる。背中に回された熱を感じた時には、真綿のような柔らかさに包まれていた。数時間前に対峙していた相手に感じることはなかった接触への安心感を一瞬抱いたことを自覚し、思わず顔をそらす。洋装と肌の白さが、周囲の暗闇を飲み込み、浸食される。
「ひ、何を」
「あのね」
また、言葉が遮られる。質問を投げかけ、適度な相槌を打つ普段の面影は鳴りを潜め、周囲の静寂さの中で淡々と語りかけられる。
「琉莉ちゃんは、他人に求められることに安心して、全力で答える。普段から謙遜に見せかけた自傷行為で自分を守っているのに、人の要求に対するストレスでまた自分を責める。悪循環。だから、思い通りにならないとイライラする奴や、自分のロジックに当てはまらない行動を徹底的に攻める奴の餌食になる。」
「そんなこと」
「あるように見えるよ、だって理由なく優しくする人の声掛けを全力で否定して、努力しないといけないって言う人のことばかり。ただただ優しい人を遠ざけて、思うが儘に、自分のためだけに生きることを嫌ってるみたい。自分の人生なのに。」
思わず声を荒げそうになって、寸での所で留まる。いくら公園の周囲に人影も住居もないからといって、大声を出す時間帯でもなく、本能のままに糾弾することはまるで、それが事実であることを認めてしまっているかのようにも思えてしまった。
「そんな人間じゃない、確かにそういった所もあるけれど、ただ欠点だらけな自分が、拠り所もなく生きることができない瞬間もあるだけで。そんな自分をせめて求めてくれる人だけでも幸せにすると自分に意味があるような気がするし、卑怯者で自分勝手で頑固者の自分は人からの叱咤に耐えられないから自覚があって直せない所だけでも責められたくないだけで」
ムキになって弁解し、包み込まれる快適さから逃れるようにもがく。言われたことがほぼ正しいと直感的に判ってしまっていても、虚勢を張ることがやめられなかった。誰にも見せたことのない顔を見せる瞬間が、1人で生きていけない弱い人間であることを堂々と公開することに思え、邪魔でしかないプライドが受け入れることを拒む。もがいて絡まる腕が綻んだ瞬間、柔らかな拘束が、ベルトのような感触へと変わる。
「何を」
「そんな琉莉ちゃんが、拠り所を断ち切って、ふらふらと1人で立ち上がろうとしてる。脚を掬った甲斐がある。だから、だからこそ嬉しいんだ。ねえ、僕を試してみない?」
「はい?」
脈絡のない発言に思わず呆ける。先ほどまでの怒りが燻っているものの、突然の行為と先の読めない展開に呆気に取られる。
「1人で立つ様子を横で見守りたいんだ。こうやって何でもないやり取りをしたい、意味なんてなくていいんだよ。話を聞くだけにしようと思ってたのに、つい本音が出たから特攻してみた。」
瞬きをして、ぐいっと顔上げると、再び視線が交わる。先ほどの蕩ける瞳の意味に薄々感づき、未だにぬぐえない恐怖と少しばかりの嬉しさと、勘違いへの期待と、考えを巡らせ、躊躇いがちに口を開く。
「えっと、それは、所謂お付き合いをしようということで」
「そう、回りくどいことを言ったけど、そんな琉莉ちゃんが愛しくてたまらなくて、時々困らせながら傍にいたいだけなんだ。変わらなくていい、今のままの君を、自分を責めているのにどこか救いを求めている性格や注意されることを望んでいる眼差しを、ただただくるんでいたい。どうしたらいいか判らない様子の君を見ながら話を聞いて、他愛もない日常を共有して、褒めて困らせたいんだ」
虐めたいと思われているのではという予想が斜め上に掠っていた。自分にとってあまりにも奇想天外な展開に追いつけず、現実逃避をしようと黙り込む。気まずい雰囲気になって、自然に解散しないかとぼんやり考えていると、突然頬を撫でられた。
「わっ、突然何するんですか、ちょっと」
「いきなりだし、こんな状況で告げる形になって、ごめんね、君自身のことやこれからのことで悩んでいるときに。でも、そんなところを見せてもらえたから、可能性が少しでもあればチャンスが欲しいって、思ってしまったんだ。何なら今日みたいに言いたいことだけを言って僕が聞くっていう形でも構わないから。一歩踏み込ませてほしい。」
真剣な眼差しから目が離せない。自信をまるごと受け入れるだなんて、嘘に決まっている。両親や友人にさえ見せられない自分、世の中の理想や標準に合わせて変わることを求めてきた過去の相手、多種多様な人を受け入れようという理想論だけは立派な社会。全てから浮く自分を傷つけ、傷つける自分の判断で常識を感じて、地に足が着いた気になっていた。でも、これはまるで、そもそも自分が性格を変える努力もせずに、ありのままで普通に暮らすことを許された人間であるかのようで。
「どうしてそんな」
「見た目が好みだったから。上から下まで全部。」
きっぱりと言い切られて、再び呆気に取られる。正直な物言いを、こんな切羽詰まった状況で言うこの人は拍子抜けを狙っているのか天然なのか。ふと、この人のことを何も知らない自分に気づき、何も知らないことを気づいてしまった自分に気付き、ため息をつく。
「本当に、愚痴を聞くだけでもいいの、こんなに密着してるのに」
「それくらいの我慢で諦めるって、そんな覚悟で話しかけてないよ。また琉莉ちゃんに会えるなら、返事だってキスだって、なんだって待てる。ただ、近くか見守れる場所を確保してくれるだけでいいんだ。」
状況を整理できず、動揺したままの表情を愛おしげに見つめられる。1年間ずっとずっと見守ってたんだからこれくらい、と仄暗い瞳に微かな笑みを浮かべ、頬を撫でられ、ゆるりと覆うような抱擁を一方的に交わされた。
明らかに普通の状態じゃない人へ交流を持ち掛け、土足でテリトリーへ踏み込み、疲労と傷心でぼんやりとした人間に付け込み、都合の良い話で諭そうとする危険な人。相まみえたのも偶然かどうか怪しい。見守っていたとはどのレベルなんだろうか。1年間も1人の人間を虎視眈々と狙って褒め倒しつつ、見守るだけで、好意を維持できるとは、世間や恋愛に疎いのもあるが、執着のようなものに寒気を感じてしまうのは許されるだろう。その一方で、全てが受け入れられた錯覚に軽く高揚を感じ、生きづらさや喉の奥のつっかえが無くなるような感触を抱いた短簡な自分が悔しい。疲労と困惑で麻痺した脳内に、少しだけ力を借りて立ち直ってから、1人で頑張ればいいよ、とささやく声が頭を駆け巡る。都合のいい奴として扱うなんて、人としてどうかしてる、嫌、私がそうされてきたのか。認めたくなくても自覚してしまった欠点への絶望と、それに振り回されていた為に傷ついていた事実から逃れたことによる効果は否定できなかった。数時間前の私の決心や堂々巡りする鬱屈とした悩みへの覚悟は一体なんだったんだろうか。長い間苦しんでいた脳内が、こんな短時間で浄化されていくだなんて、認めたくない。それでも。
様々な思索の後、苦虫を嚙み潰したような顔をしながら、五月蠅く打つ鼓動の音が聞こえない振りをして、目の前に広がる白い壁へゆっくりと手を回した。
<END>
ご覧いただき誠にありがとうございます。説明不足&超展開ですが、今の自分にはこれが限界でした・・・
主人公は自分を責めることで周囲から身を守るだけじゃなく、自分を責める好意によって自分が一般的であると認識することで安心感を得ているマゾです。
そんな主人公を大好きすぎる変態な世話焼きと、構い倒されて、幸せな自分を受け入れるまでアタフタしている主人公を描きたかったのですが、体力が底を着きました。