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四話



 その日から、俺とメリルはテレポートが使える場所を探すためにエナトンの探索へと乗り出した。


 1日目。


 とりあえず、俺とメリルは昨日見つけた洞窟を拠点に、少しずつ足を伸ばしていくことにした。洞窟の周囲は深い森となっており、フォレストスパイダーの他、フォレストタイガー、フォレストベアーなど。とにかく強力な魔物が屯ろしている。

 森は視界が悪く、死角から突然フォレストタイガーが飛び出してきた時は、割と真面目に漏らした。

 メリルも、「ぎゃあああああ!?」と絶叫していた。この女、実は使えないんじゃ……という疑念が生まれたが、何とか逃げ延びた後、「き、貴様あ! 余を置いて逃げたな!? 余を置いて逃げたな!?」と、ものすごく責められた。知らんがな。メリルを囮にして逃げたのは事実だけど、後々に問題となりそうだったので、それは言わないでおいた。


 2日目。


 俺とメリルは相変わらず、森を抜けられずにいた。今日も、メリルが考えた無茶苦茶な奇策とやらで、俺が命がけで走って掠め取ってきたフォレストバードの卵が3つ。それを2つに分けて食したが、案の定、余った1つをどちらが食べるかで揉めた。


「レディファーストという言葉を知っておるか?」


 などと、メリルがのたまったので俺は、


「レディ扱いされたいなら、レディらしい振る舞いと身体つきになってから出直してこい」


 と言ってやったら、涙目で俺を叩いてきた。命がけで食糧を調達してきた俺に対して! この野郎!


 3日目。


 昨日の件で、3日目にして仲違いをした。

 洞窟にいる時、俺達は一切目を合わせず、一言も会話をしなかった。

 お互い完全に独立して食糧調達や探索を行い、俺は持ち前の脚で、メリルは奇策で食糧を確保していた。

 何だよ……やればできるじゃねえか。そう思ったが、絶賛喧嘩中だったため、口には決して出さなかった。


 4日目。


 さすがに体が臭ってきた。

 メリルもそれを感じているのか、お気に入りであろう外套すら着なくなってしまっている。

 俺達が飲水として使っているのは、水分を多く含んだ木の枝だ。メリルが教えてくれた。

 体を洗う水を搔き集めるのは、さすがに困難だ。どこかに綺麗な――と贅沢は言わないから、それなりに澄んだ水場があればいいんだが……。

 俺は一先ずテレポートできる場所の探索を打ち切り、水場を探すことにした。

 森中を駆け回り、その日のうちに水場を見つけることはできた。見つけてすぐ、メリルに教えてやろうと思ったが喧嘩中だったのを思い出して躊躇った。

 うーむ……何か声を掛けず、水場があることを教えてやる方法があればいいのだが……。


 5日目。


 俺が付けた目印に気が付いたメリルが、水場をちゃんと見つけられたらしい。さっぱりとした様子で洞窟に帰ってきた。彼女はソワソワと俺の方に振り向いては、思い出したようにそっぽを向く。これを幾度も繰り返している。

 俺はそんなメリルを放って、一人で探索を続ける。相変わらず、フォレストスパイダーなどに襲われながらも自慢の逃げ足で何とか逃げ延びるという、綱渡りのような生活を続けている。


 6日目。


 一向に探索が進まない。俺一人では、そもそも魔素の薄い場所かどうかなど、分かる筈がない。やはり、エナトンを脱出するには、メリルと協力するしかない。

 そのメリルはというと、昨日と同様にこちらをチラチラと見てくるものの、声を掛けようという素ぶりは見られない。


 …………そして、エナトンへ飛ばされてから1週間が経過した。





「のう……アッシュ」

「なあ……メリル」


 俺とメリルは暗い洞窟の中で、メリルが起こし焚き火を挟み、背中を向けながら声を掛ける。

 同時だったため、お互い次に何を言うか待った。そして、先に口を開いたのはメリルだった。


「魔素の薄い場所を見つけたかもしれん……」

「え……そ、そいつは本当か?」

「うむ……。昨日、少し遠出しての。ここから離れた丘の上。そこならば、テレポートが使える。だが、余だけではその丘まで辿り着けん」

「……なんでだ?」


 俺が振り向いて尋ねると、メリルもこちらを振り返って。


「魔物だ。魔物がおる。魔物の群れがおった……。余の奇策を以ってしても、一人ではどうすることもできぬ。そ、それで……」


 メリルは目を伏せ、どこか不安そうな表情で続ける。


「あ、アッシュが協力してくれれば……」


 震える声音で、最後の方なんか殆ど聞き取れなかったが……。だけど、しっかりと意味が理解できた。

 俺は苦笑混じりに肩を竦める。


「……また、無茶苦茶な奇策は勘弁してくれよな?」


 俺がそう言うと、メリルの暗かった表情がパアッと明るいものに変わる。


「う、うむ! 知力と敏捷に極振りした、余の天才的智謀と、アッシュの圧倒的な速さならば、あの魔物共を一網打尽にできる! 余に任せるがよい!」

「お、おう……。まあ、そうだよな。今日までお前と一緒に過ごしてて分かったけど。なんやかんやで、お前が本当に頭が良いってのは分かったしな。色々と物知りだし」

「きゅ、急に余を褒めても……な、何もでぬぞ! とにかく、今日決行だ!」


 メリルは勢い良く立ち上がり、拳を握る。俺も合わせて立ち上がりながら。


「てことは、もう策は考えてあるのか?」

「当たり前であろう? 余を誰だと思っておる? 余はアルティメット天才なのであるぞ?」


 それだけ聞くと、やっぱり馬鹿っぽいんですが。


「策はシンプルに行くぞ! 余のアイテムで一瞬だけ魔物共の気を逸らす。その間に、アッシュが余を担ぎ、走ってテレポートできる丘の上まで移動! テレポートで脱出するという寸法よ!」

「それで本当にいけるのか?」

「いける! 余に任せるが良い! フハハ! フハハハハげほ!?」


 自称天才が高笑いして咽せた。

 何だろう……すごく、不安になってきた。そんな俺の気持ちも知らず、メリルは何日かぶりに、外套へ袖を通す。


「さあ、アッシュよ。いざ、出陣だ!」

「…………まあ、やるしかないか」


 俺とメリルは洞窟を後にし、目的の丘の上を目指して歩き出した!


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