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二四話



 こんなに必死になって走ったのは、あのエナトンの時でもなかった。恐らく俺は、人生で初めて”必死”になっているかもしれない。


 俺は”必死”という行為も、言葉も嫌いだ。必ず死ぬと書いて、必死という。俺は死ぬのはごめんだし、頑張りたくもない。程々に、適当に、なあなあに生きていく。それが俺――だというのに、メリル達と出会ってすっかりと変わってしまった。


 俺はいつしか”必死”になっていた。あいつらと一緒にいたかったから、だから俺は……今もこうして必死になって走っている。なぜなら、俺には走ることしかできないから――。


 馬車で時間をかけて進んだ道を通り過ぎていく。目まぐるしく変わる景色、あいつらと通った道――俺は叫んだ。


「まだ俺達の冒険は終わらさせねえええええ!!」


 エナトンの時よりもずっと速く――そう、俺の人生で最も速く、俺は走った。





「これは……あれね……万事休す……?」

「絶体絶命ですね……」

「すまぬ……余の手が動かせれば、テレポートさせられたのだがな」

「仕方……ないわよ。もう、誰も動けないんだから」

「もう……私も『プロテクション』は使えませんから」

「そうね……はあ。あたしの命もここまでかー。短い人生だったわー」

「アッシュさんはちゃんと戻れたでしょうか……」

「余がテレポートさせたのだから心配なかろう……。あの男、今はさぞ大喜びであろうな?」

「そうねー。自己保身に長けているものね」

「ちょっとみなさん酷すぎませんか?」

「いやーマジでお前ら、俺がどんな人でなしだと思ってるわけ?」

「「「え」」」


 俺は3人がドラゴンに殺される前に、さっきの場所へ戻ってこれた。服は汗だくで気持ち悪いし、無理をしたから体が軋むように痛い。

 だが、それでも――。


「ったく、勝手にテレポートなんてさせやがって! 危うく間に合わなくなるとこだったぞ!」

「なっ……なな!? き、貴様! どうやって戻ってきたのだ!?」

「いや、普通に走った」

「はあ!? 馬車を使って半日以上離れた場所であるぞ!? たった数分で戻って来れるわけがなかろう!?」


 声を荒げる元気があるメリルの口に、俺は風呂敷の中にあった回復のポーションを突っ込む。


「戻って来れたんだから仕方ないだろ!? ほれ、回復ポーションだ。他の3人も飲め!」

「うぐっ……ど、どうして戻ってきたのよ……?」


 フレアが俺にポーションを口に突っ込まれながら尋ねてくる。俺は頭をガシガシと掻きながら。


「俺だって仲間を見捨てて幸せに生きて行けるほど、強い精神力は持ち合わせてねえってことだな」


 と、そうこうしている間にもドラゴンが近付いている。回復ポーションを飲んでもすぐに回復するわけではない。まずは、時間を稼ぐ必要がある。

 俺は風呂敷の中から、メリルの作ったアイテムを取り出す。取り出したのは、マークボールくんだ。


「そ、それは余のマークボールくんではないか!?」

「な、なにをするつもりですか?」

「こう使う」


 俺は助走を付けるために、少しだけ下がる。そして、助走を付けてドラゴンの鼻に向かってマークボールくんを投げる。力の無い俺では遠くまで飛ばせないが、助走があれば、それなりに飛ぶ。

 上手く飛んでくれたマークボールくんは、見事ドラゴンの鼻に当たるとマークボールくんの色が付くの同時に異臭が放たれる。ドラゴンはその異臭に顔を顰めた後、悶絶したように後退しながら暴れ出す。


『ギャオオオオオオオッ!?!?』

「あ、あれはえげつないですね……。鼻に向かって投げられてはどうしようもできないですよ……」

「あれは臭いんでしょうね……」

「おら! ドラゴンの心配なんかしてる暇はねえぞ!」


 俺は風呂敷から更に、エクスボールくんを取り出す。エクスボールくんを地面に向かって投げる。玉が地面に当たると同時に爆発し、土埃をあげる。それをありったけ投げると、俺達の姿は、完全に土埃に隠れる。鼻も利かず、視界も奪われたドラゴンは、一時的に俺達を見失い戸惑っている。

 そして、さらに時間を稼ぐために、少し走って離れたところに、エナトンでも使ったデコイくんを設置する。設置したデコイくんは、『ビービービー』と大きな音を立ててくれた。


『ギャオオオオオオオッ!』


 ドラゴンは嗅覚と視覚を奪われているため、聴覚を頼りに、音のする方向へと足を進め出す。これで、それなりに時間が稼げるはずだ。


「よし、回復ポーションは飲んだな!?」

「あんた……色々と小狡いわね」

「悪知恵が働くと言いますか……」

「全部、余が作ったアルティメットアイテムであるぞ! 勝手に使うでない!」

「だああああ! うるせえ! んなことはどうでもいいから……頼む! 俺に力を貸してくれ!」


 そう言って俺が3人に見えるように出したのは、虹色に輝く玉――アルティメットフォースだ。

 メリルは作った本人だから当然知っている。他の2人も、アルティメットフォースについて、俺が聞いた時に一緒にいたから、アイテムなのかは知っているはずだ。

 3人は顔を見合わせると、勝気に笑んだ。


「ふ……あたしの力を貸すんだから、絶対にあのドラゴンをぶっ飛ばしなさいよ?」

「私の力、アッシュさんに預けます」

「フハハ! 余の力、今回だけ貴様に貸してやろうぞ!」


 3人は虹色の玉に、同時に手を乗せる。すると、虹色の玉が輝きを放つ。どうやら、これで3人の力は虹色の玉の中に入ったらしい。

 それから、フレアとイシスが、


「アッシュさん……私の大楯を」

「あたしの聖剣も使いなさい」

「イシス……サンキュ。フレアもな。ああでも、聖剣って選ばれし者にしか使えないんじゃねえのか?」


 そう尋ねると、フレアは不敵に微笑む。


「あたしの力を貸してるんだから、アッシュが使えない道理がないでしょ?」


 そこら辺、意外とガバガバというか……適当なんだな。聖剣って……。

 俺は2人から大楯と聖剣を借り受ける。かなり重たいが、それでも俺は平気な顔で、3人に向かって言い放つ。


「あとは任せろ!」


 さあ、俺の時間だ!

 俺はアルティメットフォースを地面に向かって投げた!


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