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二二話



 農村に宿があるわけもなく、かと言って泊めてもらうのも腰が引けた俺達は、農村近くで野宿することにした。

 農村でドラゴンの情報を手分けして集めた俺達は、それぞれが持ち帰った情報を交換するべく、焚き火を囲うように集まっていた。


「まずは、余からであるな! 聞いた話では、ドラゴンは突然空に現れたそうである。そして、どこか慌てたようすで、上空を飛び回っていたらしい」

「あたしも大体同じ感じねー。そのあと、北の方に向かって飛んでいったって聞いたわよ?」

「丁度、王都の方角ですね……。私も同じことを聞かされました」

「なるほどなあ……」


 俺はそれぞれから聞いた情報に頷く。

 俺が聞いたことも同じだ。特に、補足するようなことはない。


「てことは、あれだな。もうここら辺にいないんなら、ドラゴン退治は無理ってことだな!」

「なーに言ってのよ? これはイシスのためでもあるし、情けないあんたにドラゴンスレイヤーって武勲をあげてあげようって、あたし達からの厚意よ? それを蔑ろにしようっての?」

「恩着せがましい……いや、嘘です。感謝してるから拳を握らないで!」


 メリルは移動中からこねくり回していた粘土を、やすりにかけながら口を開く。


「ふむ。とはいえ、ドラゴンの後を追うというのも少々……いや、かなり骨が折れな」

「そうですね……。私達には、その時間とお金がありません」


 それな。というか、それしかないまである。お金というのは、何事にも付いて回る。やっぱり、世の中金が全てだ。

 金の問題がある以上、どうすることもできない。完全に手詰まりになり、いよいよイシスを大司教に渡すしかないという状況で――鳴き声が聞こえた。


「ん……? 今、なんか聞こえなかったか?」

「なんかってなによ? 魔物の類い?」

「……ほら、また聞こえたぞ」

「余には聞こえなかったが……」

「いやいや、聞こえるぞ。確かに」

「私にも聞こえませんね」


 俺の耳にはその鳴き声みたいな音が聞こえている。それは、徐々に大きくなっているにも関わらず、まだ3人には聞こえていないらしい。

 だが、次の瞬間――。


『ギャオオオオオオオッ!!』

「「「!?」」」


 今度は聞こえたらしく、3人とも驚いたのか、肩を揺らした。


「な、なによ今の!?」

「なにかの……な、鳴き声でしたね……?」

「い、いいいい今の……聞き覚えが――!?」

「そ、そそそそんなわけないだろ!? きききき気のせいだ!」


 俺とメリルはその鳴き声に反応して、同時に肩を震わせる。そんな俺達を心配してか、イシスが心配そうな表情で、メリルの背中を摩る。


「ど、どうしたのですか? このように震えて……しかも、とても冷たい汗をかいて……」

「なに? あんたら、この夜に迷惑なほどうるさい鳴き声を発してるやつの正体を知ってるわけ?」


 フレアの問いに、俺とメリルは首を横に振る。

 本当は、ものすごく心当たりがあるのだが……。


「ま、ままままさかな……!?」

「そそそそうである! まさか……まさかな!?」

『ギャオオオオオッ!!』

「「ぎゃああああああ!?」」


 かなり近づいて来ているようで、その鳴き声がはっきりと聞こえた。

 もう間違いない。メリルの反応を見る限り、俺の勘違いでもないようだ。できれば、勘違いであって欲しかった――。

 翼を羽ばたく音が聞こえ、俺達は空を見上げる。すると、そこには月明かりを背景に、巨大な影が浮かんでいた。

 強靭的な四肢、大きな翼、蜥蜴を思わせるような体躯――泰然としたようすで空を飛んでいたのは、見間違うはずがない相手。そう、俺とメリルがエナトンで出会ったドラゴンだった――。


『ギャオオオオオオオッ!!』

「「ぎゃああああああ!?」」


 今度は俺とメリルだけではなく、イシスとフレアも叫び声をあげた。

 ドラゴンは咆哮しながら、どこかの空へと飛んでいく。夜で、視界が悪くはっきりとした姿はドラゴンが遠ざかることで、すぐに追えなくなってしまった。

 残された俺達は、安堵の息を吐く。


「お、驚いたわ……。まさか、こんなに早く遭遇するとはね……」

「そ、そうですね……。私、心の準備ができていなかったので驚きました……」

「…………」

「……? どうしたのですかメリルさん? すごく震えているようですが……怖たかったですか?」

「ここここ、怖くないわい! そ、そうであろう!? アッシュよ!?」

「そそそそ、そうだな! あ、あんなの……こ、怖くないわい!」

「脚が震えてるわよ? 2人とも」

「「…………」」


 その後、なにかを察したらしいイシスが、「あのドラゴンのこと、なにか知ってますよね?」と聞いてきた。

 もはや、言い訳も言い逃れもできないと悟った俺とメリルは……。


「ほ、ほら……前に俺とメリルがエナトンに行った話したよな?」

「じ、実はな……。あのドラゴン、エナトンの時に戦ったドラゴンなのだが……なんというか……その」


 メリルは悪戯がバレた子供のようなようすで、白状した。メリルの作った強制テレポートアイテムで、テレポートさせたドラゴンであるということを。


「そ、それ本当なの?」

「マジだ……立案者はメリルで、俺が実行犯だ……」

「そ、その時はそうするしなかったのですよね? それなら仕方なかったと思いますが……その……幸い、まだドラゴンによる被害は出ていませんが、もしこれで人が亡くなったりでもしたら――」

「わ、分かってるわい! アッシュよ! もう成果とか武勲とか、そんなものこの際全て無視だ! あれが街を焼け野原にする前に、我らでなんとかしなくては!」

「そうだな! 責任問題になって死刑にされてたまるか!」

「この男……自分の責任問題ってなると途端にやる気になるわよね……。さっきまで『ドラゴンと戦うとかどうかしてる』ってスタンスだった癖に!」

「うるせえフレア! しのごの言って場合じゃねえ! 俺達はイシスの話を抜きにしても、あのドラゴンをぶっ殺さないといけねえんだよ! もうお前達も運命共同体だからな?」

「わ、分かってるわよ……。さすがに、ここであんた達を見捨てたりはしないわよ」

「はい……。私もぜ、全力を尽くします!」


 ということで、俺達は日が昇ってすぐにドラゴンが飛んでいった方角へと足を進めた。





 馬車をゴロゴロと転がすこと数時間。

 ドラゴンはどこまで飛んで行ったのやら。途中ですれ違った行商人も、「ドラゴンを見た」と言っていたため、方角は間違っていないようだ。


「頼むから……街とか燃やしたりはしないでくれよお……」


 俺の責任問題になるから!

 俺はそういう焦燥感に駆られるが、焦っても仕方がないと息を吐いて自分を落ち着かせる。

 ふと、隣に座っていたメリルが、例のアルティメットフォースを手に、うんうん唸っているのが視界に入った。


「なにしてんだ?」

「いや、アルティメットフォースが完成したのだが……。アルティメットフォースという名前でいいものかどうかと……」


 どうでもいいことを聞いた。


「ふむ……まあよい! とりあえず、これは仕舞っておくとしよう!」


 メリルはそう口にして、アルティメットフォースを外套の裾の中に通じる亜空間とやらに入れた。俺は一つ、気になったことを尋ねた。


「なあ、アルティメットフォースについては、前に聞いたけど。実際、どうやってステータスを一纏めにするんだ?」

「ぬ? それは簡単である。さっきの虹色の玉に手を触れるのだ。そして、触れた者が譲渡するパラメーターを念じると、一つのパラメーターだけが虹色の玉に蓄積されるのだ。あとは、虹色の玉を割れば数分間、譲渡されたパラメーターを受け継ぐことができる」

「へえ。例えば、俺がアルティメットフォースに触って、『敏捷をメリルにあげる』みたいな感じで念じることで譲渡できるわけか……」

「そういうことである! 念じる必要があるのは、盗難防止であるな! 数分間というのも、同じ理由である!」

「つまり、数分後にはもとに戻るわけか」


 俺は「なるほどなー」と顎を手の上に乗せた。

 ちえ……あの、アルティメットフォースを使って、メリル達のパラメーターを奪ってやろうかと思ったが――さすがメリル。そういうところに抜かりはない。他のところでは、抜かりしかないが……なんなら、網レベルで抜けるまである。

 暫く場所で移動を続けて、そろそろお昼に差しかかろうという時刻。俺達は馬を休ませる意味を込めて、馬車を止めて昼食にしようと――そこで、再びあの咆哮が聞こえた。


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