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二話


 前借りした給料――減給された――を持って、俺は夕焼け空の街を歩いている。いつも訪れている道具屋ではなく、折角お金があるならと、いつもとは違う場所へ行こうと探しているわけだが……。


「どこも物価が高いもんだな……」


 回復ポーション一つで1200メイトって。いつもの道具屋だと1000メイトだぞ。全く……足元見やがって!

 暫く、足に任せて歩き回っていると、ふとある所で足が止まった。目の前には、メリルの道具屋と書かれた看板の掛かった道具屋が建っている。

 あれ、こんなところに道具屋なんてあったか?

 気になって、店の扉を開いて中へと入る。カランカランと、鈴が取り付けられていたようで、軽快な音が店内に響く。初めての店で、恐る恐る中まで歩を進める。

 内装は少々派手な装飾で彩られ、なのにどこか厳かな雰囲気に満ち満ちている。妙に落ち着かない。

 ソワソワと店の棚に並ぶ商品に目を向ける。


「って……おお? 回復のポーションが……たったの600メイト!?」


 やっす!?

 俺が思わず叫ぶと、


「フハハハ! そうであろう? 余の店は、安いのが売り、であるからな!」


 店の奥から、真っ黒の外套を羽織ったような人影が出てきた。次第に露わとなった姿を見て、俺は驚く。

 な、なんだこの子……ものすごく可愛いぞ! 美少女だ! 美少女がいる!

 現れたのは、長い銀髪を一つに束ねた美少女だった。真っ黒の外套と、薔薇の装飾が施された眼帯を身につけている。正直、変な格好だ。


「ふむ? なんだ? そんなに余の顔をジッと見つめて……何か変なものでも付いておるか?」

「あ、ああ、いや。悪いな、不躾に。ちょっと、その格好が気になってよ……」

「ほう? まあ、この余のアルティメットカッコいいファッションに見惚れてしまうのは分かるが……貴様が見るべきは、この店の商品であろう! さあ、見よ! 今、是非に!」

「あ、は、はい……?」


 美少女は迫るように店の商品を勧めてきた。その気迫に、思わず頷いてしまう。


「うむ! よろしい! それで貴様。何を求めて、余の店に来たのだ?」

「あーえっと……。回復のポーションとか、あと色々と便利そうな道具を探しに来たんだけど」

「便利そうな道具……うむ! 回復のポーションとかいうつまらないポーションなら、そこの木箱にあるぞ。あとで購入するがよい! まずは、こっちだ!」


 美少女は、バッと音を立てて外套を翻し、どんな手品を使ったのやら、手には先程まで所持していなかった紫色の禍々しい色をしたポーションが――。


「これは余が作った特製ポーションである! 通常の回復ポーションより、なんと5倍の効果を持っておる! どうだ〜? すごいであろう?」

「おお! そ、それはすごい……けど、どうせ値段も5倍なんだろ……?」

「貴様、余の話を聞いておったか? 余の店は安さが売り! 今ならなんと、800メイトで売ってやろうぞ!」

「マジかよ! 何でそんなに安いんだ? 何か……危ないこととか、ないだろうな?」

「…………」


 あ、こいつ黙り込みやがった!


「おい」

「…………いやあ、まあ、あれだ。あれ! 効果が5倍であるからな! 少々……いや、かなり不味い! 不味すぎて飲んだポーションを吐いてしまう故、回復しないという些細な問題があるくらいだな!」

「いらねえ……」

「む。な、ならばこれはどうだ!」


 美少女は紫色のポーションを店の奥に投げ捨てると、再び外套を翻す。すると、再び別の商品を手にしていた。


「これは召喚の呼び笛だ」

「それって、確か……召喚獣を呼び出して、戦わせる代物だったよな?」

「うむ、その通りである。これは余が普通の呼び笛に改良を施した一品でな? 通常、召喚の呼び笛で呼び出せる召喚獣は1体だけであるが、この呼び笛は――何と10体も呼び出せるのだ! つまり、効果は10倍! どうだ? すごいであろう?」

「す、すげえ! でも、どうせお高いんだろ?」


 俺が言うと、美少女は指を左右に振り、不敵に笑む。


「ふっふっふ〜。今日は、特別に――1000メイトで提供してやろうぞ……?」

「で、一体どんなデメリットがあるんだ?」

「…………」


 俺の予想通り、何かしらの致命的なデメリットがあるのか、美少女は口を引き結んで黙り込んだ。この野郎。


「おい、話せ」

「…………いやあ、まあ、デメリットという程のものでもないのだが。召喚した召喚獣の制御ができず、使用者に襲い掛かって――」

「いらない」


 美少女が言い終える前に購入を拒む。段々と分かってきたぞ……。というか、これもう改良じゃなくて改悪じゃねえか。


「な、ならば次! 次は目玉商品であるぞ!?」

「へえ」

「へ、へえって……バカにしおってからに! 見ておれー!」


 美少女は外套を翻す。お次はなんだと思っていると、美少女の手に現れたものは、丸い手のひらサイズのガラス玉である。


「これぞ、余が作り出したアルティメットアイテム! その名も、アルティメット・テレポーター・ポータブル! 略して、テレポータブルである!」

「……ほう? 名前的にテレポートできるアイテムってことか?」


 名前だけ聞いたら、中々便利そうな代物だ。ピンチになった時に、そのアイテムを使って逃げることができる。


「うむうむ、貴様中々察しがいいな! これは余のおすすめ商品でな。貴様の言う通り、このガラス玉を割ることでテレポートできるのだ! どうだ? 買いたくなったであろう?」

「いらない」

「な、なぜだー!?」


 俺が即答すると、美少女は戦慄したような声を上げた。俺は半眼で、


「どうせテレポートできる場所は選べないとか、そんなオチだろ? もうこの数回のやり取りで、ここにあるアイテムの殆どがガラクタだって理解した」

「そ、そんなことはない!」

「なら、そのアイテムの効果を包み隠さず話してみろ」

「…………」


 この女、都合が悪いと黙り込むな!?


「んじゃ、帰るわ」

「ま、待つのだ! 他にもアイテムは沢山ある! まだ見ていくがいい!」

 踵を返した俺の腰に美少女が纏わり付いてきた! こ、こいつ……意外と力が強くて振り解けない!


「お、おい、離せ。離せつってんだろ! お前の作ったアイテムとか不安しかないからいらねえよ!」

「買ってくれ頼むー! そろそろアイテムを売らないと、今月の家賃が払えないのだー!」

「うるせえ! てめえに金を恵んでやる余裕なんざねえんだよ!」

「まあ、そんな貧相な格好をしておるからな……ぷぷ」

「てめえ、ぶっ飛ばす!? いい加減離れやがれ!」

「ぬおっ!?」


 俺は体を振り回し、しがみ付いていた美少女を振り落とすように、無理矢理引き剥がす。


 パキンッ!


「はあはあ……やっと、離れやがったか……。ん?」

「ぜえぜえ……。ぜ、絶対、買うまで帰らせんぞ……。む?」


 俺と美少女は顔を見合う。互いにパチクリと瞬きしつつ、


「……何か割れる音がしなかったか?」

「……何か割れる音がした気がするのだが?」


 どうやら、聞き間違いじゃないらしい。俺と美少女は、同時に視線を下に向け――床に散らばったガラス破片を見て戦慄した。


「お、おおおおおい! こ、これってもしかして……」

「も、ももももしかしてなくとも、テレポータブルだ!」


 と、その会話を最後に割れたガラス玉が眩い閃光を放ち、俺達を包み込んだ――。




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