一五話
※
「早くしなさいよ〜! 荷物持ち〜」
「ぜえぜえ……」
俺は荷物持ちになりました。
「ふむ……。あと、何か買い揃える物はあったか?」
「ええっと……。ポーション類は全て補充出来ましたし、あとはフレアさんの個人的な買い物でしょうか」
始まりの街に戻ってきた俺達は、明日のクエストのためにポーションなどの消耗品を補充している。
ちなみに、勝負の結果だが――メリルが3勝0敗、フレアが2勝1敗、イシスが1勝2敗だ。
ああ、言わずもがな俺は、全敗です。悲しいねえ……うん。
フレアとの勝負に負けた俺は、言われた通りにそれら消耗品を持つ荷物持ちとなっている。俺の筋力では、もう持てないのだが……フレアは嬉々とした様子でまだ何かしら買うつもりらしい。
「さあて〜何買おっかなあ〜」
「…………」
目でイシス達に助けを求めるが、華麗に無視された。
おやおやー? パーティー内で、俺の好感度が下がってる気がするう〜。いや、まあ、元からなかった気がするけど。
そんなことを考えていると、フレアが俺を手招きしながら呼びつける。
「アッシュ〜ちょっと! 早く来なさいよ! このノロマ!」
フレアにだけは言われたくねえ……。
「へいへい……今行きやすよー」
フレアに呼ばれて入った店は、ランジェリーショップだった。女性物の下着が沢山あり、仲間達は下着を物色しながら百面相している。主にイシスが。
「なっ……ふ、フレアさん、そ、そんなに大きいサイズのものを……!?」
「まあ、でも大きいって辛いのよね〜。肩凝るし、戦闘の時邪魔になるし」
「ふむふむ……。余もまだまだ成長する途中であるからな、フレアに負けず劣らずなバインバインになるかもしれぬ。その時は、よろしく頼むぞ!」
「…………」
イシスから怒りのオーラみたいなものが見える。
あいつ、自分のまな板が如き断崖絶壁が余程コンプレックスになっているらしい。歳下のメリルにさえ負けてるからな……。
「はあ……」
俺はピンク色で可愛らしいフリルの付いた下着などを眺めながら、溜息を零した。
※
ランジェリーショップを出て暫くのこと。
さらに増えてしまった荷物に、そろそろ俺の腕が限界を迎えようとしているのだが、女共はまだまだ買うつもりらしい。俺の前を並んで歩き、楽しそうに会話をしておる。
悪魔か……と、内心で悪態を吐くと、
「そこのお嬢さん達〜。みんな可愛いねえ〜? もしかして、冒険者? 今から俺達、酒場に行くんだけど、一緒に行かない? あーそこの後ろにいるのは、ただの荷物持ちだよね? そんなの放ってさ? どうかな?」
「「「?」」」
2人組の男達が、3人に声をかけた。ナンパのようだ。
男達も鎧などを身につけており、見るからに冒険者のようた。顔を見たことがない。他所の冒険者か?
というか、何? そうですよ、ただの荷物持ちですが何か? 見れば分かんだろ。喧嘩売ってんのか……?
フレアはナンパされたのが嬉しいのか、喜色の笑みを浮かべる。
「ふ、ふ〜ん? ちょっとタイムよ、よろしいですかしら?」
おい、フレア。今更取り繕って上品な言葉遣いにしても遅いだろ……。
フレアは手招きでメリルとイシスを呼ぶと、3人は円陣を組んだ。
「ど、どうしよう……! ナンパされたわよ!?」
「どどど、どうしよう! ナンパされたぞ!?」
「ええっと……」
テンションが上がっているのはメリルとフレアだけで、イシスは困ったような笑みを浮かべている。ふと、フレアの視線が俺に向けられた。
「ねえ、あたし達どうするべきなの!? こ、こういうの初めてで……」
「へえ」
「や、やっぱり誘いを断るのはマナー違反よね? ナンパしてきたのって、あたしが超絶美女だからよね?」
「そうだろうな。知らんけど」
「アッシュさん……適当にそんなことを言ったら――」
と、イシスが懸念した通り、フレアは調子に乗り始める。勿論、それに触発されてメリルも……。
「いいわ! じゃなくて……い、いいですわよ? どこで飲み……飲みますの?」
「フハハ! 余も行くぞ! 無論、イシスも行くであろう?」
「え、わ、私はちょっと……」
イシスが助けを求めて俺に視線を向けてきたので、目が合う前にそっぽを向いた。
「あ! ま、待ってくださいアッシュさん! わ、私だけに2人を押し付けるつもりですか!? や、ちょ……メリルさん、フレアさんも! 私の袖を引っ張って無理矢理連れて行こうとしないでください!」
俺は2人にがっしりと掴まれて、連行されていくイシスに向かって一言述べる。
「俺は今回、一斉責任を取らないからな? そいつらが何をやらかしても、俺は知らん。まあ、ついでに荷物持ちの意趣返しも込みで――精々、苦労してくるこった」
「――! そ、そんな!? フレアさんもメリルさんも酔っ払うと酷いのは知ってますよね!? それでお店の物を壊して、その弁償代金でクエストの報酬が無くなったことだってあるのですよ!? あ! あー! ああああ!! アッシュさあああん! アッシュさああああん!?」
俺は耳を塞ぎ、聞こえないフリをした。
さて、今日の仕事は終わりだな。ミリィさんのところに顔を出して、今日は帰ろう……。あ、メリルがいないから店の鍵が開けられないじゃん……!
俺は頭を掻き、今日は女のマッスル亭に泊めてもらうことにした。
背後からはイシスの悲鳴が聞こえてくるが……俺は知らないフリをした。




