一三話
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『アルティメットワン』が4人となり、早くも1週間が経った。
知力極振りのメリルと防御力極振りのイシスに加え、攻撃力極振りのフレアと――まあ、何とも尖ったパーティー構成ながらも、クエストを失敗することが激減した。偶に失敗するけど……。
「やっぱ、フレアの加入がでかかったんだろうな……」
「はは〜ん? 何よ? 急に褒めても夕食のマンガ肉は上げないわよ?」
「いらねえ……」
フレアは自分のマンガ肉を俺から取られないためか、腕で囲った。取らないから安心しろ。というか、何でこの肉はマンガ肉って名前なんだろう……。
俺が下らないことを考えていると、イシスが野菜のスープを飲んで、
「そうですね。私達のパーティーには、しっかりとしたアタッカーがいませんでしたから。それが戦闘の安定に繋がったのでしょう」
「確かに……。それを言うなら、タンクのイシスが入ってくれたのもありがてえ限りだよな」
「いえ……そんなことは。……ありがとうございます」
イシスは少し照れているのか、頬を赤くさせた。
ふと、メリルの方へ目をやると、楽しそうな微笑みを浮かべていた。
「そうであるなー……。アッシュと二人っきりだった時を思うと、随分と賑やかになったものだ……」
「……メリル?」
いつものテンションとは違うメリルに、俺は訝しげな視線を送る。メリルはすぐに表情を変えて、いつものテンションに戻る。
「フハハ! 攻撃の要であるアタッカーのフレア! 防御の要であるタンクのイシス! 攻守共に担当する万能なサポーターである余! そして、遊撃をして撹乱するラーカーであるアッシュ! うむ、うむ! 我ながら完璧なメンバーを揃えてしまったものだな!」
「お前の手柄じゃねえだろ……」
フレアはともかく、イシスはギルドの紹介なわけで、俺は……まあ、色々とあったわけで。
「あ、そういえば……もぐもぐ。イシス……もぐもぐ」
「飲み込んでから喋れよ……」
「もぐもぐ……んんっ。そういえば! イシスが仲間になった経緯は聞いたんだけど、二人はどうやって知り合ったのよ? 見るからに接点がなさそうじゃない!」
「あ、それは私も気になります。『アルティメットワン』の創立当初はどのような感じだったのですか?」
「何でそんなことに興味持っちゃうんだよ……」
俺は手に顎を乗せて、そう昔のことでもないことを思い出し、苦虫を噛み潰した顔になったのが分かった。
「ふっふっふ……余とアッシュの出会いは。それはそれは、もう、運命的な――」
「捏造すんな」
「いいんじゃない? 別に話して減るもんじゃないでしょ?」
「減るんだよ俺の体力が!」
「ダメージを受ける前にイシスが盾になってくれるから大丈夫よ! ね? そうでしょイシス?」
「え」
おい、無茶を言うなフレア。イシスでも精神ダメージの盾にはなれないだろ……。ほら、イシスも困ってるぞ。
俺は頭を掻いた。
「まあ……別に隠すようなことでもねえからな」
当時のことを振り返ると、やっぱり嫌な気持ちにしかならないわけだが……。
エナトンに飛ばされるわ、危険な魔物に襲われるわ。挙げ句の果てには、ドラゴンまで出てきたからな……。
俺はそれらのことを、メリルと補足を加えたりしながら掻い摘んで話した。すると、イシスが神妙な面持ちで、
「……その話が本当だとしたら、エナトンの立ち入り禁止だったはずなのですが、大丈夫だったのですか……そこら辺のことは」
「うむ。余は、よく分からないのだがお咎めなしであったぞ!」
そりゃあな。俺がお前とパーティーを組むことで、ギルド側が不問にしてくれたからな。お前にその話は伝わってないからな。知らないわな。
「というか、あんた達すごくない? あのエナトンから生還したって、普通に最高ランクの冒険者でさえできなかったのに!」
「ちょ……超がでけえよ」
俺はフレアを小声で咎めながら、内心では鼻を高くさせた。確かに、エナトンから生還したのは、人類で俺とメリルが初めてだ。
僅かとは言え、エナトンの内部調査も行ったことで、ギルドからもそれなりに評価されていたりする。イシスというか教会の神官をあてがってくれたのも、実はそういう評価もあってのことだろう。
「フハハ! そう、余とアッシュはすごいのだ。とはいえ、実際は死に物狂いであったがな……」
お、メリルにしては殊勝な感じというか。いつもの無駄に自信満々なテンションが薄れていた。
フレアもそれが気になったのか、口を開く。
「なんだかメリルにしては元気がないわね? そんなに大変だったの?」
「うむ……。一番辛かったのは、アッシュと仲違いをした時であったな」
メリルがそう言うと、フレアとイシスが同時に呆れた目を向けてきた。まるで、「大人気ない」とでも言うような咎める視線。
「おい、ちょっと待て。俺は悪くない。社会が悪い」
「どのような言い訳ですか……」
「ったく、男らしくないわねー」
うるさいよ。都合の良い時ばっかり性別を持ち出すんじゃないよ。
と、ここでメリルがテーブルを叩き立ち上がった。そして、何か重要なことを話すような雰囲気で握り拳を作ると、
「そんなことはこの際、どうでもよいのだ! それよりも、貴様らに話したいことがある! とても重要なことである……」
そのメリルの言葉に、俺達は体ごとメリルへ向けた。それに満足したメリルが一度頷いて続ける。
「うむ……重要なこととは他でもない――我らが『アルティメットワン』のリーダーを決めようではないか!」
「「「え」」」
「え?」
メリル以外の3人が、殆ど同時に虚をつかれたような声を上げた。
恐らく、俺が思っていることを他の2人も思っていることだろう。
そう――メリルがリーダーじゃなかったのか――ということを。
メリルはむしろ、俺達が驚いたことに驚いていた。
「む? 何だ貴様ら。余はそんなにおかしなことを言ったか?」
「いや……おかしいっつーか」
「ええっと……私はてっきり、メリルさんがリーダーなのかと」
「それはあたしも思ってたわ……。というか、創設者なんでしょ? 別にメリルがリーダーでいいんじゃない?」
「なっ……貴様らそれでも『アルティメットワン』のメンバーか!?」
「「「そうですが?」」」
「むー!!」
声を揃えて言うと、メリルが面白くなさそうに頬を膨らませた。
ちょっと可愛い。
「貴様ら! リーダーというのは、そのパーティーで一番強い者がなるべきであろう? 『アルティメットワン』ならば、自分が一番であるというプライドを持たぬか!!」
言っていることはごもっともだが……。
「私は争い事があまり好きではありませんので……」
「俺もパスだな。面倒臭い」
「あたしはいいと思うわ! メリルの言う通りよね! リーダーは一番強い人がやるべきよね!」
ああー俺とイシスが面倒事を避けようと、適当にメリルをリーダーに仕立て上げようとしたというのに、こういう話に乗ってしまうポンコツがいたことを忘れていた。
「おお! さすがフレア! 話が分かるではないか!」
「まあね! さあ、2人とも! ここは白黒はっきり付けようじゃない! 『アルティメットワン』で誰が一番強いか! ね!?」
ダメだ。フレアとメリルが完全に乗り気だ。これでもかというフレアの勢いに、イシスは困った笑みを浮かべ、俺に助けを求めるかのような視線を向ける。
「…………」
こうなったら、どうせ止められない。
俺はイシスに、諦めるように肩を竦めて見せた。




