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一話

初めまして。

青春詭弁と申します。

宜しければ、ご意見ご感想をお聞かせいただければと存じます。ポイント評価いただけると、やる気が出ます!

 俺は魔物と対峙している。

 右手に取り回しの良い安価な果物ナイフを構える俺。対するは、真っ赤な目玉をギラギラと光らせる猪に似た魔物――ビッグボア。人の身の丈程ある体躯で、今にも走り出そうと地面を前足で掻いている。


「ブブブヒヒ〜!」

「うおっ!? っぶね!」


 こいつ! いきなり突進してきやがった!

 俺は間一髪で、その場から横に跳んで回避する。


「ブヒヒヒ〜!」

「ちょ……こっち来んなよ!?」

「ブヒ!」


 ビッグボアが旋回し、再び俺に向かって突進してくる。もう一度、横っ跳びに回避しつつ、ナイフで攻撃を加える。果物ナイフの先端が、ビッグボアの毛皮を撫でるように裂く。


「ブヒー!」

「いっ!?」


 ビッグボアはそれが痛かったのだろう、怒った様子で急旋回して突進。俺がそれを避ける。そんなことを幾度か繰り返していると、流石に走り疲れたビッグボアの足が止まる。

 ここだ!


「死ねや、猪もどき〜!」


 俺はナイフを上からビッグボアの体に突き刺そうと――ビッグボアがこのタイミングを見計らっていたかのように、後ろ足を蹴り上げる。


「んぎゃ!?」


 ビッグボアが蹴り上げた足は、見ことに俺へクリーンヒット。俺は宙に浮かび上がり、地面に落っこちる。


「あいた!?」

「ブヒ〜!」

「ちょ、まあ、落ち着け。悪かった。ああ、俺が悪かったよ! い、猪もどきに怒ったんだよな? マジすんませんでした!」


 ビッグボアはジリジリと俺との距離を詰めてくる。

 ま、まずい。ナチュラルにこれは……まずい。ナイフは蹴り上げられた時に落としてしまった。つまり、今の俺は丸腰だ。とてもじゃないが、貧弱な装備の冒険者である俺じゃビッグボアは倒せない。

 よし、こうなったら――。


「きょ、今日はこれくらいで勘弁してやる! お、覚えとけよ!?」


 戦略的撤退!

 俺は後ろを振り向き、脱兎の如く逃げ出した!


「ブヒヒヒ!」

「おい、追ってくんなー!」

「ブヒヒ〜!」

「ぎゃああああああ!?」


 あいつ、俺のことめっちゃ追いかけてくるんですけど! なんであんなに怒ってんだよ! ちょっと、あいつの巣に忍び込んで卵を掠め取っただけじゃん! それで、あいつが帰ってきたのに驚いて、目の前で卵を落としちゃっただけじゃん。なんでそんなに怒ってるんだよ!

 ああ、それが原因か……。


「ブヒヒヒー!!」

「すみませんでしたー!!」


 魔物から全速力で逃げながら、悲鳴の如き謝罪をする冒険者がここにいた。そんな情けない奴、俺ではないと思いたい……。


「ブヒ〜!」


ひええええええ!?





「ぜえぜえ……」

「ええっと……お疲れ様です。アッシュさん」


 ビッグボアから逃げ帰った俺は、辺境にある始まりの街に戻ってきていた。

 その街の冒険者組合――ギルドの受付で、俺は息を上げながら、受付カウンターの前に立つ。受付には、美人なお姉さんと評判な受付嬢――ミリィさんが引き攣った笑みを浮かべていた。俺はそれを気にも留めず。


「いや、そんなこと……ぜえぜえ。こ、こんなことで疲れてなんて……ぜえぜえ。ないですよ? ぜえぜえ」

「そ、そうですか……。でも、すごく息上がってるみたいなんですけど……」

「そんなことより……ぜえぜえ。本当に、いつもミリィさんは、お綺麗で……ぜえぜえ」

「そんな状態で口説かれても……」


 …………。


「ええっと、とりあえず、クエストの報告をお願いしても?」


 ミリィさんが微妙そうな表情で言った。ここで名誉挽回をしなければ!


「あ……クエスト! そう! クエストねークエスト……。ええ、もうそりゃあ、ね? 俺、すっげー頑張ったんですけどね〜。いやあ、いかんせん魔物の方もかなりの強敵でしてね!? 本当に紙一重の戦いだったですよねー。いやあ、惜しかった。惜しかった!」

「つまり、クエスト未達成ということですか?」

「…………まあ、そうとも言いますよねー」

「ねー……じゃないんですけど、ねー?」

「ですよねー……」


 あ、これミリィさん本気で怒ってる……。

 まずいと思い、俺はこの場を切り抜けるため、思考を巡らせる。


「いや、まあ、確かに失敗しちゃいましたけど! これは山よりも高く、海よりもそれはそれは深いこと情ありましてね!? んね!?」

「ほほう? 是非そのこと情とやらを聞かせてもらいましょうか、ねー?」


 ミリィさんの目が据わっている! 

 素直に頭を下げるしかないと、俺は項垂れる。


「すみませんでした……。ビッグボアの討伐クエスト、失敗、しました……」

「…………はあ」


 俺の報告に、ミリィさんが愛想を尽かしたような溜息を吐く。ギルドに併設されている酒場の方では、屯していた俺よりもランクの高い冒険者達が吹き出している。


「おいおい、ビッグボアの討伐って……聞いたか?」

「聞いた。聞いた……。ビッグボアの討伐失敗って……ぷぷ。あいつ冒険者向いてないだろ」

「というか、ほら、あいつ……有名な……」

「ああ……噂の……?」

「そうそう……。快足のアッシュだよ……」


 受付にいる俺にも聞こえたということは、ミリィさんにも聞こえただろう。ミリィさんは再び溜息を吐いた。


「アッシュさん……。また、逃げて来たんですか?」

「うぐっ……に、逃げたわけじゃないですよ! 戦略的撤退と言っていただきたい!」

「それは逃げたと同義ですからね?」

「ぐっ……!?」


 快足のアッシュ……それは、俺に付けられた蔑称だ。今日のように、最弱の魔物とされるビッグボアすら討伐できず、毎度の如く逃げ帰ってくる俺に、誰かが付けたのだ。


「いつも言っているように、クエスト未達成は、ギルドの信用問題に関わることなんです。今まで、アッシュさんは新人冒険者だからと、クエスト未達成による罰金も頂いていませんでしたが……。これ以上、こんなことが続くなら支払ってもらいますよ?」

「そ、それだけは! それだけは勘弁を!」

「なら、真面目にクエストをやってください! ビッグボアは、どれだけステータスが低くても、対処法さえしっかりとすれば、絶対に倒せない相手じゃないんですから!」

「うっ……」


 そんなことを……言われても……。俺は何も言い返せず、俯いて黙るしかない。ミリィさんは、もう何度目かの溜息を吐く。


「次、失敗したら罰金……ですよ?」

「はい……」


 俺は大人しく頷くしかなかった。



 ギルドから少し離れた宿屋――女のマッスル亭。そこの受付に頬杖をつき、俺は座っている。俺の実力では、冒険者の収入だけで生きていくことが難しい。まあ、簡単に言えば内職という奴である。冒険者稼業の合間を縫い、こうして宿屋のバイトなどで日稼ぎし、生計を立てている。寝床は、この宿屋の納屋で、それなりに過ごし易い。


「はあ……。どうすっかねえ……」

「ちょっと〜。いくらお客さんが来ないからって、態度が悪いわよ〜?」


 と、頬杖をついて座っていることを注意してきたのは、この宿屋の店主だ。紫色の派手なドレスと長いウェーブのかかった金髪、なによりも道行く人々の目を惹くその美しい肉体――。


「この宿屋、マニアにしか受けねえからな。客が少なくて楽でいいっすわ」

「あら、やだ、酷いわあ! 減給にしちゃうわよ、もう!」


 などと可愛らしい態度だが、店主はゴリゴリの男だ。ドレスがはち切れんばかりの、筋肉隆々とした猛々しいおっさん――なのだが、それを言うと本当に減給され兼ねない……。俺は大人しく口を噤んだ。

 店主はそんな俺の様子を見て、何かを察した様子で。


「……最近、あんまり上手くいってないみたいね。冒険者稼業」

「……ええ、まあ、そっすね。正直、全然……」


 冒険者とは、魔物を倒してお金を貰い、女の子達からモテる今流行りの職業だ。魔物退治を国の軍から委託された魔物退治の専門家。

 俺は先日、女の子からチヤホヤされたいという、割と不純な動機で冒険者になった。この世の中には、「魔物に困っている人達を助けるため」とかそんな崇高な目的を持って冒険者になる輩がごまんといる。そんな中で、俺みたいな輩がのうのうと冒険者稼業で生計が立てられるほど、世の中は甘くない。

 魔物を倒すために努力してきた奴らに比べて、俺のステータスは圧倒的に劣っている。


「確か、あれよね? 平均的な新人冒険者のステータスを大幅に下回っているのよね?」

「…………まあ」


 俺はポケットから、自分のステータスが記された冒険者カードを取り出す。ギルドが発行した特別な魔法が付与されたカードで、登録された者のステータスが見れる優れものだ。

 冒険者カードには、レベルやその他の数値が記載されている。俺のレベルは――4。そして、記載された殆どの数値が一桁を表している。


「……普通の新人冒険者でも、二桁あるのにね」

「そうなんすよ……。筋力値が足りなくて、殆どの武器が使えないですし……というか、金がなくて買えないですし……。不器用で弓も使えない……。唯一、軽くて安いナイフくらいしか使えないんですよね」

「あら、そうなの……。こんなこと言うのは野暮なんだけど、もう冒険者稼業はやめて、あたしのところで一緒にお仕事しましょうよ?」


 あんたの宿屋、ただのオカマバーじゃねえか。

 俺は宿屋の酒場で接客している従業員に目を向ける。相変わらず全員、筋肉隆々としたオカマだった。利用客は、面白半分に来ている者か、そっちの気がある者だけ。なんだこの宿屋。もう、オカマバーでいいじゃん……。


「ああ、ほら! 丁度アッシュちゃんに似合いそうな服があるのよ〜。よかったら着てみない〜?」

「絶対に嫌だ」


 苦虫を噛み潰したような顔で首を横に振る。オカマ店主は、「もう、い・け・ず〜」と語尾にハートマークを付けた。俺はしかめっ面を強くする。


「はあ……。どうっすかなあ……」

「そんなに悩んでいるなら、そうねえ〜。少しだけお給料前借りしてあげるから、道具屋に行ってらっしゃいな」

「え、いいんすか……? この店、そんなに余裕ないのに……」

「いいのよ〜別に! 気にしなくって〜! その代わりに、しっかりとお仕事頑張るのよ?」


 オカマ店主は、そう言って微笑んだ。正直、オカマじゃなかったら惚れていたところだぜ……。俺は居住まいを正し、背筋を張った。そして、店内に客が入ってくると。


「っらしゃいやせー! オカマバーにようそこ!」

「ちょ……あ、アッシュちゃん!? オカマバーじゃないわよ!? 宿屋よ、ここは!? あ、お、お客様! ここはオカマバーじゃなくて宿屋です! だから、帰ろうとしないで!」


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