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エンジェリックスカイ/オキシダイト精錬所襲撃事件を端緒とした一連のテロとその結末  作者: すぎはら(せいらうんじ)
オキシダイト精錬所襲撃事件
5/8

5.水中艇にて(承前)

ロケーション:魔界・スプレッタシー海中域・ブルルキャピーテ王国所属水中艇『シーフォース・アルファ』内ラウンジ



 KBが指差したのは、不審な密入国を繰り返す二人の人物の国籍欄だった。

 その国籍は一致していた。

 つまり、ルンデンプング王国と、ブルルキャピーテ王国に入国した二人の人物は同じ国からやって来た。

 その国の名は……。

「アーミシュアット共和国……」

 そう呟くわいにゃんに、KBは、うなずいて答える。


「そう、アーミシュアット共和国。反天界派の総本山が存在すると目される土地だ。現在魔界で起きている政治テロやら宗教テロの半数がこの国の中で計画されたものだという噂もある」

「なるほど……」

 そう言って、わいにゃんは頭の中で情報を整理する。


 まず、魔界における天使の扱い。

 五十七年前に終結した第四次天魔大戦は、天界、魔界に多数の犠牲者を出したものの、最終的に、天界側と魔界側の双方で恒久的な講和条約が結ばれることでひとまずの終焉を迎えた。

 その辛い経験は、天使、悪魔の双方に、大戦の誤ちを二度と繰り返してはならないという共通する強い思いを抱かせるに十分だった。

 そのため、過去の遺恨を忘れ、互いに歩み寄ろうとする努力がなされた。

 それにより、本来ならば天界に住むはずの天使も今では魔界中にその姿が認められる。

 魔界で生まれた二世も多く、天界を知らない天使すら存在するのである。

 けれども、そのような現状を憂い、天使を魔界から追い出そうと、武力を用いての手段に訴えかける連中も存在する。それが反天使テロリストだ。


 反天使テロリスト。

 それは、魔界に天使が存在していることをひどく憂い、天使を消すためなら自爆テロも辞さないような連中の総称。

 過去に幾度の爆破事件を起こし、結果として魔界に不必要な混乱をもたらした張本人。

 反天使という思想自体が少数派の異端である現在においては、その勢力は限られたものとなっているが、しかし、中には魔界の大義という名のもとに、誘拐、脅迫、殺人をも辞さないテロリストが存在する。

 そして、そうしたテロリストの温床が、今話題に挙げられたアーミシュタット共和国だというのは公然の秘密だ。


 アーミシュアット共和国。

 それは、共和国とは名ばかりの専制君主国であり、国家主席であるインキュバス属のドムール=スライグは天使排斥派の極右として知られている。

 そのため、共和国内においては、他国では差別問題となるような、天界を攻撃するヘイトスピーチへの対応も比較的寛大であり、それどころかド=スライグは国内に潜伏する反天使派に秘密裏に資金提供をしているとの話も聞かれる。

 この国がそうなったのは必然だったのかもしれない。

 天魔大戦当時、この国は、天使の大群による攻撃に蹂躙され、壊滅的な打撃を受けたのだ。

 ランブールの戦い。

 アーミシュタットは、その戦いで国民の三分の二を失った。


 けれども、奇跡が起きた。

 ドムール=スライグ国家主席の祖父に当たるドムール=インドラグが指揮した反攻によって、天使を土地から追い出すことに成功した。

 その戦いで、ドムール=インドラグは国の英雄になった。

 そしてそれ以来、アーミシュタットの国民は、自分たちを滅ぼそうとした天使を決して許さないことを誓った。

 その伝統は、戦争が終結した五十七年の今となっても相変らず続いている。

 反天使テロリストが生まれた背景には、そういう土壌がある。

 アーミシュタット共和国を拠点にして活動するテロリストは、アーミシュアット派と呼ばれている



「けど、なんでアーミシュアット派のテロリストがブルルキャピーテを襲う?」

 インドラグ派は、基本的に思想犯だ。

 つまり、大義に基づいてテロを行う。

 逆に言えば、彼らが納得できる正当な裏付けがなければテロを実行に移すことはしない。

 ブルルキャピーテはセイレーン属の国だ。

 そこに天使はほとんど住んでいない。

 セイレーン属は、特に天使に肩入れしているわけではないし、支援を行っているわけでもない。

 ブルルキャピーテ王国は反天使の思想を持っているわけではないが、しかし、格別な好意を寄せているわけではない中立の立場を保っている。

 だから、思想犯であるアーミシュアット派が、ブルルキャピーテを襲う理由はない。


「理由は分からない。金のため、あるいは資源のためかもしれないね」

「いや、それはないだろう。アーミシュアット派が国の支援を受けていることは公然の秘密だ。つまり、リッチな資金源を持っているということだ。それに、奴等は大義名分がなければ動かない。金のために無関係な場所を襲う、なんて真似は絶対にしないはずだ。なぜなら奴等の目的は魔界からの天使の排斥で、それを実行に移すためには魔界全体の支援が必要だということを知っている。だから、魔界の住人の神経を逆撫でして、自分たちの主張の正当性を自ら放棄するような莫迦な真似はしないはずだ……」


 と、扉が開き、キーアとクレイアのアラクネ属姉妹が湯気の立った頭にタオルを巻いて、仲良く手を繋いで現れた。

 それまで、わいにゃんとKBの話をつまらなそうに聞いていたロングテイルは、突然顔を上げて、目を輝かせる。

「ホットスパどうだった!?」

「悪くなかったわね」

「むしろかなりいいわ。海洋深層水と海底火山灰をミックスして生まれたウルトラナチュラルダメージヒーリング成分が荒れた肌に浸透して細胞の奥深くまで入り込んで身体の老廃物をキレイに流し去るのと同時にDNAを再生するのが感じられたわ」

「そこに、海底に住む希少生物『ルーグレナ=マルカリス』一匹からわずか100mgしか取れない貴重な生体成分『ルーグレ7』をふんだんに配合したエッセンシャルオイルを使用した泥パックの効果で肌年齢が少なくとも10年は若返った感じがするわね」

「美容に関心のある女の子なら一度は体験すべきね」

「むしろ魔界中のすべての貴族は部下の美容のためにあのシステムを自分の城に導入すべきじゃないかしら」

 そう言いながら、キーアとクレイアの姉妹はじっとわいにゃんを見詰める。

「価格はいくらって言ってたっけ?」

「装置一式で二百二十万ゼック。今なら一年分の美容成分を付けてのその値段らしいわ」

「安い……」

「あまりにも安いわね……」


 二人は、わいにゃんをガン見しながら交互にそんな会話を口にする。

 遠まわしに、買えと言っているのだ。

 その無言のプレッシャーに耐えられなくなったわいにゃんは、黙ってそっと視線を反らす。

「そうそう、現場に到着する前にもう一度ブリーフィングをしておきたいと思うんだが……」

「えっ? 今? ウチもホットスパ、体験してきたいんだけど……」

 ロングテイルは見るからに焦った様子。

 しかし、ここでロングテイルをホットスパに送り出すわけにはいかない。

 なぜならば、一度ホットスパを経験してしまえば、戻ってきたロングテイルがキーアとクレイアに同調し、わいにゃんキャッスルにホットスパを導入しろと言い出すことは確実だからだ。

 それに抗うのは、わいにゃんとしては非常に面倒くさい。

 わいにゃんは、女子のキャピキャピしたノリがとても苦手なのである。


 だから、わいにゃんは毅然と命令する。

「ダメだ。遊びにきたわけじゃないからな」

「そんなぁ……」

 見るからにがっかりするロングテイル。

「敵ね……」

「女の敵……」

 軽蔑したようなキーアとクレイアの視線が付き刺さって痛い。

「くっ……、そう言えば、かなぽんはどこだ!?」

 不利な状況を悟って、わいにゃんは話を逸らそうとすると、KBが窓の外を指差す。


 するとそこには。

 真っ暗な海の中、水中艇が放つ明かりに引き付けられた巨大な深海魚の一匹の背に乗って、水中遊泳をしているかなぽんの姿があった。

「えっ、かなぽん、すごーい! お姫さまみたい!」

 それを見たロングテイルは目を輝かせある。

「あの魚……」

「……かなりグロいわね」

 一方で、かなり現実的な観点から窓の外の風景を観察するアラクネ姉妹。

「というか、いつの間に外に?」

 そう疑問を呈するわいにゃんに。

「最初から外にいたぞ。久しぶりの海だから、泳ぎたかったらしい」

 そう解説するKB。


 と、その言葉で、ロングテイルは思い付いたように。

「あっ、それじゃ、かなぽんが外にいるからまだブリーフィングはできないよね! よーし、それじゃウチはその間にスパに入ってこよっと!」

 そう言いながら、ちろちろとわいにゃんに視線を向ける。

 わいにゃんは、それに気付いてはあ、とため息をついた後。

「しかたねーな。ブリーフィングっつっても、現場も見てない現状ではほとんどやることもない。スパに入って来きていいぞ」

「やたっ! それじゃ、行ってきまーす!」

 そう言って、ウキウキした足取りで部屋を飛び出していくロングテイルの後ろ姿を見ながら、わいにゃんは苦笑する。

 窓の外では、自分を見詰めるキーアとクレイアに気付いたかなぽんが、にっこりと笑って小さく手を振っていた。


 二時間後。

 水中艇は、ブロロキャピーテ王国へと到着する。

 それまでの間に。

 スパから上がったロングテイルが、その素晴しい効能をアラクネ姉妹と語り合っている途中、海中遊泳を堪能したかなぽんが船内に戻る。

 会話に合流したかなぽんから、ブロロキャピーテの思い出を聞いた三人は、海底の生活にこれまで以上に興味を抱いた様子で、これから入国する王国にそれぞれ思いを馳せていた。

 艇はようやく海底に着地し、音も立てずになめらかに艇の扉が開く。

「ようこそ、ブロロキャピーテ王国へ」

 ドルッシーがそう宣言し、わいにゃん一行は促されるままタラップを下りる。

 地面には、敷かれた赤いカーペット。

 そして、その先には。

「ねえ、あれって……」

「お姫様」

「お姫様ね」

 ロングテイルとアラクネ姉妹が交わすひそひそ話にかなぽんが加わる。

「いいえ、ただのお姫様ではありません。あれは……」

 そう言って、口元に誇らしげな笑みを浮かべる。

「ブロロキャピーテ王国女王。ミア女王陛下です」


 ミア女王は、わいにゃんが数時間前にホロ=フォンで見たのとは異なる、夜会用のナイトドレスを身に付けていた。

 すらりとしたミア女王の身体にぴったりと丈を合わせたダークブルーのドレスは、シルエットこそシンプルなものでありながら見る者に強烈な印象を残す。

 それは、女王その人自身が持つ威厳と、一人のたおやかな女性としての側面を見事なバランスで引き立てるように巧妙に計算されたデザインだった。

 それを目にする者の例に漏れず、わいにゃんもまた、ミア女王が全身にまとうオーラにやや圧倒される思いだった。

「お忙しい中、ようこそお出で頂きました。私がこの王国を統べる、ミア女王です」

 ミア女王は、優雅な、けれども堂々とした足取りでわいにゃん一行のところまで出向き、にこやかにそう挨拶する。

「女王陛下御自らお出で頂けるとは光栄の至りです。魔桜エリア領主、わいにゃん子爵です」

 わいにゃんは、とても驚いた様子だが、そう言って挨拶を交わす。

 驚くのも無理はない。ブロロキャピーテのような大国の女王が直々に出迎えるなんていうことは、前代未聞の出来事だということをわいにゃんはよく理解しているのである。

「すごいじゃん、よしお。女王様と本当に知り合いだったんだ」

 小声でそう言って関心するロングテイルに、かなぽんが解説する。

「直接ご対面されたことはないそうです。ただし、わいにゃん様とミア陛下は、過去に数度、夢の中でお合いされたことがある、と聞いています」

「えっと、それってあの、セイレーン属の夢の園に、よしおが入ったことがある、っていうこと? それってすごくない?」

「ええ、他種族の方がセイレーンの夢の園に迷い込むのは珍しいことです。しかし、まったくないわけではありません。わいにゃん様が夢の中でご対面されたときは、たまたまわいにゃん様の夢の波長がセイレーン属のそれに近づいていた時期だったのでしょう」


 夢の園。

 セイレーン属は、水魔法、それに歌による魅惑魔法を得意とする海の種族として有名だが、彼女たちには他にも種族特有の技能が一つある。

 それは、夢の世界の共有である。

 セイレーン属は、同属であれば、互いの夢に入り込んで会話したり、映像として伝言を残したりすることができる。

 その特性を生かして、セイレーンたちは、共通の夢の世界に壮大な宮殿と庭園を築き上げた。

 そして、それはセイレーンという種族が持つ結束力の根源でもある。

 夢の園があるからこそ、セイレーン属たちは常に互いの本心を知ることができる。

 本心を共有できるということは、疑心暗鬼にならないということだ。

 それは、セイレーン属の持つ強さに他ならない。


 他に類を見ない結束力。

 現在よりも種族間の大規模な抗争が頻繁に起きていた過去の戦国時代を、決して強力な力を持っているわけではないセイレーンという種族が乗り越えることができた理由はそこにある。

 過去、知略策謀を用いる吸血鬼のような種族は常に存在し、様々な情報戦によって、他種族の支配を狙ってきた。

 調略の基本は、分断工作だ。

 それは、二人の人間に異なる情報を与えることだ。

 Aさんに対しては、Bさんが裏切っている、と言い、Bさんに対しては、Aさんが裏切っている、と伝える。

 そして互いに敵対させ、内部抗争を勃発させる。

 AさんとBさん二人が疲労し、体力が弱った時期を見計らって一気に攻め入り、漁夫の利を狙う。

 しかし、その調略の基本である分断工作がセイレーンという種族には通じない。

 夢の園があるからだ。


 彼女たちは、夢の園の中では争わない。

 それがたとえ普段は敵対している相手であろうとも、である。

 だから、たとえ分断工作を仕掛けられようとも、夢の園では、互いの立場を捨てて、本心で物事を話し合う。

 その風習は、彼女たちが長い歴史から得た智恵だ。

 そのような風習のあるセイレーン属には、疑心暗鬼は生じえない。

 その夢の園こそは、決して好戦的ではないセイレーンという種族が、現在よりも種族間の大規模な抗争が頻繁に起きていた過去の戦国時代を乗り越えることが出来た理由でもある。


 セイレーン属の夢の園は、彼女たちの強さの源だ。

 何かの偶然でそこに迷い込む者は確かにいるが、しかし他種族で、正式にそこに招かれた者の数は歴史上数百人に過ぎない。

 その一人がわいにゃんであると言えば、彼がセイレーン属からいかに絶大な信頼を得ているかが理解できよう。


「ああ、こうして現実世界でお合いできるのを、ずっと楽しみにしておりました。まさに、夢に見たお姿そのもので……」

 ミア女王は、どこかうっとりとした様子でわいにゃんを数秒間見つめると、はっと我に返った様子で表情を引き締める。

「子爵とは、もっと違った機会でお合いしたかったのですが……、しかし、このようなテロが起きてしまった以上、それに対処するのが国を統べる女王としての務めです。もちろん我が王国には、専門の調査機関が存在しますし、MDAPD(魔界デビル&エンジェル警察)にも通報しております。しかしながら、正直なところ我が国の調査機関はテロ関係の事案については無知も同然で、また調査より内部抗争に精を出しているとの噂のあるMDAPDには全幅の信頼を置くことができません。ですから厚顔無恥を承知で、このような状況に普段から対処しておられるわいにゃん子爵のお情けにおすがりしようと……」


 ミア女王のその言葉を、わいにゃんは力強く遮る。

「いや、女王陛下。私などをお使いになるのにそのような勿体無いお言葉はご不要です。かつて私が女王陛下の血脈に連なるパルテ=ノーテ様を悪漢どもの手から救出致した折、私は女王陛下にこう言いました。『もしお困りのことがあれば、俺程度の力でよければ、いつでもお助け致します』と。その言葉は、誓いであると思っております。誓いとは、時間とともに薄れるものではなく、また、決しておろそかにして良いものではありません。誓いが守れないのであれば、貴族に何の意味がありましょうか。ですから、女王陛下、私などのために、どうぞ陛下のご心情を吐露なさるなどと勿体無いことはなさらないで下さい。陛下はただ、私と交わした過去の約束のみを根拠に、私に命じて頂ければそれで良いのです」


 わいにゃんの視線とミア女王の視線がぶつかる。

 わいにゃんのその言葉を聞き、あっ、と声にならない声を喉の奥で発したミア女王は、一瞬驚いたような顔をして、瞳を震わせると、感激したように口を開く。

「ああ、わいにゃん子爵……、まさか、他種族の方からそのように頼もしいお言葉を頂ける日がくるなんて。けれども、同時に、子爵にならそう言って頂けると確信しておりました。私はそれほどわいにゃん子爵のことをご信頼申し上げているのですわ。ですから、ぜひともわいにゃん子爵、私のことも、同じようにご信頼頂ければと思います」


「陛下の信頼を疑うなどという恐れ多い考えは、髪の毛一筋ほども思い浮かべたことはございません。過去、女王陛下は、私のような部外者をあの夢の園にご招待下さりました。それは最大級の名誉であり、受けた名誉には相応の働きでもって答えるのが貴族の礼節であると心得ております。その程度のこと、と思われるかも知れませんが、私のような者にとっては、それこそが女王陛下に仕える十分な理由となるのです」


「今のお言葉で、わいにゃん子爵の寛大さと勇気、それに徳目は、この海よりも広くて深いということを改めて思い知ることができました。このような緊急事態に頼ることのできる殿方がいるというのは本当に心強いことです。この王国内にあっては、わいにゃん子爵、その魔界中に知られたお力を、遠慮することなくお振るいになって頂きたいと思います。そのため、何一つ不自由がないように取り計らい致します。もし何かご不満なことや、作業要員、ご入用のアイテム、といったものがあれば直ちにこのドリュッシーにお申し付け下さい。それらのご要望については、できうる限り迅速に用意するよう言い含めてあります」


 わいにゃんは、作法通りに一礼する。

「私のような者には身にあまるお言葉、それに微に入り細に入ったご配慮、深く痛み入ります。とはいえ、まずは基本的な調査からです。この段階では、特に大掛かりな人手や装備は必要ないでしょう。細かい結果が得られれば、ドリュッシーさんに内容をご報告致します」

 わいにゃんとしては、こうした儀礼的なやりとりよりも、早く調査に移りたい、というニュアンスを込めたつもりでもある。

 わいにゃんとしても、こうしたやりとりは嫌いではない。

 けれども、今は緊急事態だ。

 時間が経てば、現場からそれだけ証拠が失われてしまう可能性がある。

 特に、においなどの情報、あるいは時間とともに消失するマジックウェポンの痕跡といったようなものは、完全に消え去る前にできるだけ早く確認する必要がある。


 わいにゃんのその考えが伝わったのか、ミア女王はゆっくりとうなずく。

「分かりました。ドリュッシーには、定時連絡を徹底させます。また、王国内の移動につきましては、専用の車をご用意させますので、そちらをお使い下さい。食事や宿泊に関しましては、王国内の施設をご自由にお使い下さい。その際はドリュッシーに言って頂くか、私の名をお使い下さい。それでは、ご成功をお祈りしております」

 ミア女王は最後にそう言いながら、両手を胸の前で祈るように合わせる。物事の成就を祈願する、セイレーン属特有のしぐさだ。

 わいにゃんによる返礼を受け、優雅にくるりと回り、その場を立ち去るミア女王の後ろ姿を見送りながら、わいにゃんは一人、つぶやく。

「……ようやく仕事の時間だな」




貰ったデータを確認すると、気になる単語が見つかる。まさか、な。と思いながら、続きを眺める。

メンバーを集め、今後の方針の打ち合わせ(内容は詳細を欠かなくてもいい)。

到着する船。

出迎えるミア王女と、唖然とするわいにゃんで、シーンを締め。



(次回は、会見のシーン

モテモテじゃん、ミア女王に会ったことあんの? という質問に絡めて、セイレーンの夢園の話をする。



ブルルキャピーテの人口分布の話。

 とはいえ何も、セイレーン属が天使を嫌っているから、というわけではない。

 そもそも、国土が存在する場所が海底である、という特殊立地条件から、そこに住む他種族は全人口の数%しかいないのだ。

 海底都市は、特殊な耐圧ドームによって覆われており、その中では陸上と同じように生活できる。

 しかし、万が一、そのドームが崩れるようなことになれば、もともと海がフィールドであるセイレーン以外のほとんどの種族は、たちまち溺れ死んでしまうだろう。

 そのことを考えると、セイレーン以外の人口が少ないのも当然の話だ。

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