4.海中艇にて
【登場人物】
わいにゃん:主人公。堕天使属。子爵。男性。
ロングテイル:わいにゃんの部下。戦天使属。女性。
KB:わいにゃんの部下。力天使属。男性。
ミア女王:ブルルキャビーテ王国女王。セイレーン属。
ドルッシー:ミア女王の配下。セイレーン属。男性。
ロケーション:魔界・スプレッタシー海中域・ブルルキャピーテ王国所属水中艇『シーフォース・アルファ』内ラウンジ
その水中艇は、高級なだけあって、その内装は、抑えめな調子でありながら決して安くない、王室ならではのシックなスタイルで整えられていた。
海の中を進んでいるはずなのに振動や水圧による軋みは一切ない。
わいにゃんとロングテイルが現在立っている水中艇のラウンジは、畳にして5畳程度の限られたスペースの空間であるにも関わらず、計算されて配置された調度類のためにまったく狭くるしさがない。
壁に取りつけられた小窓からは、深度が下がるにつれて、次第に濃さを増してゆく透き通った海の風景を見渡すことができる。
銀色の鱗をきらびやかに輝かせた小魚の群れが、それ全体が巨大の生物であるかのような規律のある動きで艇の小窓からの視界を横切ってく。
その光景を、感嘆の目で眺めるわいにゃんの背後から。
「ねーねーよしお、この船の名前なんだけど、シーフォース・アルファってどういう意味?」
バーカウンターの奥の棚に並べられた高級酒のボトルを一本一本指で弾きながら、ロングテイルは尋ねる。
巨大な鮫が、興味をそそられた様子で水中艇に近づいてくるが、思い直したように方向転換して海のどこかへ消えてゆく。
鮫の出現で、隊列を乱した小魚の群れを見ながら、わいにゃんは答える。
「シーフォースってのは海軍のこと。アルファってのは群のボスのこと。ブルルキャピーテ国で一番偉いのはミア女王で、軍隊のトップでもある。ブルルキャピーテは海中国だから海軍イコール国軍だ。つまり、こいつは王族専用艇。ミア女王のための船ってこと。空軍におけるエアフォースワンと同じ意味だな」
「へえ、じゃあ超VIP待遇ってことじゃん」
そう言いながらロングテイルが指先で弾く瓶は、どれも形が違っているせいか音色も異なっている。
そのため、様々な音程を奏でるガラスの響きは小さな音楽のように聞こえる。
無邪気にその音色を楽しんでいる様子のテイルを嗜めるように、わいにゃんは答える。
「ちなみにそれ、どれも一本二十万ゼックは下らない酒だぞ」
日本円に換算すると、1ゼックはおよそ1円に相当する。
つまりは、かなりの高級酒だ。
いずれもブルルキャピーテ原産の地酒であり、王国でしか採取できない特殊な海藻を発酵させたものを、蒸留して作られたものである。
そのほとんどが国内で消費されるため、市場にあまり出回っていない上に、独特の風味付けは他の酒では味わうことのできないものである。
その希少価値から魔界ではプレミア価格がついており、幻の酒扱いされることもある。
「……まじで?」
値段を聞いたら驚いて手を引っ込めるかと思いきや、ロングテイルはむしろ目を輝かせているように見える。
何かを考えるかのように、琥珀色の液体がたっぷり入った封の切られていないボトルをまじまじと見詰めている。
わいにゃんは気付く。
「おい莫迦やめろ!」
「いやまだウチなにもしてないし!??」
「うるせえ! 分かってんだよ! どうせたくさんあるから4、5本もらって帰ってもバレないとか考えてんだろ!?」
ロングテイルは、軽蔑したようにわいにゃんを見る。
「はあ? ウチがそんなこと考えるわけないじゃん! 5本まとめてとかバッカじゃないの!? だいたいそんなんすぐバレるし! せめて2本までだっつうの!」
「やっぱパクろうとしてんじゃねーか!! っていうか、お前って酒飲めたっけ?」
「えーっと、私が飲むっていうか、おみやげにしようかなーって。伽羅香おかーちゃんってこういうの好きそうじゃん?」
「おかーちゃんね。まあ、好きだろうな」
伽羅香おかーちゃん。
それなりに珍しい、マンドラゴンと呼ばれる人形のドラゴンの種族である。
ドラゴン属は総じて極めて長命であり、また強大な魔力を有する。
しかしながら、長生きであるため、その多くが暇な時間をもてあまし気味で、他人から見たら珍妙な趣味を持つ物も少なくない。
伽羅香もまた例外ではなく、昔、あまりにも暇だったため、無一文で諸国ぶらり漫遊記をしていたことがあった。
その最中、突然の腹痛に襲われて道端で倒れていたところを、わいにゃんに保護されたのである。
腹痛の原因は、空腹であった。
マンドラゴンは極めて生命力の強い種族であり、しばらく何も食べずにいてもそうそう餓死することはない。
伽羅香の場合、一年半もの間、何も口にしていなかった。
長い間、食事を取らなさすぎたため、何かを食べなければ死んでしまうということ自体を忘れてしまっていたのである。
わいにゃんに助けられた伽羅香は、そのままわいにゃんキャッスルに居着いた。
そこにいれば、部屋もあるし、自動的に食事が用意されるためである。
しかも、わいにゃんキャッスルで出てくる食事はそれなりにおいしい。
その味は、伽羅香にとっても魅力的であった。
というのも伽羅香は、しばらく食べることを忘れていたくせに、比較的グルメなたちなのである。
そして、毎日の食事に満足した結果、そのままなんとなくの流れでわいにゃんの配下となったのだった。
そんな伽羅香は、年上であるという尊敬を込めて、伽羅香おかーちゃんと呼ばれ、みんなからそれなりに慕われているのであった。
「お土産か。まあ、そういうことなら、貰えるか聞いてみるか」
そもそもが、高級酒といってもそれはあくまで流通量の少ない国外での話である。
国内においては一般的に飲まれているものだから、そう高くはないはずだ。
ここに並んでいるものを勝手に持っていくのはさすがに気が引けるから、駄目元で聞いてみて、無理そうなら国内の酒店でお土産を買うのも悪くないだろう。
仕事でここに来たとは言え、いくらなんでも、それくらいの時間はあるだろう。
と。
唐突に自動ドアが音もなく開き、手に銀の盆を持ったドルッシーが現れる。
「わいにゃん様。サウザン様から、わいにゃん様宛にデータが届いております」
銀盆の上にはデータメモリが乗せられており、わいにゃんは、礼を言ってそれを受け取る。
「ありがとうございます。しかし、こんな水中艇で、どうやってデータを……?」
携帯電話の電波塔が数百メートルごとに立っている通信状況の整備された陸上とは異なり、水中ではデータを飛ばすのは困難なはずだ。
「サウザン様からプロロキャピーテの情報管理局にデータを送って頂いたのち、我々の水中通信網を通じて当艇へと送信致しました。我々は、特殊な魔術を用いて水中での通信を可能にする技術を有しておりますゆえ」
その技術のことは初耳だ。
そんなわいにゃんの心境を読んだかのように。
「なお、この連絡網の存在は我が王国軍の秘密事項です。くれぐれも他言無用に願います」
つまりは、わいにゃんに秘密を打ち開けることで、信頼していることを示してくれたということなのだろう。
簡単に教えてくれたことから、それは知る人ぞ知る『公然の秘密』なのだろうが、それでもありがたいことである。
「なるほど。興味深い技術です。もちろん秘密は守ります」
わいにゃんは、そう言ってから、受け取ったデータメモリに目を落とした。
サウザンから送られたデータの入ったメモリーカード。
それは、わいにゃんも使用している市販の汎用メモリだ。
受信後、ドルッシーがデータをその中に入れてくれたのだろう。
わいにゃんは、すぐさまぽっけから情報端末を取り出し、端子にメモリを差し込む。
自動ウィルスチェックが自動で立ち上がり、セキュリティ画面が表示される。
データはサウザンの手によって、ロックがかかっている。
生体認証とパスワード、それにわいにゃん一味が所持する特定の端末のみでしか開くことのできないロックを組み合わせた三重のセキュリティで守られているのだ。
わいにゃんは、端末に、指紋と虹彩、それに音声を読み取らせたのち、パスワードを入力してデータを開く。
それらは、わいにゃんが頼んでいた、ブルルキャピーテに関するハザード情報だった。
国内に潜伏していると思われる危険人物。
宗教、政治を含む過激団体。
国内、あるいは海外に拠点を置く、王国内で活動している犯罪組織。
危険思想を持った政治家や軍人といった国家の要人。
あるいは、テロの標的となり得る重要拠点。
そういった内容のことが、項目ごとに分けられて、網羅されている。
最後の重要拠点の項目には、今回実際に襲撃に遭ったオキシダイトプラントも記載されていた。
このデータを送ってくれたサウザンは優秀な人材だが、しかし、その才能にも限度がある。
この短期間に独力でここまで多岐に渡ったリストを作ることは不可能だ。
彼女はおそらく、どこかの組織が作成したリストを、何らかの方法で入手したのだろう。
作成元は、おそらくどこかの国家に所属する情報部門だろうとわいにゃんは推測する。
軍の情報部門、もしくは警察や外務省の危機対策室、といったとこのが妥当な線だ。
あるいは、漏洩した情報を、闇ブローカーを使って手に入れたのかもしれない。
手段さえ選ばなければ、こうしたデータを入手する手段はいくらでもある。
対価を払っての購入、別の情報との交換、あるいは、違法なハッキング。
バレて面倒臭い事態を引き起こさないレベルであれば、どんな手段を用いても構わない、と伝えている。
そういう場合のために、サウザンは様々な情報機関の人間と付き合いがある。
また、金銭で情報を取り引きする場合に備えて、一定額の資金を渡している。
詳しくは知らないが、サウザンはその資金を投資に回し、かなりの利益を得ているらしい。
その方法がどうあれ、サウザンは結果を出す。
なぜ自分の部下に収まっているのかを疑問に思うくらい優秀な人材であり、わいにゃんは情報に関することを彼女に完全に一任しているのである。
「データ、ありがとうございます。助かりました、海中を移動中の船に外部からデータを送るのは難しい」
わいにゃんは、ファイルの内容をざっと確認し、ドルッシーに感謝を述べる。
「いえ。そもそもわいにゃん子爵をお呼びしたのは我々ですのでこの程度のことは当然です」
ドルッシーは一礼したあと、扉に顔を向けかけるが、途中で止まり、思い出したように言う。
「そうそう、外貨獲得の手段が限られるブルルキャピーテ王国では新たな産業の開発を促進しておりましてな。つきましては、グルメであるとご評判の子爵に恐れながらご判断を仰ぎたいことがございまして」
いぶかしがるわいにゃんを気にせず、ドルッシーは続ける。
「実は我々の国では造酒が盛んでありますが、残念なことに国外ではあまり知名度がありません。また、その特殊な製造法ゆえ独特な風味を持つため、慣れない国外の方々にとってはなかなか飲みにくい場合もあるようです。もちろん、銘柄によって風味に幅があり、中には口ざわりの良いものもあるのですが、我々にとっては普段より口にしている酒のため、その中から外の方にとって飲み易いものを選ぶのはなかなか困難なありさまで……」
予定調和的にドルッシーは途中で言葉を切る。
わいにゃんは、ドルッシーが求める言葉を探すように、発言を継ぐ。
「ええ、かの名高い海藻酒のことは私も存じ上げております」
おお、それは話が早い、とドルッシー。
「そうでしたか、実は、賓客の方に贈呈用の酒の選定をミア王女より申し付けられておりましてな。先程も述べた通り、私の口はこの酒に慣れてしまっておりまして、どうしてなかなか外のお方にお勧めする自信を持つことができません」
「なるほど、それはなかなかの難題ですね」
まさにその通り、と、ドルッシーは頷く。
「ところで、わいにゃん子爵はなかなかに舌が肥えたお方であるということをミア様よりお聞きしております」
「いや、私など、美味なものが人並に好きな程度の雑食に過ぎません。グルメなどとはほど遠く、お恥ずかしい限りです。ところで、女王陛下は一体どこでそのお話を……? ミア様とは、未だ直接のお目通りの名誉に与ったことはないはずですが……」
「わいにゃん子爵にお仕えしておりますかなぽん、彼女より伝え聞いたとのことです。また、わいにゃん子爵は心得た方ゆえそのようにご謙遜なされますが、なにも高級な食材を口にする者だけがグルメと呼ばれるわけではありません。日頃の鍛錬の仕上げをするのは栄養の整った食事であり、そこには新鮮な食材のみを用いる。わいにゃん子爵が配下の方々の日々の食事に対して心を配る様をかなぽんから聞いたミア陛下は、その子爵の思慮深さにひどく感心のご様子でした」
「なるほど、そう言って頂ければ、思い当たることもあるように思います」
わいにゃんはそう答えたものの、話の先が見えず、まだ戸惑った様子である。
ドルッシーは続ける。
「実は、そんなわいにゃん子爵に折り入ってお願いがございまして。先程申しました、王女の賓客のための海藻酒。そちらの選定について、子爵の貴重なご意見を賜れれば、と思いまして……」
それを聞いたわいにゃんは、慌てる。
「あ、いや、それは非常に勿体無い話ですが、そもそも俺はあまり酒は飲まないクチでして……、特に、女王陛下がお選びになる酒の選定といった重大な話となると……」
分かっている、というように、ドルッシーは頷く。
「もちろん、このお申し出にて、子爵に王宮御用達品の選定の責を押しつけるなどという不躾な真似は毛頭御座いません。実は、この件は、王国にお越し頂いた方々に広くお願い致している話でして……、また、子爵直々のテイスティングでなくとも御座いません。というのも、魔界には多くの種族がおり、彼らはいずれも異なった味覚の趣味を持っておりますが、我々は各種族の好みに対する知見をまったくと言っていいほど有しておりません。その点、子爵の配下の方々は、様々な種族で構成されているとお聞きします。ですので、是非ともその方々に味見して頂いて、ご貴重な意見を賜ることができれば、こちらとしても非常に有り難いというわけなのです」
「そういうことであれば、ご協力させて頂きますが……、しかし、本当にうちの連中でいいのですか? あいつら、酒は好きですが、味を分かって飲んでいるかというと……」
ドルッシーは、にこやかに微笑んで、うなずく。
「問題ございません。むしろ、そうした方々の意見が貴重であると考えます。というのも、肥えた舌をお持ちの方々に好まれる酒の味は、えてして、そうでない方々にとっては刺激が強すぎることがあるからです。そのため、誰が飲んでも美味しく感じられるものから、通の方のお眼鏡にかなうものまで、幅広く選定しておきたい、というのがミア女王陛下のご意向なのです」
わいにゃんは、その言葉を聞き、神妙にうなずく。
「そのような話なら、こちらとしてはお断りする理由はありません。慎んで、お受けさせて頂きたく存じます」
わいにゃんの言葉を聞いたドルッシーは、作法に従ってわいにゃんに一礼する。
「わいにゃん子爵は寛大なお方とお聞きしておりますゆえ、そう言って頂けるものと確信しておりました。ご好意にすがることになりますが、是非とも宜しくお願い致します。ご賞味をお願いしたい酒は、後日こちらから子爵のご居城へと郵送させて頂きます。期限などはとくにありませんゆえ、お気に召されたものがございましたら、かなぽんに命じて当方へとご連絡頂ければ幸甚の至りに存じます」
そのように述べたドルッシーは、最後に一礼し、そのまま退室したのだった。
「ねーねーよしお……」
ドルッシーの足音が廊下を去ってゆくのを確かめたあと、ロングテイルは、おずおずとわいにゃんに話しかける。
「ひょっとして今の、ウチがここの酒を持ってこうとしてたのをドルッシーさんが聞いてて、気を利かせてくれたのかな……?」
それを聞いたわいにゃんは、肩をすくめる。
「どうだろうな。まあ、その可能性もあるだろうな」
「ってことは、王宮ご用達のお酒の選定うんぬん、っていう話も、ひょっとしたらウチたちを恐縮させないための作り話なのかな?」
ロングテイルにしてま珍しく、申し訳なさそうな様子だ。
「まあ、その可能性はなくもないが……、それよりも、純粋に、国外の人間に酒の味を評価してもらいたかったんだと思うぜ」
実際、作り話ではあったのだろう。しかし、評価の話について
そう言ってフォローしたわいにゃんだったが、口元をにやにやさせてしまったのがいけなかったらしい。
無言で殴られた。
「いてっ!? つーかお前、なんでいきなり殴るわけ!??」
「うっさい! アンタに気を使われると無性に腹が立つんだっつーの!」
急に、ぷんぷんと怒り出すロングテイルなのであった。
「おっ、どうしたどうした。よしお、痴話喧嘩かい?」
ロングテイルがわいにゃんをグーでぽかぽか殴るタイミングで入室したKBが、開口一番、茶化すように言う。
「「いや、それはない」」
真顔をこちらに向け、同時に同じ言葉を返す二人に、思わずKBは苦笑する。
が、すぐに気をとり直し、本題に入る。
「まあ、そうだろうね。ところで、サウザンから送られてきたデータを見たんだが、いくつか気になることがあってな」
そう言って右手に持った自分の情報端末を二人に見せる。
「この部分だ」
そのデータは、先ほどドルッシーから受け取った直後、わいにゃんが船内のメンバーの端末に送信したものだ。
どうやらKBは、わいにゃんがドルッシーと会話している間に、その中身をざっと見終わったらしい。
「これは……、名簿か?」
「ああ。ここ六ヶ月間の入国者名簿だよ。おそらく、船舶会社がMDAPD(魔界デビル&エンジェルポリス)に届け出たものだろう。テロリスト対策では、入国者を把握しておくことは基本中の基本だ」
そのデータが何故それがわいにゃん一味の端末の中にあるのかは聞かない。
案外、ブルルキャピーテ側がサウザンに提供したものかもしれない。
「この名簿が何か?」
「ああ。この中に、ここ二ヶ月で十回にも渡り、出入国を繰り返している人間を一人みつけたんだ」
「それが? たとえば貿易商のような人間なら、頻繁に出たり入ったりしてもおかしくないだろう」
「まあね。それはその通りだよ。それだけならね」
KBはそう答え、端末のフォルダをスクロールして別のファイルを表示する。
「知ってはいると思うが、オキシダイトの鉱脈があるのは、ブルルキャピーテだけじゃないんだ。鉱脈の中心がこの国にあるのは確かだが、極めて小規模ながら、いくつかの国にも存在している。その一例が、ブルルキャピーテの隣国であるルンデンブング王国。そして、三カ月前、この国のオキシダイト発掘プラントでちょっとした事故があった」
「ちょっとした事故?」
「ああ。そのことを記した新聞記事がここにある。サウザンが、検索で引っ掛ったデータを雑多にまとめた未分類ファイルだよ。普通なら、これを気にする奴はいないだろう。けれど、私の友人だった男が、当時そこで警備員をやっていてね。死んだ、という連絡を受け取ったから、そのことを覚えていたんだ。話によれば、不審な点はないプラントの爆発による事故死という話だった」
「爆発?」
「そう。爆発。プラントが丸々吹き飛んだんだ。小規模なプロントで、それに技術力も低かったらしいから、現場の作業員の熟練度は低い。だから、ちょっとしたミスが重なってそれが不幸な大事故に繋がったんだと思っていたんだが……」
KBは、再び端末をいじり、別のデータを取り出す。
それは、一つ目のものと良く似た出入国データ。
ただし、ルンデンプング王国のものだ。
「……これだ。ルンデンブングの事故当日から二ヶ月前のデータ。この中にも、出入国を十二回、繰り返している人間がいる。名前は違うものの、ブルルキャピーテの場合とパターンが一致するとは思わないか?」
わいにゃんは、肩をすくめる。
「つまり、ルンデンプングの爆発も、何者かによる強襲によるものだと? なるほど、確かに、出入国を繰り返していた、という点ではパターンが一致する。けど、それは単なる偶然ってことも考えられるだろう」
「まあね。偶然である可能性は十分すぎるほどある。けれど、このデータの中で、ただ一点だけ、どうしても気になってしまう部分がある。ここを見てほしい」
そう言って、KBは、画面の一点を指で示した。
貰ったデータを確認すると、気になる単語が見つかる。まさか、な。と思いながら、続きを眺める。
メンバーを集め、今後の方針の打ち合わせ(内容は詳細を欠かなくてもいい)。
到着する船。
出迎えるミア王女と、唖然とするわいにゃんで、シーンを締め。
(次回は、会見のシーン
モテモテじゃん、ミア女王に会ったことあんの? という質問に絡めて、セイレーンの夢園の話をする。