傭兵奇譚2話
第二話 というより、これが第一話みたいな感じです。
雲がかかっていて月の光も届かない廃ビルの中、営業していいたころはそれなりににぎわっていたであろう大きなオフィスの一室、机や椅子が並べられていただろう部屋には、かわりに20を超えるであろう死体が転がっていた。地獄絵図と呼ぶに相応しいその状況を作り出した原因は、紛れもなく、私だった。
何度味わってもやはり、いやな感触だった。刃を相手の体に向けて振るい、そのまま振りぬく。皮膚を、内臓を、骨を、断つ感触。今しがた生き物からただのタンパク質の豊富な置物に変わったそれなりに大柄な魔族の男を見下ろす。表情は恐怖と苦悶に満ちたまま固まっている。テスカトリュースと思しき魔族の集団の討伐という依頼だったが、どうやらハズレだったようでこれらはただのいきすぎたチンピラの類だった。
丈の長いコートのポケットから振動が肌に伝わる。私と来ていた仲間からの無線だった。
『こっちは片付いたけど、そっちの首尾はどう?』
「丁度終わったところだ。こいつらはテスカトリュースじゃなかったらしい、残念だがな。」
『そうか』
と、声の主―カイ―が答える。少し残念そうなトーンだった。
「所定の場所で集合しよう。帰りのヘリももうすぐつく頃だろう」
カイは了解の旨を私に伝えて無線を切り、お互いヘリとの待ち合わせ場所に歩を進めた。
アレステアはテスカトリュースに対する依頼を主としつつも、傭兵という業務上、紛争への介入、要人暗殺などを請け負うこともあり、その中にはこういった犯罪集団の討伐も含まれる。
ただの単発的な殺人なら警察の仕事で住むのだろうが連続的に、さらにそれなりに多い数を殺していたこととソレに加えてテスカトリュースと間違われる程度の実力はあったようで、そう考えてみると例えば壁に寄りかかるようにしてくたばっている魔族などは、戦う人間としては素人だったがそれでも、魔法の腕だけはそれなりだった。私やカイとしてはテスカトリュースのほうが都合がいいのだが、そう簡単に目的への手がかりが見つかることはない、ということだろう。
そんなことを考えているうちに待ち合わせ場所にたどり着いた。予定通り、ヘリはもう到着しておりカイの方も丁度着いたようだった。
テスカトリュースだと思って臨んだ任務だったためか、いらぬ緊張をしてしまっていたようで少し疲れを感じる。流石に素人相手に返り血を浴びるようなヘマはしないが、汗をかいたこともあいまって不快感が大きい、風呂でも入ってさっさと寝てしまおう。
――――――――――――
やはり、仕事の疲れを流すには風呂が一番だと私は思う。湯船で温まって体をほぐし、シャワーで汗を流す。浴室を出て窓を開ける、アレステア本部が常に空を飛んでいる空中要塞になっているためか、心地よい風が入ってきて私の肌を撫でた。湯船で火照った体を冷ますに丁度いい、そんな風だった。タバコを一本取り出し火をつける。フリークスの紙巻タイプ、紙の雑味こそあれど、葉の豊かな甘味と香ばしい香りがたまらない一品だ。このタバコを教えてくれたおっちゃんには感謝の意を示したいと改めて思う。本当なら葉巻で楽しみたいところだが眠気もあるので手軽に味わえる紙巻タイプにさせてもらった。
就寝前の一服を一通り楽しんだところで布団に入る、それなりに夜も更けている、カイももう寝ただろうか。私も寝るとしよう。
お読みいただきありがとうございました