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ねぇ、リリィ、オムライス作ってよ  作者: 寂しい里
リリィとミアの章
9/20

一日目


 ミアを待つ日々が始まった。

 ミアは三日で帰ってくると言った。だったら、その間にミアの戦いのお手伝いが何か出来ないかなぁと思って、でもやっぱり何も出来ないという結論に至った。

 わたしに出来ることは何もない。だからせめて、現状を知りたいと思った。

 本棚にある本をたくさん引っ張り出してきて、テーブルの上に広げる。禍々しい装飾のされている分厚い本はだいたいが、よくわからない図形やわたしには読めない文字で埋め尽くされている魔法書のようだ。

 わたしは本を広げては本棚に戻し、また性懲りもなく本を持ってきて広げては本棚に戻した。わたしが探しているのはミアが今戦っている『禁忌種』という生物について書いてある本だった。もちろん、そんな本が我が家の本棚に眠っているかどうかはわからない。

 でも、時間はたっぷりある。二週間分の食料の貯蔵はあるし、一日中本と格闘していても大丈夫だ。

 パラパラと本をめくっては本棚に戻していくなかで、うちには思ったよりも本があることを実感し始めた。ミアも最初から魔法が使えるわけじゃなくてたくさん勉強したんだ。素人のわたしには何となく魔法はテキトーな呪文を唱えれば楽に出来るもの、と考えていたけどとんでもない。どの世界でも何かを極めるには膨大な勉強量が必要なようだ。

「う、うぅん……」

 目が痛くなってきて軽く目元を揉んだ時にふと時計を見ると、もうお昼の時間だった。台所でハムを挟んだ簡単なサンドウィッチを作り、それを食べながら作業に戻った。まだ目当ての本は現れない。

 そのうちに、やっぱり禁忌種についての本はこの家にないんじゃないかって思い始めてきた。もしくは、今まで調べてきた本の中にそれについての記述があったんじゃないか。今まで目を通してきた蔵書は全て読めなかったので全然あり得る話だ。

 もちろん、そんなことを言ってもどうにもならないのはわかってる。字が読めるようになるわけないし、それにここまで目を通したんだ。最後の一冊まで目を通そう。何の成果が得られなくたっていいじゃないか、たとえ禁忌種について何かわかったとしたってミアの役には何一つ立たないんだもの。

「ふぅ……」

 気合いでなんとかあと一冊というところまでやってきた。最後の一冊は特別分厚くて、龍の鱗で装丁されている。他の書物以上の禍々しさを感じる。わたしはあまり期待せずに本を開いてみた。

「……ぁっ」

 適当に開いたページ。そこには写実的なタッチで描かれた蛇と豚を合わせたような気持ちの悪い生き物がいて、睨むようにこちらを見つめている。

 目があった。背中に悪寒が走って思わず本を閉じる。

 一度深呼吸する。ざらざらとした背表紙に指を這わせ、もう一度深呼吸。

「…………」

 あんな化け物見たことがない。たぶん『禁忌種』と呼ばれる生き物だろう。

 となると、この本が今日一日かけて探したお目当ての書物ということになる。達成感と安堵が同時に頭の中を駆けめぐって、よくわからない気分に襲われた。

 わたしは時計を見た。そろそろ夕食の時間だ。それにお風呂も沸かさないといけない。

 とりあえず『禁忌種』の本は本棚に戻しておいて、また明日ゆっくり読もう。

 前の世界でもなかなか出来なかった『机に向かう』ことに想像以上の疲労を覚えたわたしは、ふらふらしながら家の外に薪を取りに行った。

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