別れ
「リリィ……行ってくる」
次の日の朝、ミアは無表情にわたしに言った。バトルアックスを肩に担いで、リビングに立っていた。
バトルアックスの表面には見たこともないような紫色の魔法陣が刻まれていておどろおどろしい雰囲気が醸し出されていた。昨日の夜に聞いてみたところ「禁忌種の心臓から宝玉を抽出する魔法陣」と返ってきた。意味はよくわからない。
昨晩はわたしのベッドでミアと一緒に寝た。ミアからはすぐに寝息が聞こえてきたけど、わたしはそう簡単には寝れなかった。そんなことない、あるはずないってわかってるけど、ミアが行ったきり帰ってこなかったら、と考えた。ひとりぼっちで生きていくことを考えた。ミアと二度と会えないことを考えた。それで、少しだけ泣いた。
たぶんただ寝相が悪いだけなんだろうけど、泣いているとミアが抱きついてきて頭を撫でてくれた。「りりぃ……」という寝言が愛おしくて、それを抱きながらわたしは眠りについた。
朝、ゆっくりと時間を引き延ばすように朝ご飯を食べた。オムライスにしてあげようかと思ったけど頑張って耐えた。オムライスを作ってあげたら、満足してもうこの家には帰ってきてくれないような気がしたから。
そして今、ミアは戦いに向かおうとしている。
「ミア……絶対、帰ってきてね」
こんな人並みなことしか言えない自分にじれったさを覚えながらも、わたしはミアの肩に手を置いた。
「うん。あの、リリィ……」
すると、ミアが熱っぽい上目遣いをこちらに向けてくる。
「……なに?」
「えと……帰ってきたら……オムライスが食べたい」
ぶっきらぼうに視線を外すミア。やっぱりミアは食いしん坊だなぁと呆れつつ、これだけの食いしん坊なら絶対に帰ってきてくれる、と安心した。
わたしは答えた。
「わかったよ。とびっきりおいしいのを作って待ってるね!」