ピクニックに行こうよ
「リリィ?」
目を開けると、ミアがわたしに馬乗りになっていた。顔がものすごく近くて、ミアの綺麗な黒髪がわたしの頬を撫でている。
「……うわぁっ!」
慌てて、思わずミアを両手で突き飛ばす。すると手は空を切った。ミアがいた場所からたくさんの黒い蝶が羽ばたき、わたしが寝ている隣に再び集まる。瞬きをすると、黒い蝶の群れがミアに変身していた。
「……びっくりした」
ミアは忙しく瞬きしている。
「ごめん。だっていきなりいるんだもの」
びっくりしたのはこっちもだけど、いきなり突き飛ばすのは良くなかったと反省。
ミアは毛布をもぞもぞやってわたしにより近付いてくる。肌が触れ合ってミアの体温を感じる。なんだかいい匂いがしてちょっとだけ、どきっとした。
「リリィ、うなされていた」
「わたしが?」
「うん。ひどく汗をかいて、呻き声をあげていた」
「そう……」
何か悪い夢でも見ていたんだろうか。何も思い出せない。
身体に纏わりつく倦怠感を振り払って、わたしは身体を起こした。
「もう起きる?」
ミアが眩しそうに目を細めて聞いてくる。朝日の具合から見ると、もう普段なら起きている時間だ。
「朝ご飯を作らなくちゃ。そうしないとミアのお仕事に支障が出ちゃう……」
「ううん、今日は大丈夫。今日は、戦いに行かないから」
「え?」
この二ヶ月、毎日ミアは戦いに行っていて休みなんて一日もなかった。だから、ミアにもお休みの日があるってことを少し珍しく感じてしまう。
「じゃあどうする?」
「寝る」
わたしの腕を引っ張って、毛布の中に引きずりこんでくる。二人の体温で温められた毛布の中は抗いがたい魅力があるけども、うとうとする前にもう一度無理矢理起きあがった。
「このまま寝ちゃうのはもったいないよ! せっかくだしどこかにお出かけに行こう。ね?」
「えぇ……。眠い」
「ダメダメ、しゃきっとして!」
ミアをベッドから引きずり出して、抱き抱える。
ミアが休みの日なんてすごい久しぶりなんだ。今度いつこんな日が来るかわからないし、もしかしたら二度と来ないかもしれない。
だから、大事に過ごしたい。
「リリィ……無理そう……」
わたしの胸の中からたくさんの黒蝶が羽ばたき、毛布の中に逃げ込んでいく。日光から逃げるように頭まで毛布を被ったミアは、小さな子供みたいに駄々をこねる。
「うぅん……じゃあ、お弁当にオムライスを作ってあげよう!」
本当は、始祖鳥の卵は貴重なのでオムライスは一週間に一度という約束なんだ。それなのに昨日に続き今日も作るというのはわたしとしては最大限の譲歩なわけで。
「……ほんと?」
毛布から顔を覗かせるミア。
ミアにとっても、これは魅力的な提案のようだった。