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「戻った…。」


事務所のドアが開き、疲れた顔をした探偵が入ってくる。


「おかえりなさい、その様子だとあんまりいい様子ではなかったみたいですね。」


探偵は仕事である人間の素行調査を行なっていた。これでも表の顔はちゃんとした私立探偵なのだから当然のことだ。依頼してきた人間曰く、合コンで知り合った人間で、結構趣味は合うが合コンで出会ったということで不安だった。


「探偵さんもお疲れのようですし、少しお茶にしましょう。私で良いのなら愚痴、聞きますよ?」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


テーブルに並べられたクッキーを頬張りながら探偵は少し強く息を吐く。


「大体、合コンで知り合ったのだろう?それぐらい気にするなよ…。」


開口一番に出てきた言葉は愚痴であった。


「いや、それは流石に無理か…。だがなぁ…これを依頼してきた人間に伝える時が…俺は本当に苦手なんだ…。」


二番目に出てきた言葉もまた愚痴であった。なんでこの人はそんなんで私立探偵なんてものをやっているのだろう、と如月は思ってしまった。理想と現実が違ったのだろう、と思っておく。いや、私じゃないんだから、ましてや探偵さんに限って理想なんてものがあるとは考えづらい。


「如月?聞いているのか?」


探偵の言葉で我に返る、危うく答えの出ない問題を考えてしまうところだった。


「すみません、考え事をしてしまいました。どこまで話しました?」


「依頼した人間に真実を話す時が一番辛い。良い真実ならまだしも、悪い真実だった時の相手の反応がどうにも慣れなくて…ってところまでだ。」


どうやら話のほとんどを聞いていなかったようだ、最近考え事をしてしまい人の話を聞いていないということがよくある。あまりいいとはいえない癖がついてきてしまっている。


「それにしても、考え事をしてて人の話を聞かないとは。如月もだいぶ探偵の脳になってきたのではないか?」


「いやぁ…。」


探偵の脳というよりは探偵さんの脳でしょう、と心の中で突っ込みを入れる。尊敬する人間の癖はうつると聞いたことがあるがどうやら本当らしい。待った、私は本当に探偵さんを尊敬しているのだろうか?そもそも尊敬とは何をもって尊敬というのか…。いや、そうではなくて、探偵さんはたしかに尊敬に値する人間ではあるが、どうにも悲観的なところがある、そこが正直好きではない。尊敬というには微妙に違うような気がする。では尊敬ではなく、なんなのだろうか…。


「話を戻そうか、だから悪い真実を人に伝えるのがあまり得意ではない。」


意地の悪い対応が如月の頭の中に浮かぶ。


「じゃあウソついちゃえばいいじゃないですか。なんとでも言い訳がつきますよ?」


嘘をつき依頼した人間にとって良い真実だけを伝える。全然違うと言われても調査をした時はたしかにそうだった、と言い張ることもできるだろう。相手が警戒してそういう行動をしていた可能性だってある。言い訳なんていくらでもできる。


「それは良くない。」


「じゃあ頑張ってください。そこで良くないって言い切れるあたり、しっかり探偵してるじゃないですか。」


ほとんど誘導だが探偵の口から真実を伝えると言質を取った。まあ、そんなことせずとも探偵は愚痴を吐くだけで仕事はしっかりするのだが。

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