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ワケあり会社員(3)

理解ができなかった。殺し屋という存在が、それを頼りにしようとしている目の前の探偵が、今起こってる目の前の事実が。全てが理解不能でしかなかった。


「このご時世、殺し屋なんて存在しないと思ってたか?」


いつもと変わらない口調で探偵が聞く。


「何故なんですか…」


口をついて出た言葉は殺し屋という存在についてではなく、何故という疑問。


「どうして殺すんですか…」


「それ以外に方法がないからだ。」


「もっと考えれば別の方法だって…」


「自殺は待ってくれない、限られた時間の中で最善を尽くすだけだ。」


疑問の全てを淡々とした言葉で返される。


「上司さんにも…家族がいるかもしれないじゃないですか。」


「だろうな。」


「じゃあなんで…」


「だがな」


探偵は変わらぬ口調のまま如月の言葉を遮った。


「まず第一にその上司は『依頼人』ではない。そして今回はその上司が上司でなくなる以外に方法がない。例えば、『依頼人』が仕事を辞め新しい仕事を探すとしよう。新しい仕事を見つけるための間、生活の支援が多少なりとも必要だ。ではその支援は誰がすればいい?政府が支援してくれるほど現実は優しくない。俺らには支援するほどの大した力はない。それなら家族はどうだろうか?出て行ってしまった家族に助けてといえるか?答えはNOだ。」


「『依頼人』じゃなければ…誰を殺しても…構わないんですか…」


探偵の言葉は残酷だが的を射ている。現実を突きつけられたせいか、うまく言葉が出てこない。


「何度もいうようだが今回はこれしか方法が無い。如月の言いたいこともわかるがそれは今回の最適解とは言えない。さっきも言ったが現実は優しくないんだ。」


「あー、結局俺は殺せばいいのか?」


その場に居づらいと感じたのか殺し屋がおずおずと口を開いた。


「頼む。」


探偵は短く答えると殺し屋はその場を足早に去っていった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


あれから数週間が経った。

殺し屋に会った夜から数日後に、会社員の方は事務所を訪れいくつか会話をしていた。会話の内容はあまり覚えていないが、今回の件は他言無用でお願いします、という探偵の言葉と何となく予想はしてたが本当にこういうことになるとは…といった感じの会社員の会話が交わされていたと思う。正直今回の事は納得ができていない。


「如月、ちょっとこっち来い。」


あれから探偵さんとはあまり会話ができてない。急にこっちに来いと言われ少し反応が遅れてしまった。


探偵は無言で一通の手紙を差し出した。会社員の方からであった。


拝啓 事務所の方々へ

先日の件は大変お世話になりました。仕事の方は上司不在ゆえに、色々大変になりましたがどうにかうまくやっていると思います。


いかにも定型文といった言葉から始まった手紙の中身は感謝と近況報告が主であった。


あれから妻ともう一度話し合おうと言うことになりました。私自身同じ失敗を繰り返すような真似はしたくないので意気込んでおります。

さて、最後になりますが、気温の変化が激しくなってまいりました。御身体には注意してお過ごしください。


最後まで読んだことを確認したのか探偵がゆっくりと口を開いた。


「良いことばかりじゃないが、悪いことばかりでもないのがこの仕事だ。無理に理解しろとは言わない、だが、ゆっくりでもいいからこの方法もあるとわかってほしい。」


自殺を思いとどめてもらうという意味では、多分これも一つの形なのだろう。


「正直、意味がわかりません。自殺させないために他の人を殺すなんて…」


「ああ、そうだな。」


探偵は口調を変えず反応を示す。


「でも、だからこそ…ですかね、他の方法があるときは私がそれを止めます。」


探偵は少しの間黙り


「…そうか、ではそうしてもらおう。」


とゆっくりとした口調で返した。

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