case18 努力が実らない人間(1)
その日、探偵はいつものように仕事の資料をまとめる片手間、サイトを睨んでいた。いつも通りの光景だが、最近は助手が効率を良くしようといくつか案を出していた。例えば少し前には、サイトの運営をスマートフォンで行うのはどうか、と言っていた。そうすれば外にいるときでも更新状況の確認ができるとのことだ。確かにそうなのだが、外にいるときは基本的に本業を行なってる時なのでスマートフォンをいじってる暇はないと却下された。
「如月、資料にするには情報が足りない、少し外してくる。」
決定的な証拠を見つけることができなかったため、またやり直し。その思いを胸にしまい、探偵は事務所を出た。その間何もすることがない如月は時折サイトに意識を向けつつ読書に耽った。以前事務所に『依頼人』として訪れた作家、その新作がまたも反響を呼んでいるらしいので如月もその流れに乗っかったのである。
新着
もう疲れた、辛い。
ふと目をやるとサイトが更新されている。メッセージは一言だが、このサイトに投稿した以上目的は他の依頼人と同じなのだろう。
返信しました
何があったのですか?話したら楽になることもあるかもしれませんよ。
探偵が帰ってくるまで待つべきか迷ったがその待っている間に死んでしまう可能性がないとは言い切れない。独断ではあるが返信した。その『依頼人』とは返信を行なっていくうちに、すぐに事務所に来れることになったので少し迷ってから事務所で話すことを決めたのであった。
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事務所の扉がゆっくりと開き1人の男が入ってくる。見た目は少し派手だが他はこれといって外見の特徴はない男だ。
「いらっしゃい、どうぞお座りください。」
探偵と同じように『依頼人』を椅子へと導く。そして紅茶を運ぶ。1人で行うとなかなかに大変だ、探偵はよくそれでやってこれたな。
「今回、なぜ自殺をしようと思ったのですか?」
「実は俺、ミュージシャンになりたくてさ。でも中々成功しなくて…。」
そういえば今までミュージシャン関係が相手であったことはなかったな…。如月は新しい職との遭遇を少しだけ喜びそれを心の中にしまった。




