探偵とその過去(5)
「あ、探偵さんが探偵になったのってそれが理由だったんですね!」
探偵さんに言われて初めて気づいた。だがそれだけの関係なのでしょうか。
「でも探偵さん、出会いってことはその後も少しは関係があるってことですよね?」
「お、鋭いな。そう、その『探偵さん』との関係はそこで終わりではない。」
探偵さんが誰かのことを探偵さんと呼ぶのはなんだか変な感じです。探偵は自分なんじゃないんですか?と聞きたくなるような感じで…。
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後に探偵になる男、夜紡零次と以前探偵だった男が友達になった後のこと。時間があるときは屋上に向かい2人は会話を交わした。しばらく時が経った日のこと。
「すみませんね、レイジくん。少し検査が長引いてしまいまして遅れてしまいました。」
検査が長引いた、と聞き不安がこみ上げる。どれだけ仲が良かろうが、ここは病院で相手は病人なのだ。
「探偵さん、病気悪化してるのか?」
「いいえ?採血を嫌がってたらこんな時間になってしまいました。私、採血は苦手でしてねぇ…。嫌だ嫌だ〜って言ってたんですけど、レイジくんとのお話の時間が少なくなると思ったので諦めて受けてきました。」
なんだ、心配して損したじゃないか。そんな思いと共に笑みをこぼすとそれが気に食わなかったのか探偵が話を続けた。
「何笑ってるんですか!針を刺されて血を抜かれるんですよ?怖いじゃないですか!」
「いやいや、流石にそう思うのは子供だけじゃねーの?俺は平気だぜ?」
他愛のない会話だが2人にとってそれだけで充分であった。そんな会話の中、ふと思い出したように元・探偵が話題を変える。
「そういえばレイジくん、お友達の具合はどうですか?」
それを聞くと、零次は少しバツの悪い顔をした。
「まだ意識が戻ってないんだよな…。」
「そうですか…。」
雰囲気が悪くなってしまったのに気づき、ごまかそうと続けた。
「あいついっつも寝坊するんだよ。高校にいるときも遅刻ギリギリでさ。」
「ふふ、それは大変ですね。起きたら2人で怒りましょうね。」
2人は顔を見合わせて笑った。笑い声が小さくなったころ、元・探偵が急に真面目な顔になった。
「なあ、レイジ。」
「ん?なんだ、探偵さん?」
その真面目な顔に若干の不安を覚える。
「自ら命を絶つってのはな…思っている以上に苦しくて痛いんだ。」
「それ前も聞いたよ。大丈夫、俺はもう自殺なんてしないから。」
それを聞いて安心したのか元・探偵はいつもの優しそうな顔をして微笑んだ。
「そうか、それは良かった。レイジ、写真を撮ろう。2人の写真を、さ。」
「なんだよ急に、口調まで変わっちゃってさ。写真なんて何枚でも撮りゃあいいじゃないか。」
その数日後、零次の命を救った人間の命の灯は静かに消えた。




