case2 ワケあり会社員(1)
今回は少し長くなるのでいくつかにパートをわけます。
ここで働くときに探偵さんが教えてくれた。
私立探偵としての仕事は全てまとめて『依頼』と言うことにしている、と。
そして今、その探偵さんが『依頼人』といった。
つまりサイト関連なのだろう。
自然と背筋が伸びていくのを感じた。
「明後日ぐらいからしばらくの間、家に帰るのが遅くなるだろう。覚悟しておくように。」
探偵の声は池に投げ込んだ石のように重く深く沈んでいった。
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それから数日経ったある日の夜、一人の『依頼人』が事務所を訪れた。
しっかりと着こなされたスーツにきっちりと結ばれたネクタイ。そしていかにもといった形のカバンを持った男性。
一見普通の会社員となんら変わらない。だが如月はその男が何かに押し潰されそうになっている、そんな空気を感じた。
「お忙しい中足を運んでいただきありがとうございます。」
「いえ…」
どうにも会話のテンポが悪い、コーヒーを差し出しながら依頼人と探偵の話に耳を傾ける。
その空気が続くのを嫌ったのか探偵がそっと話を切り出した。
「今回は…自殺をするということですが何故その結論にたどり着いたのか聞かせて頂いてもよろしいでしょうか?」
「はい…えっと…その……」
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とても歯切れが悪い…言いにくい事情があるのだろう。
「ゆっくりで構いません、何から話せばいいのか悩んでいるのなら単語を並べるだけでもいいです。自分のペースで話してください。ここでの話は誰にも言いません。」
とてもゆっくりとした時間が流れ、そして男は口を開いた。
「僕は…どこにでもあるような普通の会社で働いています。今回自殺に至ったのは…上司が理由です…僕はもともと…
途切れ途切れになった言葉を探偵はしっかりと聞き、理解し、考えた。
なので…もう自殺するしかないのではないかと思いまして…それで…はい。」
男は会社員、上司は失敗を部下である男のせいにし、成功は自分の教えが良かったから。そしてさらに上の上司にゴマをするという人間として残念という表現がよく似合う上司であった。そんな残念上司にストレスを感じて溜め込みすぎた結果今に至る、ということだ。
「そうですか…ところで、失礼ですが…ご結婚なされてますよね?」
探偵は男の左手で鈍く光を発してる指輪を見てそっと問いを投げかけた。




