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case16 するつもりのない殺人(1)

「…。」


「…。」


事務者にはただ静かな時間が流れていた。外から吹いてくる風の音、時折聞こえてくる車のエンジン音、そして目の前に出されたコーヒーカップに手をつける音が聞こえるだけの空間。そんな音を出すこともためらわれる静謐な空間で、探偵は『依頼人』が口を開くのを待っていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


そもそもなぜこんなことになったのかと言うと、それはいつものようにサイトの書き込みが増えたところから始まった。いつもとなんら変わりのない光景に探偵と助手は書き込みの返信を考える。


『依頼人』はなかなか事務所に訪れることを承諾しなかったが、半ば強引に約束を取り付ける形ででその場を終了した。


事務所にやってきた『依頼人』は若かった。ここにくる人間は比較的若い人が多いせいか珍しくはない、おそらく20代ぐらいの女性であった。だが通常の『依頼人』と違い、なにか自殺と同じぐらい大きな問題を抱えているような雰囲気であった。そしていつもと同じように自殺の原因を質問すると『依頼人』は黙ってしまった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


そして今に至る、というわけだが流石にこれ以上黙ったままでいられるのも困る。


「なにがあったかはわからないが、このことを第三者に、ここにいる人間以外に広めるつもりはない。言いづらいことなのかもしれないが、少しだけ勇気を出してはくれないだろうか?」


そこから更に長い無言の時間が流れた。


「探偵さん探偵さん、もしかしたら探偵さんだと話しづらい内容なのかもしれません。だから、私が交代しますよ。」


如月に言われるがままに交代し、奥のデスクで未解決の仕事を進めていく。その片手間、目線を助手の方に移すと助手がなにかを語っているように見えた。さらにその後助手を見た時は依頼人がなにかを話している素振りも見せていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「ありがとう、如月。それで、どうだった?」


依頼人が事務所を出て行った後、探偵は如月に謝意を述べると話した内容について聞いた。如月はばつの悪そうな顔をし、これを伝えるべきか悩んだ後、ゆっくりと話し始めた。


「今回の『依頼人』さんは…人を殺してます。人を殺したから、死にたいと言っていました。」

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