生に嫌気が差した男(3)
秘密と言われてもいまいちピンとこない。『依頼人』さんが何かを隠しているようには思えなかった。では探偵さんは何を感じたの…?考え事が尽きないが車が止まったのでそれを中断することにした。車が止まった場所はなんてことない町の中、ここに『依頼人』さんの秘密が…?
「『依頼人』さんの秘密ってなんなんですか?」
「さあな、それを今から調べるんだ。ここからは探偵の方で行こう。」
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言われるがままに『依頼人』さんについて調べてみた。調べれば調べるほどにどこが普通なのか、と言いたくなってしまった。
「友達と話すときは無駄に調子にのってて話が合わせづらい、バイトはわからないことにわかったフリをして無駄に時間がかかってる…。まったくもって普通じゃないな…。俺たちは『依頼人』基準の話を聞いてた。だけど一般、多数派の意見を聞いてみたらどうだ、ほとんどが間違ってる。」
探偵さんの疲れたような声が聞こえてくる。確かにその通りだと思う。普段あまり気にしないことだけど、普通というのは多数派の主張のことを言うものだと思っている。と、いうことは『依頼人』さんは普通だと思ってるだけで実際は普通じゃない…これ、どうやって『依頼人』さんに伝えるんだろうか…
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「なあ、お前普通とか言ってたけど全然普通じゃないぞ…。」
えぇっ?予想以上にストレートに伝えたけど大丈夫なの!?探偵さんは何か意味があって…?
「は?なにそれ?説教のつもり?」
「実際に友達やバイト先の人間に話を聞いてわかった。お前の普通は残念ながら普通じゃなかった、そういうことだ。」
なんの捻りもなく発せられた言葉は『依頼人』の耳に届き、それを怒りに変える。
「じゃあなんだ?俺は死ぬまで普通じゃないままと?死ぬ前にそれを俺に教えて満足か?」
一方探偵さんはというと変わらない口調でさらに続けた。
「普通、だなんて言ってしまえば簡単なものだがな。そんなもの、人の物差しで変わるもんだ。」
「ああ、そうかよ!死ぬ前にそれを知ることができてよかったぜ、最高にひどい気分だ!」
もう空気は最悪と言わんばかりのものであった。なぜ探偵さんはそんな中顔色ひとつ変えずに話していられるのだろうか…。『依頼人』さんが怒って事務所を出て行こうとしたとき
「逃げるのか?」
「…は?」
探偵さんは追い討ちをかけるように言葉を加えていった。私は心の中で叫びをあげた、許されるのならば今すぐにでもその叫びを声に出したいぐらいだった。
「普通じゃなかったってだけでお前は生きてきた十何年、二十何年を捨てるのか。結局、そんなもんだったんだな。悔しいと思ってんなら生きて俺を見返してみろよな。」
「ああわかったよ!ぜってえ謝らせてやる。その時に謝っても許さねえからな!」
先ほどまでとは違う理由で怒りながら事務所を出て行く『依頼人』さんを私はびくびくしながら見送った。そして『依頼人』さんの姿が見えなくなった後すぐに
「探偵さん!私不安でしたよ!あんなこと挑発みたいなこと言って!」
と探偵さんに軽く怒りの言葉を投げかけた。
「悪かった、悪かったって。だがな、ああいう人間は怒りやすい上に、挑発にも簡単に乗っかる。ああした方が立ち直りやすいんだ。」
まったく…それをいう前に私にも一言欲しいものです…。心臓に悪いじゃないですか…。




