離れることのできない作家(2)
好きなことは好きなまま、嫌いな部分を作りたくないから仕事にしない。珍しい話じゃない。嫌いになりたくないから仕事にしないという考えは間違いでもなんでもないのだ。
ではそれに気づかずに好きなことを仕事にしてしまったら?おそらく今回の『依頼人』はそれなのだろう。好きだから仕事にする、悪い考えではない。だがそのリスクを把握しきれてなかった。そんな感じだ。
「暫く休むことも考えました、でも…。」
「流れに乗っている今休んでしまったらその流れが途絶える、人気が消えてしまうかもしれない、ということですからね…簡単なことではないですよね。」
せっかく人気になり始めた、その流れを塞き止めるのはあまり良いこととは言えないだろう、
「やっと動き出した…動き出した時計の針はそんなに早く止まってはいけないんです…。」
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「正直、難しいな…如月はどう考える?人気が出てきたがそれは好きなことから仕事になったと分かったら…向き合えるか?」
「そうですね…以前、探偵さんが話してくれた趣味の領域を出るほどの情熱があるのならば。あるのであれば向き合えます。」
以前助手に話した、趣味の領域を超えて働けるかどうか。如月はそれを基準にしたようだ。実際自分でもそうするだろう。だが問題点もある。例えば、仕事にするまで大丈夫だと思っていた、こんなはずじゃなかった、というタイプである。今回はまさにそれなのだ。
「うーん、どうしたもんかなぁ。」
お手上げ、という感じであった。
「でも、例えばの話ですけど、例外もあると思います。」
思い出したかのように助手が言葉をつなげる
「その、うまく言えないですけど。初めて依頼を終えた時とか、解決するのに自分の力が大きく関わった時とか、こう…なんていうか心から、この仕事しててよかったって思うんです。そういった時って趣味の領域を超える情熱がなくても、仕事として向き合えるような気がします。」
達成感、平たく言うとアドレナリンであろうか。如月の場合、その影響を大きく受けるようだ。今回の『依頼人』にも当てはまるところはないだろうか、小説が好きな『依頼人』が小説を書き上げた時、達成感に浸って誰かに見てほしい、とならないのだろうか。いや、ならないはずがないだろう。『依頼人』は小説が好きなのだ、少なからずそういった快感を体が覚えているのではないだろうか…。
そうか…なんとなくだけど、わかってきたような気がする。やはり核心に迫る言葉をぽろっとこぼすうちの助手は天才なのではなかろうか。




