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探偵と『依頼人』(2)

なんとなく、なんとなくではあったが口を開くのを躊躇ってしまう。助手の心はどうにも動かずにいるようだった。さっきまでいた場所を考えると何を言っても虚しいように思えてしまう。


「事務所に帰る前に寄りたい場所がある、行ってもいいか?」


信号待ちで車が止まると探偵は口を開いた。助手(わたし)に許可をとる以上、関係のあることなのだろう、ならば断る理由もない。助手は無言で頷いた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


やってきたのは見覚えのある街、以前怪しい宗教に引っかかってしまった『依頼人』のことを調べた場所だ。如月はこれから行く場所とその目的をなんとなく察した。


探偵が1つの家の前で止まった、チャイムを押すと程なくして一人の男が出てくる。以前探偵が声を荒げた『依頼人』であった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「先日は手荒なことをしてすみませんでした。」


「いえ、お気になさらず…。」


とても静かな会話が続く。


「あの時、言ってましたよね。生きることを諦めるな、って。少し経った今なら、なんとなくわかる気がするんです。今まで積み重ねてきたものを簡単に捨てちゃいけないのかな…って。」


その時の言動は乱暴であったが、思いは伝わったのだろう。『依頼人』は少し笑いながらゆっくりと話を続けた。


「多分あの時、優しく慰められでもしたら…私は結局自殺を選んでいたと思います…。あの時、貴方が叱ってくれたおかげで目が覚めました…。」


「踏みとどまったのは俺じゃなくて貴方です。もっと自分に自信を持ってください。」


言葉が見つからなかったのか探偵はそれしか言わずに黙ってしまった。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「思いって、伝わらないことばかりじゃないんだよね…。」


帰りの車の中、如月はそっと呟いた。


「そりゃあそうさ、伝わらないことばっかりだったら人間はもっと悲しい生き物だったろうよ。」


独り言のつもりであったが言葉が返ってきた。


「もちろん伝わらないこともある。でもな、それでも!って手を伸ばしたら、伝わることもあるもんなのさ。」


「なんか…よかったです。」


助手は言葉にならない思いをありきたりな言葉に乗せた。


「おう、よかったな。」


探偵は言葉にならない思いを、その心をありきたりな言葉から受け取った。

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