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わからない人間(3)

手詰まりであった。『依頼人』の自殺の要因は自分が何をしたいのかわからないということ。


「でもなんで何がしたいかわからなくなったんだ…それがわからないと…。」


いつも以上に頭を悩まさる問題にぶつかり自然と独り言が漏れる。何度か話を聞いているのに一向に先が見えない。まるで闇の中を彷徨っているような感覚だった。唸ってばかりの探偵に対し如月はコーヒーを差し出しながら探偵の悩みがわからない、とでも言うように聞いてきた。


「別に…そこがわからなくてもいいんじゃないですか?」


「いや、要因がわからないと解決できないだろ?そうしないと『依頼人』は自殺してしまう。」


流石にそれは能天気ではなかろうか、などと思いつつも如月に事実確認にも似た解説をする。だが如月から返ってきた言葉は意外にも秀逸なものであった。


「私たちの目的は自殺をさせないこと、であって自殺をやめさせること、ではありませんよね?ではその要因、とやらはわからなくても多分大丈夫なのでは?」


目から鱗だった。うちの助手(きさらぎ)は助手であるのに考え方が自分(たんてい)に似ずに独立している。感性が鋭い、といえば簡単な話だがその年でこの考え方に、しかも自分の力だけで辿り着くのは珍しいのではなかろうか。


「なにか、あるんだな。話してくれないか?」


話を聞いた探偵は大きく息を吐き、「おいおいマジかよ…。」と助手に対して驚きを隠せず事務椅子にひっくり返った。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「まだ…何をしたいか見つからないですか?」


「はい…。」


「ちなみに、ですけどご両親はそれに対して何か言ってたりしますか?」


「いえ…愛されてるのか…それとも見放されたのか…何も言ってこないです。」


探偵は1つ息を吐き時間に制限がかかってないことに安堵の息を吐いた。


「いいじゃないですか、何がしたいのかわからなくて。」


『依頼人』は探偵の言うことがわからずに黙ったままであった。それを気にも留めず続ける。


「したいことが見つかるまで悩んでいいじゃないか。やりたいことを探すのって子供の頃からやってたじゃないですか、難しく考えることじゃないですよ。それに、したいことを探すのって…なんていうか、キラキラしてて、美しいですよ?まだ時間はあります、探しましょう。自殺するのはその後で。」


如月から聞いた、いや教わったと言うべきか、自殺をさせないという考え方。それを利用した考えを探偵はゆっくりと語る。そしてキラキラ、美しい、と言う単語に『依頼人』の顔が少し崩れる。


「それもまあ…そうなのかも…ですね。自分も…キラキラしたいです。自殺はまだ早いですね…もう少しだけ…頑張ってみます。」


考え方を変えただけ、視点を少し変えただけ。それだけなのに、ただそれだけで人は大きく変わることができる。

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