探偵と助手(3)
「いやー、探偵さんって本当に大馬鹿者なんですね。私びっくりですよ。」
探偵の助手は帰ってきて早々に自らの上司を小馬鹿にしたような態度で語り始めた。清水如月という人間にとって探偵は自分の命の恩人であった、しかしながらその時の人間と同じとは思えないほど事務所を出て行く時に見た探偵は挙動不審であった。みっともない、情けない、男らしくないなど大量の罵倒の言葉を浴びせることもできる。だが今回は少なからず自分の方にも非がある。そういった思いが少なからずあるためこれ以上は言わないでおく。
「…返す言葉も無いな。で、どうだったんだ?」
苦笑いを返しつつ『依頼人』について問う。放棄したのは事実だが気になっていたのもまた事実であった。
「そうですね、本当に忙しいだけで、話せばわかるタイプのご両親でした。家族で話し合って決めるそうですよ。念のため何度か事務所に訪れてその都度現状を話すように言っておきました。」
『依頼人』が家族に頼れるために事務所の人間に依存することはないと判断し、さらには探偵への報告も兼ねての行動。ほぼ完璧に近い行動に脱帽であった。
「まあ、それはそれとして…。」
急に声の調子が変わった。嫌な予感がした。そしてそれは数秒のうちに現実となるのであった。
「今回、私頑張ったと思うんですよ。探偵さんに勝手にしろって見捨てられましたし?それでも目的はしっかり果たしましたよ。少しぐらい役職手当のようなものがあっても良いのでは?」
「いや、役職手当があったとしたら事務所で一番上の俺はどうすればいいんだっての…。」
「知りません!で、確か駅前にケーキ屋さんがあるじゃないですか?あそこのケーキ美味しいんですよねぇ…。」
現金な助手だ…と心の中で溜息をつきたくなる衝動を抑えながら
「今回だけだからな。」
男は財布を取り出し今夜の食事が質素になることを覚悟するのであった。




