探偵と助手(2)
「怖がってる、ね…。別にそういうわけじゃないんだけどな。いや、如月から見たらそういう風に見えたんだろう。」
自分でも自分の心情が理解できない、まるで心だけがどこかに行ってしまったような感覚だった。
「自殺を考え直させるってのは、そう簡単じゃないし、辛いってのもわかってる。こんなところで怖がってどうするんだ…。」
昔の記憶が蘇る
自ら命を絶つってのはな…思っている以上に苦しくて痛いんだ。
いつか聞いた言葉、探偵が探偵になる前の言葉。そしてそれは全ての始まりの言葉であった。
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あれから数日が経った。探偵とその助手の関係は良くも悪くも変わらずにいた。必要最低限のことしか話さずその会話も素っ気ない。もしお互いに非を認めることがあったとしてもタイミングを完全に逃していただろう。事実、探偵の方はというとどこかで詫びようと思ってはいるものの今更詫びで済むものか、などと考えていた。
「行ってきます。」
短く一言だけ伝え助手は玄関を出て行く。おそらく『依頼人』と一緒に両親と面談するのだろう。如月にはまだ探偵として仕事を任せられるほど多くのことを教えてはいない。となれば考えられるのはそれしかなかった。
ここを逃せば機会は完全に潰えてしまうぞ、とでもいうかのように探偵の中で警鐘が鳴り響いた。
「如月…。」
助手が振り返る。途端に頭の中が白に染まった。何を言えばいい。ここで謝って今更何になる。そんな思いがそうさせたのだろうか。口を開けては声にならない言葉を吐き出しては口を閉じ、また口を開けたかと思えば出てくる言葉には音がない。それを何度繰り返しただろうか。
「行ってきます、探偵さん。」
助手の方から声をかけられハッとさせられた。
玄関を出て行こうとした時とは明らかに違う声。いつまでも同じ場所で止まっていた自分とは違う、彼女は今でも前を向いて、新しい一歩を踏み出そうとしている。情けない、自分が本当に情けないではないか。
男は両手で力の限り頰を叩くといつもと同じ口調で口を開いた。
「行ってこい。頼んだぞ、如月。」
今度はしっかりと言葉が音になって助手の耳へと届いた。まだ頰がジンジンと痛んでいる、強く叩きすぎてしまったようだ。だが今はその痛みさえも忘れるほどに声をかけれたことを喜んだ。




