既視感を感じる女子高校生(3)
『依頼人』は帰っていった。日を改めてまた事務所に来ると言い残して。
「…あのな、如月。それは悪手だ。」
「なんのことですか?」
言葉の意味がわからないとでも言うように首をかしげる。
「必要以上に『依頼人』に関わるのは良くない。俺らに依存するのは避けたい、わかるか?」
自分たちはあくまで自殺願望のある人間の話を聞き自殺を考え直させるだけ、ただそれだけなのだ。事務所であったことは何事もなかったかのように全て消えゆくものでなければならない。
だが今回如月の行おうとしてることはそれに反する。必要以上に近づいた行動を取っているという点で探偵は助手を咎めた。
「…わからないです。」
「今…なんつった?」
帰ってきたのは探偵の頭の中にはなかった言葉。予想外の言葉に多少の苛立ちを覚える。
「必要以上に関わってはいけないのは…わかります。でも…でもそれで彼女が依存するとは限らないじゃないですか。探偵さん、慎重になりすぎなのではないですか?」
「お前こそ、似てるからって情がわいてるんじゃないのか?親との話し合いに立ち会っている時点でそれは依存してしまっているのと同じだ。」
吐き出した言葉に噛みつかれ感情が露わになる。
「探偵さんだって、何かあったらここに来い、我慢できなかったらここで吐き出せって言ってるじゃないですか!それこそ依存なんじゃないんですか!?」
「他の『依頼人』を例に挙げるな!何かあったら来るように言ってるのは、それがその人にとって一生背負っていく問題になるからだ!」
学びという過程、職を探している途中、そういった中での自殺をしそうになったという結果、それは一生つきまとってくる。うまく付き合っていかなければ最悪また自ら命を絶つという衝動が芽生えかねない。そうなってしまわないように、心の中に溜まった暗く苦しいモノを事務所て吐き出すために探偵は辛くなったらここに来い、といってきた。それが助手に伝わってないことに憤りを覚えてしまい自然と声が大きくなった。
「第一、そんなに『依頼人』に寄り添ってしまったら…自殺した時が辛い…。お前も以前経験しただろう…自殺して、家族に恨まれて…。」
「…見損ないました。」
吐き出された言葉は深く突き刺さった。
「探偵さん、自殺を考え直してもらえないんじゃないかって怖がってるだけじゃないですか。なにビビってるんですか!?そんなんでよくここまでやってこれましたね!凄いですよ、凄い大馬鹿者です!」
そうじゃない、そうじゃないんだ。心の中では違うと否定をする。だが、場の空気に毒され出てくるのは棘を含んだ痛い言葉だけ。
「そうかそうか、ならいいさ!それなら勝手にしやがれ!」
「ええ!探偵さんに言われなくてもそうさせてもらいます!」
ラックにかかった上着を強引に掴むと勢いよく玄関扉を開けた。
「…少なくとも。少なくとも私が自殺しようとしてた頃の探偵さんは依存のことなんて考えてなかったように見えましたけどね。」
吐き捨てられた言葉は探偵の耳に届き、そして消えていった。事務所に1人残された探偵は深く息を吐くと事務椅子にもたれ天井を見上げた。




