case5 既視感を感じる女子高校生(1)
「お、お邪魔します…。」
ひとりの女性が事務所に入ってきた。ドアをゆっくり開け、自分が入れるぐらいにまで開いたかと思うと足早に中に入る。そしてまたゆっくりとドアを閉めた。若干震えた声とローファーが床を叩くコツン、カツン、といった音がなければそこに入ってきたことすらも気づかなかったほどの静かさ。未知の領域に足を踏み入れた戸惑いと何か重く苦しいものを背負っているであろう女性の顔を見て探偵は既視感を感じた。
「いらっしゃい、こちらへどうぞ。」
既視感の正体が何なのかという思考は表情には出さない。
表情にしてしまうと相手が戸惑ってしまうためだ。ただでさえ今回は女性であるため注意を払わなければならない。そんなことを考えつつゆっくりと反対側の椅子へと腰をかける。
「どうぞ、熱いので気をつけてください。」
程なくして如月が紅茶を持ってくる。いつもであれば如月は少し後ろからまるで会社にいる秘書のように静かに話を聞いている。
しかし今回は探偵の隣に座った。探偵が隣を見やると隣では助手がそっと口を動かしていた。
「き、に、し、な、い、で、く、だ、さ、い」
大方そんなことを言っているのだろう。いくつか聞きたいことはあるが黙っていつもと同じように話を続ける。
「君は、あのサイトに自殺をしたいと言っていたわけだけど、何故だかおしえてくれるかな?」
探偵は『依頼人』に対する既視感が何であったのかすぐに理解した。
「私は…高校でいじめにあっています…。」
如月だ。今隣に座って話を聞いている助手こそがその既視感の正体だった。
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私は大学でいじめにあっています、耐えられないので自殺しようと決めました。
いつか聞いた声が再び聞こえてきたような、そんな気がした。




