探偵と殺し屋
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「じゃあ、そういうことだからいつも通り口座に入金しておいてくれ。」
「ああ、わかった。にしても、今回は請求が遅かったな。」
探偵の会話の相手は仕事の相手でも『依頼人』でもない。それは殺し屋の男であった。以前会社員の自殺を止める際に彼に依頼をした。
「いや、あんな空気でそんな話できるかっての。それに、依頼人はお前だ。お前は金を払わないようなことはしないだろ。」
「まあな。」
殺し屋は壁に掛けてある時計を一瞥すると、そっとコーヒーカップを置き立ち上がった。
「忙しいやつだなぁ、次はどこのお偉いさんだ?」
皮肉めいた言葉に中指を立て男はラックにかけてある上着を手に取った。
「如月、外まで見送ってくれるか?」
「え?あ、はい。わかりました。」
若干戸惑いつつも如月は男の背中を追った。
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「わざわざすまない、あまり気は使わなくていいんだがな。」
「探偵さんって変なところで律儀ですもんね。」
顔を見合わせ互いに苦笑いする。
そこからはとりとめのない話が続いた。時たま冗談にならない言葉が交わされるが仕事柄仕方のないことだろう。
「コーヒー、美味かった。あいつが淹れるよりすっといい味だったぜ。昔は本当にひどかった、不味いなんてもんじゃない。毒殺できるレベルなんじゃないかって疑ったぐらいさ。」
「昔…ですか。」
そういえば私は探偵さんの昔のことを知らない。と、いうか彼のことをほとんど何も知らない。
「おっと、長話してる場合じゃねえわ。それじゃ、また。運が良ければ、悪ければ、なのか?まあ、どっちにしろ、縁があればまた会おうぜ。」
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「長かったな、仲良くなれたか?」
「おそらくは。…正直まだ殺し屋を利用することには納得いきませんけど。」
次第に暗くなっていく言葉を気にも留めずに探偵は話を続ける。
「このあと、『依頼人』が来るからな。」
「このあとですか?わかりました。ちなみに、『依頼人』について、何かわかっていることはありますか?」
「特には…いや、今回は少し変わったタイプかもしれない。書き込みを見る限りは…なんというか、特別な理由で自殺に至った訳じゃなさそうだった。」
まるで探偵の言葉を合図にしたように辺り一面に凪が訪れた。




