信じることのできないフリーター(3)
「嘘ですよね…。」
如月はやっとの思いで言葉を吐いた。得体の知れない脱力感とどうしようもない虚無感に襲われ目眩がしそうだった。
「嘘…だったら良かったな…。」
「どうしようもなくなったら事務所に来て…何度も事務所に来て…それなのに…」
受け入れられない現実に言葉が詰まる。
「俺たちのことも信じられなくなってしまったんだろうな…何もかもが信じられなくなって、それで自殺に至ったんだろう…。」
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とても重い空気の中、如月がゆっくりと静かに口を開いた。
「今まで…誰かの自殺を救えなかったことってありますか?」
「ああ、何度もある。そしてその度に己の無力さを痛感している。」
再び重い空気が流れる中事務所の扉が開き、一人の年老いた女性が入ってきた。
「いらっしゃい、どういったご依頼でしょう?」
絞り出したような声は重苦しい雰囲気を隠しきれずにいた。
「うちの息子が…ここの事務所に度々訪れてたみたいで…。」
事務所に入ってきた女性は自殺した男の母だった。そこでたくさんの話を聞いた。就職活動が順調であったこと。男が以前より元気に見えてたこと。そして、男が自殺した時のこと。
「正直、私は貴方達を恨んでいます。貴方達のせいで息子は自ら命を絶ったのも同然なのですから…。でも…それでも…私は貴方達を憎んだりはしません…。」
そう言い切ると同時に一冊のノートをバッグから取り出し、机の上に差し出した。
今日は不思議な1日だった。探偵の事務所に呼ばれたと思ったら自殺をやめてほしいと言われた。あいつらには関係ないだろう。
あれ以来初めて事務所に自分から訪れた。思ってることを全部吐き出して少し楽になった。
また事務所で不満を吐き出してきた。なぜそこまでしてくれるのだろう
…
…
…
今はもう自分さえ信じられない。事務所の方たちには感謝している。たくさんのことを聞いてもらった。時には一緒に悩んでくれた。それでも自殺に行き着いた自分が情けない…最後の願いです。そんな僕を…どうか許してください。
「あっ…あぁ…」
堪えきれず涙をこぼす如月に探偵はそっと肩を叩いた。
「俺たちがやってきたことは無駄じゃなかったさ…だから、胸を張れ…。」
精一杯の強がりであった。




