どこかで見たような大学生(2)
「私は大学でいじめにあっています、耐えられないので自殺しようと決めました。」
いつか自分の言った言葉を思い出した、あの時の自分と同じ。周りに味方がいないと感じる不快感、胃が焼けつくようなやり場のない怒り、そして次第に増えていく虚しさ。自分とほぼ同じ『依頼人』さんが目の前にいる。
「わかります…その気持ち、その辛さ。」
普通ならばその言葉に無責任だと罵声を浴びせるだろう、だが『依頼人』は何も言わずに如月の言葉を聞いていた。
「私は、大学を辞めてそれを解決できました。例えばの話ですが、それは無理ですか?」
ゆっくりと問いかける。その問いに対して『依頼人』は震える声で語った。
「無理じゃ…ないですけど、僕は、勉強を…したいんです。」
なるほど、なにもなかった自分とは大違いだ。たしかな理由を持って大学に通っている。だがそれ以上に大きな要因が大学で勉強したいという理由すら侵食していってる。
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言ってしまえば如月は学びに対して無関心であった。だから探偵の言葉はすぐに届いた。だがその点で今回の『依頼人』は如月とは違う。そこを本人はどう対処するだろうか。
探偵の意識は如月と『依頼人』の方から離れなかった。感覚の鋭さを評価したからこその今回の一件だったがどうだろう。心の隅には助手が何処かへ行くのを引き止めたいのかもしれない、探偵自身も迷っていた。
「じゃあ…逃げちゃいましょう。」
如月の一言で何処かへ行こうとしていた意識が引き戻された。
「それは、どういうことですか…?」
『依頼人』は如月のことばを恐る恐る聞き返した。それに対して顔色一つ変えずに如月は続ける。
「文字通りです、いじめに遭いそうになったら逃げましょう。ただそれだけのことです。でも…それだけでも変わってくることはあります。」
それは探偵にとって予想外なことだった。今までであればそろそろ自分に助けを求めてくる、そう考えてしまっていたからだ。
「でも…逃げることって間違ってるんじゃないんですか?」
『依頼人』の言葉が突き刺さる。




